【住まいは語る】第1話:主役はキッチン。人生の真ん中に「食」がある暮らし

ライター 藤沢あかり

住人の選びとったものがあり、日々、生活という時間を重ねていく住まい。

その人らしさや人生観を映し出し、もしかしたら自己紹介よりも雄弁に、なにかを語ってくれる場所かもしれません。これまで歩いてきた道のりや、大切にしてきたこと、そしてこれからの生き方。

特集「住まいは語る」では、魅力的な生き方をしている方を訪ね、住まいを通して照らし出される内側にクローズアップしてお届けします。

今回、そのご自宅を訪ねたのは、アタッシェ・ドゥ・プレスの鈴木純子さん。ライフスタイルにまつわる企業のブランドを、フリーランスの立場で請け負っています。

「食べることがなにより好きだから」と、食まわりのPRも手がけると同時に、プライベートでは年に数回、フランスに自然派ワインの造り手をたずねることをライフワークとしています。

 

決めては四ツ口コンロ。ひとめぼれした、キッチンが主役の住まい

アーチを描いた天井と、一面の窓越しにそそぐやわらかな光。オーソドックスな白い陶器のシンクボウルに、整然と並ぶタイル。そして料理好きなら一度は憧れる、フランス・ロジェール社のクラシカルなコンロとガスオーブンが、静かに存在感を放ちます。

鈴木さん:
「住まいを探す条件は、緑がすぐそばにある静かな場所。でも、職業柄、都心へのアクセスの良さも手放せませんね。

それからできれば、四ツ口のガスコンロです。

ここは、お料理好きの方が住まわれていたのか、使いやすくこだわってつくられたキッチンなんです。そこにひとめぼれして入居を決めました」

▲ベランダから手折ったハーブは、料理にフレッシュな香りを添えたり、そのままドライにしたりと、毎日に欠かせない存在。

▲フランス・コリウールの海岸で拾った石は、カトラリーレストに。

かごや器、野菜や果実、スパイス、ハーブ。さらには、散歩の途中で拾った木の実や、抜栓したワインのコルク、友人からもらった瓶詰めなどがレイヤーのように重なりながらも、どれもが主役のようにいきいきとしている鈴木さんのキッチン。

それは、単に「ディスプレイ」ではなく、「必要で大切なもの」ばかりだからかもしれません。どれも、ひとつひとつがそこにある理由や物語をまとっています。

▲カウンター上には、料理好きの鈴木さんらしいスパイスがずらり。立てかけたワイヤーネットには、ブラシやミトンを留めて。

▲ガラス作家、ピーター・アイビーのガラスキャニスターを米びつに。

▲カッティングボードは旅から持ち帰ることも多いそう。手前はフランスで出合った古いもの。

 

一人の時間も、誰かとの時間も、キッチンにいるのが楽しい

自宅を兼ねる事務所で仕事をする鈴木さんにとって、句読点となるのは大好きなキッチンで食材に向き合う時間だそう。料理はもちろん、ハーブティーを淹れたり、イチジクの木から摘んだ葉の香りを楽しんだり。好きなもので埋め尽くしたキッチンは、五感をフルに刺激してくれます。

コックピットのようなコの字型は、あらゆるものが手に取りやすく、動線もばっちりです。

鈴木さん:
「料理って、気分転換になるし、限られた時間で完成までたどり着ける達成感があります。

自分のために料理するのはもちろん、人を招いてみんなで飲みながら、食べながら料理を楽しんだりもしています」

取材に訪れた日も、「やいづ善八」のだしと旬のアスパラガスを使った、和風リゾットをササっと作ってごちそうしてくれました。

鈴木さん:
「だしの味って、意外と洋食にも合うんですよ。海外のワイナリーを訪ねるときは食事を作るんですが、だしを使った味噌スープ、つまり味噌汁にバターとハーブを少し落としたり。炊き込みご飯にはバターとイタリアンパセリを添えたりして、わたしたちの文化に、彼らの日常にある食材を落とし込むんです。

いつも食べているものが日本食にも合うんだ、と感じてもらえるのはお互いに嬉しいですよね。それに自然派ワインは、土地の味をそのまま生かした “すっぴんの味”。旬の素材を生かす日本食とも、相性抜群なんです」

▲バターで炒めた米とアスパラに、たっぷりのだし汁を吸わせてチーズをかける。

▲最後に胡椒をひいて、あっという間に完成。だしとチーズの味がかけあわさって、やさしい味わい。器は、イタリア・プーリア地方のぽってりとした陶器プレート。

カトラリーは、ダイニングテーブル備え付けの引き出しが指定席です。

鈴木さん:
「クリストフルなど、お気に入りのシルバーカトラリーは旅先のマーケットで見つけたものがほとんど。

柄のデザインも、少しずつ好みが決まってきて、今はシンプルなタイプが好きになりました。ディナースプーンやフォークはサーバーとしても使っています」

 

緑に抱かれる、小さなアウトドアリビング

気持ちの良いお天気だったこの日、食事は外の空気と一緒に楽しむことに。

ベランダは大小とりどりの緑のおかげで、木漏れ日の下の隠れ家のよう。みずみずしく葉を伸ばすエバーフレッシュにスモークツリー、ミントやタイムなどのハーブが並びます。

▲長い枝を突っ張り棒のように渡し、ディスプレイに。ベランダ内のグリーンと、向こうに広がる木々とが視覚的につながり、まるで緑の中に佇むような場所に。

鈴木さん:
「緑がないと生きていけないかもしれません(笑)。

休日は、ここでおいしいワインをお供にブランチを楽しんだり、お茶を飲んだりして、何時間もいることも。家から出ないでも楽しいですね」

自分でひとつひとつ選び取った、お気に入りのものだけに囲まれ、緑の中でワインを楽しむ鈴木さんの暮らし。

そんな世界に、ため息が漏れるとともに、今のわたしの世界とは違いすぎる……!と感じてしまったのも正直なところ。どうしたって日常には不要なものがあふれてしまうし、生活は避けられないノイズもいっぱいです。

でも、どうやら鈴木さんの「もの選び」の姿勢に、暮らしを変えるヒントがあるようです。

続く2話目では、鈴木さんがものを選ぶときに心がけていること、そのルールについて、お気に入りのアイテムとともにご紹介します。

(つづく)

【写真】濱津和貴


もくじ

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鈴木純子

アタッシェ・ドゥ・プレス。家電ブランド「アマダナ」を経て独立。現在は、老舗だしブランド「やいづ善八」や今治の「藤高タオル」など国内外のライフスタイルブランドのPRを担当している。現在は浅草橋に6月オープンする「CAFE / MINIMAL HOTEL OUROUR(カフェ アンド ミニマルホテル アゥア)」の立ち上げPRも担当。一方、フランスの自然派ワインの生産者めぐりはライフワークとなっている。Instagram: suzujun_ark

ライター 藤沢あかり

編集者、ライター。大学卒業後、文房具や雑貨の商品企画を経て、雑貨・インテリア誌の編集者に。出産を機にフリーとなり、現在はインテリアや雑貨、子育てや食など暮らしまわりの記事やインタビューを中心に編集・執筆を手がける。


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