【はじめましての春に】前編:ラジオDJ秀島史香さんに聞く、初対面の人との向き合いかた。
ライター 嶌陽子
初めて会う人と、どうやって言葉を交わせばいい?
新しい土地への引っ越し。職場での異動。子どもの入園や入学。春はなにかと「はじめまして」の多い季節です。
期待やワクワク感もある一方で、少し憂鬱なのも事実。「初めての人とどんな言葉を交わしたらいいんだろう」「大勢の前で自己紹介するのが緊張する」等々……。知らない相手とのコミュニケーションは、何歳になっても、何回経験しても慣れません。
どうやったらもっと初めての人と気楽に言葉をやり取りし、コミュニケーションを楽しめるようになるのでしょうか。今回は、そのための考え方やコツを探ります。
実は人見知り? ラジオDJ秀島史香さんに会いに行きました。
お話を伺ったのは、ラジオDJの秀島史香(ひでしま・ふみか)さん。DJ歴は20年以上、これまでに数々のラジオ番組を担当してきました。温かみのあるハスキーボイスや、飾り気のない率直なトークを耳にしたことのある人も多いはずです。プライベートでは、小学生の娘を持つ母親でもあります。
ラジオ番組には、毎回様々なゲストが登場します。初対面の人と会話をしなければならないのがDJという仕事。これまでに膨大な量の「はじめまして」を経験した秀島さんは、どうやって相手と打ち解けているのでしょうか。
秀島さん:
「実は私、小さい頃からものすごい人見知りなんです。今でも番組ゲストとの『はじめまして』は毎回緊張します。でもそれが人として当然ですし、人間の本能だと思うようにしています。『研鑽をつめば緊張がなくなる』と思っていると、きっと永遠に悩み続けてしまう。
だから『どうやったら緊張しないか』ではなく、『どう緊張とつきあうか』というスタンスでいます。ドキドキしてきた時に『だめだ、いけない!』と自分にダメ出しするとかえって逆効果。『まあ、そうだよね』って、まずは緊張している自分を受け止めてあげると、慌てずにすむと思うんです」
「いいことを言おう」が目的じゃないから、笑えればそれで合格。
秀島さん:
「仕事以外でも、初対面は緊張します。たとえば娘の小学校での保護者の初顔合わせ。ひとりずつ挨拶する時もドキドキしちゃって。『あ、それ言おうと思ってたのに先に言われちゃった!』とか。
でも、こう思うようにしてるんです。初めて会う人の前で『いいことを言おう』『面白いことを言おう』って思わなくてもいいんじゃないかなって。言おうと思っていたことを先に言われたなら『先ほどの方と同じ気持ちです』だっていい。
目的は自分をアピールすることではなくて、懇親することですよね。その場のゴールは何か、それを意識することが一番大事だと思うんです。
実はDJの仕事でも、コミュニケーションは逆算だと考えています。まず、その場の目的は何かを明確にする。ラジオを聴いてる人は、どんな話題を選べば喜んでくれるのか。ゲストからどんな話を聞き出したいのか。そのうえで何を話すべきか、自分がどんな役割を果たすべきかを考えるんです」
秀島さん:
「もしもその場の目的が『これからよろしく』と和やかに伝え合うことなら、ニコニコしているだけでも合格ラインはクリアできているはず。
会話にしても、最初からものすごく話が弾んだり、『心と心が通じた!』と感じられることってそんなにありません。気持ちよく『言葉のやり取りができた』だけでも十分合格点だと思いますよ。
その際、なるべく笑顔でいたり、目があったらニコッとしたり会釈したりする。小さなことですが、『オープンな人だな』『話しかけやすそう』というサインを出すことを意識するのは大事だと思います」
借り物の言葉ばかりだった、20代。
▲新人DJだった20代の頃の秀島さん。
「印象に残ることを言わなくちゃ」と肩に力が入ったり、「話が弾まなかった」と落ち込んだり。これまでの経験が、秀島さんの言葉ですっと小さくなっていくような気がしました。そんな秀島さん自身も、20代の頃は今よりもずっと気負っていたといいます。
秀島さん:
