【あの人の家へ】第3話:長期滞在のゲストを迎えられるようリノベーション。大人のシェアハウスに

ライター 大野麻里

憧れの “あの人” のお宅を訪問し、生き方と住まいについて話を伺う特集「あの人の家へ」。

今回は、1970〜80年代にアンティークバイヤーとして活躍し、現在はギャラリー「DEE’S HALL」のオーナーをしている土器典美さんのお宅を訪ねました。全4話でお届けしています。

3話では、ゲストが泊まれるようにリノベーションした2階について。加えて、家づくり全体の話も伺いました。

 

一軒家の2階部分をゲストルームにリノベーション

1階をギャラリー、2階と3階を居住空間にしている土器さんの自宅。約7年前、2階のスペースをゲストルームにリノベーションしました。一緒に暮らしていたパートナーが旅立ったこともきっかけのひとつだったといいます。

土器さん:
「よく外国からの友達が来るのと、1階で展覧会をする作家さんたちも、東京に来るとホテルをとるでしょ。いつも都内で安いホテルを探したりしていたから、うちの2階を泊まれるようにしたらいいかなと思って、大きく変えました。

一軒家にひとりというのもさみしいし、家の全部を使いこなせないという気持ちもあったので」

お客さんがいるときは一緒にごはんを作ったり食べたりして、楽しい時間を過ごすのだそう。こんなに心地のよい家に宿泊できるとは、うらやましいかぎりです。

土器さん:
「私も生活しているから、ここには仲のいい友達しか泊まれないけど。みんな長居するんですよ。10日とか2週間とか、長いと1ケ月とか(笑)。自由にのんびり滞在していきます」

▲ゲストルームのバスルームは、テラスの隣の特等席。サンルームのようにたっぷりと光が入る、ぜいたくな空間

 

都会のまんなか暮らし。家にいる時間が多くなった

土器さんのお宅が、お客さんに人気なのは、家の快適さはもちろん、都心のまんなかという便利な立地のよさもあるでしょう。1本先の通りは、観光客でにぎわっている環境なのが信じられないほど、ここには静かな空気が流れています。

土器さん:
「都心だから、家を建てるとき場所を探すのが大変でした。ビルとビルに挟まれていたらこの雰囲気はかなわないから。この場所を見つけたときはうれしかったです。

うちの周辺は建築の規制があるので、まわりに高い建物がないのも好きなところ。テラスに出ると青空がばーんと広がって気持ちいいんです」

土器さん:
「青山に40年住んでいるけど、前は個人経営の小さな店やカフェがたくさんあって面白かった。骨董通りという名前がつくくらい骨董屋さんが多かったし、いろんな店をのぞいて歩くのが大好きだったの。

でも最近は家賃の値上がりのせいか、お店の雰囲気も変わりました。インテリアショップや雑貨屋さんもずいぶんなくなりましたね。混雑しているから、外への興味は次第に薄くなって、家で過ごす時間が増えました」

 

どの部屋にも光と風が入る、回遊性のある間取り

家の間取りは実にユニーク。1階から3階まで、中央部分が吹き抜けになっていて、どの部屋も明るいのが特徴です。部屋をこまかく区切らず、吹き抜けをぐるりと囲むように寝室、リビング、キッチン、バスルーム、テラスがゆるくつながっています。

土器さん:
「この家はつきあたりがないんです。そういう開放的なのが好きなのかな。窓が多くて、光と風が通って」

土器さん:
「こまかいことにこだわりはないんですよ、私。光が入るとか、風が入るとかそういう空気感と、キッチンの配置とか全体的なことは気になりますが、スイッチがどうとかそういうこまかいところは気にならないんです。

だから建材も、予算内で一番安いのでいいですって言って。床はふしの多いベイマツで、キッチンの床はPタイル。壁は構造材のベニヤにペンキを塗っているだけだし、天井は有孔ベニヤで、家をつくっているときは小屋みたいでした(笑)」

壁や天井は、すべて白に塗装。外国では「ホスピタルホワイト」と呼ばれる真っ白いペンキでクールな印象に。

土器さん:
「ちょっとアトリエみたいにしたかったの。壁が徹底的に白くて画家のアトリエみたいな、緊張感のある”真っ白な箱”に住んでみたかった。うちの日当たりがよすぎて、いまは自然となじんで落ち着いた白になっています」

取材した日は天気がよく、どの部屋も明るく、心地よくて、時間が経つのを忘れるほど素敵な空間。自身のことを「こだわりがない」という、土器さんの持ち前のセンスと感覚に驚かされるばかりです。

最終話となる4話では、土器さんの考える「居心地のいい家」についてお話を聞きました。「おしゃれな部屋だから心地いいというわけではない」。その言葉が意味する考え方について、探ります。

 

(つづく)

【写真】有賀 傑


もくじ

土器典美

東京・南青山にあるギャラリー「DEE’S HALL」オーナー。ロンドンでアンティークバイヤーとして活動したのち、1980年にアンティーク雑貨店「DEE’S ANTIQUE」を開き、雑貨ブームの先駆けとなる。2001年に現ギャラリーをオープン。料理やライフスタイル、海外旅行などのエッセイや写真をまとめた著書も多数。

ライター 大野麻里

編集者、ライター。美術大学卒業後、出版社勤務を経て2006年よりフリーランス。雑誌や書籍、広告、ウェブなどで企画・編集・執筆を手がける。ジャンルは住まいやインテリア、ライフスタイルなどの暮らしまわり、旅行、デザイン関係などが中心。


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