【エールのかたち】第1話:誰かを応援するって、こんなに難しいことだった?
編集スタッフ 糸井
応援するって、難しい。
心がめげて、もうダメ……と諦めそうな状況でも、母や友人、先生からの「頑張れ」の声を受けてもう一歩、踏み出せた記憶は誰しもあると思います。
応援のパワーって偉大です。でも、そのパワーを相手に届けることがこんなに難しいのか!と応援する側になって気がつく、今日この頃。
たとえば私は、気の利いた言葉でエールをおくれる自信がありません。「頑張って」の一言さえ、「言われなくても頑張ってるよ!」と相手にプレッシャーをかけてしまったら……とたじろぐ始末。
だけど、応援したい気持ちは、心から純粋なんです。
そこで、会いにいったのが漫画家さんをサポートするのが仕事の「漫画編集者」さん。
個性が異なる複数の漫画家さんを同時並行で担当するお仕事柄、それぞれの漫画家さんに合わせて、サポートのかたちをどんな風に工夫しているのか気になったのです。
二人三脚の漫画家と編集者。どんなエールを送ってるんだろう?
今回お話を伺ったのは、『東京タラレバ娘』や『海月姫』など数々のヒット作を担当してきた、漫画編集長の助宗佑美(すけむね ゆみ)さん。
今年の2月、講談社が出版する少女漫画が購読できる漫画アプリ「Palcy(パルシィ)」の編集長に就任した助宗さん。それまでは各漫画家さんを直接担当し、多い時では20人も同時に受け持っていたとのこと……!
助宗さん:
「今はアプリの運営、掲載するコンテンツの編成を担いながら、10人以上の部員(漫画編集者)を補佐する役に回っています。
それまでの14年間はイチ漫画編集者として、漫画家さんを直接サポートしていました。組んだ漫画家さんの力を最大限引き出すために培った経験が、今もすごく生きています。
サポートのスキルは、マニュアルをポンと渡して上達するものではないので、部員に相談されるたびに『もっとこうした方がいいよ』とアドバイスをして、部員たちにも日々経験を重ねてもらっています」
サポートのプロフェッショナルとして、日々自らと部員たちの応援スキルを鍛える助宗さんに、全3話で、サポートで大切にしていることを聞きました。
▲家に帰ってからの日課は、「漫画を読む」。1日このくらいの量を読んでいるとのこと。こうして、どの作品をアプリで紹介させてもらうかを検討しているそう。
メールは「即レス」と決めています
▲助宗さんのご自宅にて、お話を伺いました。
まず聞きたかったのは、よかれと思ってしたサポートが、相手へのプレッシャーになってしまうのでは?と怖くならないのかということ。助宗さんは、そんな風に身構えてしまうことはないのでしょうか?
助宗さん:
「前提として、応援の気持ちは、その場限りというよりも、瞬間瞬間の『積み重ね』で構築されていくものだと考えています。
ここぞ、とその瞬間にサポートの気持ちを出し切ろうとしてしまうと、相手は変にプレッシャーを感じてしまう。
たとえば好きな人へのラブレターって、全人生をかけて書くじゃないですか? でも、あの熱量を毎回のサポートで出そうとするとしんどいですよね」
私、メールの返信は「即レス」と心に決めているんです、と助宗さん。
助宗さん:
「これは、ひとつ私のなかで大切にしている行動パターンで。
仕事柄メールのやりとりが多いので、そのひとつひとつに『全身全霊を注がなきゃ』と深く考え始めるとメールが打てなくなります。もちろんその一瞬はしっかり考えて返します。だけど、それはあくまで今の私が出し得る限りの答えでしかない。
渾身の一通を待つよりも、とにかく “届いてる” という安心感の方が必要なときってありませんか? そうやってテンポよく反応していくことも、私なりのサポートのかたちです。
もちろん『こう言っとくべきだったな〜』と思うことはありますけど、そんなミスも積み重ねの一部分でしかないんです」
まず必要なのは「相手を知る」こと
さらに助宗さんが意識しているのは、相手と自分の関係性。サポートの心がけも、その関係によって変えているのだといいます。
助宗さん:
「相手が大御所のベテラン先生だった場合、先生は長年自分で培ってきた流儀もあるし、自信もある。となると私に必要とされているのは『新鮮な意見』なんです。
それなのに、私が無理に背伸びして分かったような振りをしても意味がない。『間違ったことを言ってはいけない』と身構えるより、先生が知りたいのはフレッシュな視点なのだから、この場合は思ったことをちゃんと言う方が大切なんです」
