【山が教えてくれた】後編:自分の感情だって「思いどおりにいかない」もの?

編集スタッフ 糸井 編集スタッフ 糸井

理由もないのにすっきりしない。そんな日が続くことがあります。

朝起きたら「今日もがんばろう」と家を出て、夕方になれば「よくがんばった!」と家路につく。そんな健やかさに憧れがありました。

特集『山が教えてくれた』では、プライベートで10年以上、山歩きを続けているという女優の小島聖さんに「健やかさ」のヒントを伺いました。

山での経験が、彼女の暮らしにどんな影響をもたらしているのでしょうか?

 

生活の基盤は「街」にあると気づいて

自分のことが好きになれる場所ができると、ずっとそこにいたくなる。そんな希望は、ときに今までいた場所をネガティブに捉える気持ちに育つことがあります。

山にいる方が、街にいるよりも楽かもしれない。そう気づいた小島さんにとっての山時間も、一時は「日常」とのバランスを失いかけたことがあったと言います。

小島さん:
「なんだろう、逃げてたとは思わないけれど、山にいるときの心地よさを知ってしまったら、次は街にいる自分に息苦しさを感じるようになって。

あるときは舞台が終わったタイミングとか、あいた時間をすべて山に向けて、生活が逆転していた時期もありました。

でも一方で、仕事も含め、私のベースはやっぱり街にある。日常の地盤がしっかりしていないと、山での自分も成立しないと思い直して」

山の青空の下で食べるご飯は涙が出るほどおいしいけれど、山登りが終わってすぐ、レストランでホイップクリームが山のようにのったパンケーキを食べるのも、最高においしい。

街での買い物や、友達とのランチの時間も捨てられるものじゃない。

そう気が付いた小島さんは、徐々に「日常」と「山」のバランスを考えるように。

山で感じた心地よさ、新しい気づき、それらをひとつずつ「街にいる自分」に取り入れるようになりました。

ここからは、小島さんが山の時間に教えてもらったという、日々の心がけを聞いてみました。

 


山の時間におそわった、
小島さんの日々の心がけ


「諦める」は自分で選びとる

今までは「行きたい! 」と思い立ったら実行できていた、人生の伴走者のような山。それも出産をしてからは、行き当たりばったりとはいかなくなりました。

小島さん:
「出産後でも、今までと同じようにやっていけるだろうと気軽に構えていましたが、なかなか甘かったです。

恥ずかしい話、出産すれば子育ては終わりだと思ってた節があって。でも『そっか、子育てはここからだったんだ』と改めて感じる日々です。

もちろん新しい生活は楽しいし、不自由とは言わないけど、その中で、模索して毎日どうにかやっています。

でも『できなかったこと』ばかりに目を向けていては、ストレスがたまるだけ。AができないならBで解消しようと切り替えられるようになったのは、これまで何度も山の天候の変化と対峙してきたから。

諦める、というと後ろ向きに聞こえますが、自分で主体的に選びとれば前向きな選択になると思うんです」

▲子供が生まれた時に、知り合いに貰ったという3年日記。何を食べた、喋ったなど、その日子供ができたことを小さいことから書き綴っている。

18歳の頃からジョギングを続けているという小島さん。これまでは、毎朝ご飯の前に30分走るのが日課だったジョギングでさえ、出産してからはままならなくなりました。

パートナーに少しの時間、子守を頼むこともありますが、できない日が積み重なっていくことも。それでも、不思議と残念がる様子は小島さんにはありません。

小島さん:
「いま、子供と一緒にジョギングできるベビーカーを買おうかと思ってるんです。アメリカではよく見かけるんですけど、車輪が振動に耐えられるちょっと大きいタイプがあって。そういうのもありかなって」

ジョギングができない日は、ベビーカーを押して長距離を歩いた時間があったからよしとする。今まで普通にできていたことを、ハードルを下げて、マルにする。

何をゴールにするかは、今のコンディションや環境次第で変えればいい。

そんなしなやかな姿勢が、小島さんの健やかさにつながっているのかもしれません。

 

「今なり」の楽しみかたを見つける

小島さん:
「山に行くと、小さい子から年配の方まで、いろんな年齢の人がそれぞれの時間を過ごしているんです。

その姿を見ていると、女優という仕事も、山歩きも、年齢によって『楽しみかた』を変えればずっとできるなと思います。

私も、50・60代になっても、なんらかのカタチで『歩く』ことを楽しんでいると思います。30代のように、20kgのザックを背負ってトレイルを歩くことはできないと思うけど、でも50代なら50代なりの、楽しみが待ってる。

サックの中身は10kgまでになるかもしれないし、時間もかかるかもしれないけれど、それも楽しそうだといまは思っています」

私たちは、若い頃に味わった楽しみや達成感に縛られて、それを再現しなければともがいてしまうことがあります。でもそれは、なんだかとても勿体ないことかもしれません。

山に限らず、どんなことでも『今なり』の楽しみかたを見つければいい。そう気軽に構えられるようになったのは、山を通して小島さんが身につけた、大切な考え方のひとつとなっているようです。

 

どうして自分のことを「コントロールできる」と思っていたんだろう

自分にもたらされる状況はかんたんには選べない。けれど、その状況にどんな感情で向き合うかということは自分で選べる。

小島さんは、山での経験を通じて、「これは自分の思うようにいかないな」と気付いたときに自らの意思で「諦める」を選びとることを学び、それによって気づける「今なりの楽しさ」と向き合ってきた人でした。だからこそ、子供が生まれたあとの急激な環境変化や女優業との両立のなかで、ときに「できない」ことに直面しても、日々の健やかさを保っていられたのかもしれません。

自然相手だと、ある意味諦めがつきやすいのかもしれない、自分よりも何億倍も大きな存在で、コントロールの限度を超えているから。

そんなことを考えながら原稿を書いていると、「あ」と思い出しました。

人間だって同じようなものじゃないか、と。

私は、自分という人間を「コントロールできる」と思いすぎていたのかもしれません。

だってこの体も感情も、「所有者」は私。自分さえがんばれば、きっと思うようにいくはずなのに。純粋にそう思う気持ちが、知らないうちに自分の首を締めていたのでしょう。

波のように浮き沈みする感情、曇り空のようにモヤモヤする感覚、それはまるで自然と一緒で「自分」はコントロールのきかないもの。

 

朝起きて、素直に「今日もがんばろう」と思えない。

夕方には「あー、やっぱりがんばれなかった」と家路につく。

そんな自分を残念がることをやめよう。

小島さんが10年以上ものあいだ山に登りつづける理由が、私にもわかったような気がしました。

(おわり)

【写真】平本泰淳

 

もくじ

第1話(6月25日)
どうしたら毎日「健やかなまま」でいられるのだろう?

第2話(6月26日)
自分の感情だって「思いどおりにいかない」もの?

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小島 聖

女優。東京都出身。1999年、映画『あつもの』で第54回毎日映画コンクール女優助演賞を受賞。柔らかな雰囲気と存在感には定評があり、感性豊かな表現で見ている人を魅了する。コンスタントに映像作品に出演する一方、話題の演出家の舞台にも多く出演。近年の出演作に映画『続・深夜食堂』、舞台『この熱き私の激情』、『誤解』など。ほかにもCM出演や著書『野生のベリージャム』の刊行など幅広く活躍する。

▼小島聖さんの書籍はこちら


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