「新人DJ時代は『いいことを言おう』と頑張っていました。今思うと『どやアピール』というか(笑)、とにかく自分自身を認めてもらいたいという気持ちだったんですよね。格好いいことを言おうとするので、口から出るのは自分の本心から出たものではない、借り物の言葉ばかり。ひとりで空回りしては、自分にダメ出しして、気持ちもどんどん小さくなっていく…… 完全に悪循環ですね。
そんな経験を続けて、ある時気づいたんです。自分の役割は、聴いてくれる人にとって、心地よい空気を作ること、少しでもハッピーな気分になってもらうことだって。それからはゴールを意識しながら、もっと自分の言葉で話せるようになった気がします」
なるべく早く、自分から「全部脱ぐ」ように。
初対面でぎこちないのは当然。それを前提に、その場全体の目的を達成できればまずはOK。そのうえで少しでもコミュニケーションを楽しむには、どうすればいいのでしょうか。
秀島さん:
「DJ仲間とはよく『相手の心を開くには、なるべく早く自分から全部脱ぐことだよね』と話しています。
DJは、ゲストやリスナーの話を引き出すのも仕事。でも、相手に『あなたのことを教えて』と要求しておきながら、自分のことは何も教えないのはフェアじゃないですよね。だから恥ずかしい話や失敗談も含め、まずはある程度自分をさらけ出す。でないと、相手も自分を見せてくれません」
もうひとつ、秀島さんがDJとして意識していることがあります。それは、相手のペースに合わせてみるということ。
秀島さん:
「ゲストには色々な方がいらっしゃいます。無口な方、シャイな方、のんびり話す方。そういう方と話していると、時には会話が途切れて間があいてしまうことも。でも、そこで焦ってしまって、ぐいぐい自分のペースで喋っていたら、相手はますます引いてしまいます。
だから相手のペースに合わせてみるんです。相手がゆっくりだったら自分もゆっくり話してみる。すると、相手の緊張もほぐれて会話が流れ始めることが多いです」
自分にも相手にも、「うまく会話する」ことを期待し過ぎない。
相手に心地よく思ってもらうことが第一。それが結果的に、自分自身も気持ちよく会話を楽しめることになる。それが、これまで大勢の人とコミュニケーションをとってきた秀島さんが実感していることです。
秀島さん:
「私も今まで何度も冷や汗をかいたり失敗してきたりしました。大事なのは場数を踏むことだなって思うんです。会話がはずまなくても必要以上に落ち込まなくていい。ひとりの人間だって、日によってコンディションが違うし、饒舌な日とそうでない日があるんですから。
自分に対しても、相手に対しても、期待値をあまり上げ過ぎず、『うん、こんなものかな』くらいのおおらかな気持ちでいた方が、結果的にいろいろ楽になりますよ」
人見知りの背中をやさしくさするような話をしてくれた秀島さん。続く第2話では、秀島さんが会話力、表現力を高めるために日頃からしていることを伺います。
(つづく)
【写真】鈴木静華
【ヘアメイク】小林亜珠(nu+LIM)
もくじ
秀島史香
ラジオDJ、ナレーター。1975年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。慶應義塾大学在学中にラジオDJデビュー。FM局のDJ、TVやCMのナレーション、絵本の読み聞かせ、通訳や字幕翻訳、執筆活動などで活躍。Fm yokohama「SHONAN by the Sea」、JFN系各局「Pleaseテルミー!マニアックさん、いらっしゃ~い!」などに出演。また、Eテレ「デザイントークス+」、JAL機内放送など担当。著書に『いい空気を一瞬でつくる 誰とでも会話がはずむ42の法則』(朝日新聞出版)。 「秀島史香のブログ」の他、Instagram(@hideshimafumika)、Twitter(@tsubuyakifumika)も更新中。
ライター 嶌陽子
編集者、ライター。大学卒業後、フリーランスでの映像翻訳や国際NGO職員を経た後、2007年から出版社での編集業務に携わる。2013年からフリーランスで活動を始め、現在は暮らしまわりの記事や人物インタビューなどを手がける。執筆媒体は『クロワッサン』(マガジンハウス)、『日経ウーマン』(日経BP社)など。プライベートでは1児の母として奮闘中。
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