求められているものを、求められている関係性で提供すること。そのためには、まず「相手の性格や価値観を察知する」ことが必要だと言う助宗さん。それを「データベース化」と呼んでいるのだそうです。
助宗さん:
「データベース化は、何か関わりを持つたびに、その人の行動を見ながら『この人こういうところがあるな』という情報を蓄積していくイメージです。
たとえば漫画家のAさんは、困っていることがあっても、プライドが高くて言い出せない人。でも行動を見ていると、どうやら『酔っ払ったときにはさらっと言えるタイプ』。それを自分のなかで覚えておきます。
すると歓送迎会などでみんなで一緒になったときに、Aさんがちらっと言ったことでも『そこが今困ってるところなのかな』と意識して拾い取れるんです。それを、後日フォローするという流れですかね。
そうやって、自分なりに相手の挙動を見て理解することを心がけているんです」
それはまるで相手を応援するための準備体操のよう。このデーターベース化の意識は、漫画家さんはもちろん、部員や、家族に対しても考えているそうです。
助宗さん:
「『あの映画よかったよね〜』なんていう一見関係なさそうな雑談の感想からも、その人がどういう価値観を持っているかがわかります。
言動、何かへの感想、そういったものを新たに見聞きするたび、毎回1人ずつのデータベースを更新して、最新の『この人ってこういう人なのかな』という状態を自分のなかで用意しているんです」
勘違いしていたら、上書きすればいいだけ
もちろん実際には、自分が相手の気持ちを読みきれなかったり、たまたま見た瞬間が悪く、違う印象を積み重ねたりすることも。
ずれること自体は当たり前で悪いことではないけれど、それを上書き保存できるかが重要なんです、と続ける助宗さん。
助宗さん:
「自分がたとえ50時間かけて『この人はこういう人』という像を作ってきたとしても、突然本人から『あなたは私のことをこう思っているようだけど、私はそういった考え方はしません』と言われることもあります。
でもそう言われたら50時間を一気に上書きして自分の相手に対する解釈を書き換えればいいだけなんです。
積み上げた相手のイメージに固執してしまうと、結果、修復されなかったずれが深まり、関係が崩れてしまうんですよね」
「上書きする」行為は、ある意味これまでの自分の地道な積み上げを否定するようなもの。
私にはそれは難しいかもしれません……とこぼすと、「上書きするのも、楽しくないですか? 」との声が。
助宗さん:
「この楽しさは、きっと情報更新が早い漫画カルチャーから学んだと思います。
同じ作品でもキャラクターがどんどん変遷して、絵も変わっていく。登場人物も最初AとBって不仲だったのに自然と親友になっている。
漫画では、物語が上書きされていくことが当たり前で、それが楽しいことなんですよね。
それを見ていると、人だってどんどん変化・更新されるのが普通で、それは楽しいことだよねという感覚になったのかもしれません。それと……」
助宗さん:
「根っこでは、相手の本当のことはわからないとも思っていて。
自分を見ていても、日々思うことがコロコロ変わる。今日話したなにかで、明日には価値観が上書きされているかもしれない。
そんなですから、相手はもちろんのこと、私ですら自分のことを掴んでないのかも?とも思います。
そういうスタンスでいたら、たとえ自分の読みと相手の本心とがずれてしまっても、過度に落ち込まなくなっていきましたね」
相手のことは絶対にわかりきれない。それでもわかる範囲で精度をあげて、相手の求めていることを考え、行動する。
そんな助宗さんですが、最初から上手くいった訳ではないそう。第2話では、20代の編集駆け出しの頃を聞きました。
(つづく)
【写真】鍵岡龍門
もくじ
助宗 佑美
静岡県出身。2006年に、講談社入社。少女漫画の編集者として『東京タラレバ娘』『海月姫』(ともに東村アキコ作)、『コミンカビヨリ』(高須賀由枝作)、『カカフカカ』(石田拓実作)など数々の人気作品を担当。「Kiss」編集部を経て、2019年2月、漫画アプリ「Palcy(パルシィ)」編集長に就任。
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