【お坊さんのお悩み相談室】第19回:ジェネラリストとスペシャリスト。自分は何者にもなれないのでは?
編集スタッフ 松浦
家事や子育て、日々の仕事。私たちのくらしには、小さなことから大きなことまで「悩み」がつきものです。
「お坊さんに聞く、くらしのお悩み相談室」は、仕事や子育てなど、日々のモヤモヤを、お坊さんに答えていただく連載。 クラシコムのオフィスに「くらしのお悩み箱」なるものを設置し、スタッフのくらしの悩みを集めました。
お答えいただくのは、著書『お寺ごはん』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)なども人気の、浅草・湯島山緑泉寺 僧侶の青江覚峰さん。青江さん自身も、3児の父として、子育てにも奮闘中ということもあり、お坊さん目線、そしてひとりの親目線でお話ししていただきます。
仕事をする上で、ひとつの分野を突き詰めるより、様々な分野を組み合わせて何かを作ることに興味があります。ただ、誰かがある分野を突き詰めた結果大きな実績を上げたという話などを見聞きしたりすると、時折、このままでは自分は何者にもなれないのではないかと思うことがあります。この一抹の不安とどのように付き合っていくのが良いのでしょうか?(スタッフS)
ジェネラリストとスペシャリスト、果たしてどちらのほうがいいのか。それこそ何十年も前から言われていることですが、「どちらもいいなあ」というのが誰にとっても正直なところでしょう。
私自身はどちらかと言うとジェネラリストのタイプですので、一つの分野を極めている人を見てすごいなあと思うことがよくあります。反対の立場の人からしたら、僕のようなタイプは器用そうに見えて、それもそれですごいなあと思われているかもしれません。
話が少し変わりますが、30年ほど前、私の青春時代の頃はドラゴンボールとバンドブームが世を席巻していました。
ドラゴンボールは、登場人物が修行をしてどんどんと強くなり、強くなったら更に強い相手が現れ、その相手と戦うべく、より鍛錬を積むというもの。バンドもそうです。もっと難しいフレーズを弾けるように、もっとかっこよくグルーヴできるように、もっと自分の音楽性を追求したいと研鑽(けんさん)を積む。
こういった姿に、当時の私はただただ憧れを持っていました。
やがて時代が進み、ポケモンやDJブームがやってきました。ポケモンの主人公のサトシは自分が修行して強くなるのではなく、「行けピカチュウ」といい、戦わせる側です。DJも同じで、自分で曲を作るのではなく、既存の様々な曲をミックスして世界観を作り上げます。
この2つは、どちらも扱う対象をよく知っていなければいけません。ポケモンであれば、相手のポケモンに対しては何タイプのポケモンが有効なのか。DJならば、時間やシチュエーション、客層などから、どういうテンポで、どんな曲をかけていこうか考えます。
このように見ると、ある意味、前者はスペシャリスト、後者はジェネラリストであるとも感じられるのです。
さて質問者さんは、たくさんある道の中の一つを選んで生きていると考えていらっしゃいませんか? スペシャリストの自分を選ばずジェネラリストの道を選んだのだと。
けれど、どこでどのような選択があったにしても、生きられる人生は誰でも一つだけです。テストの選択問題のように、選んだものの正解/不正解が明らかとなり、もう一度選び直すことができる、といった類のものではありません。
選ばなかった道、人生にどれほど思いを残しても、それは妄想でしかありません。多くのきっかけ、選択をしながら今歩んでいる毎日。それだけが、質問者さんにとっての唯一の現実です。無いものに思いを及ばせてもやもやしているより、目の前にある現実に誠実に、日々を愛おしみながらお仕事に向き合ってみて下さい。
青江覚峰
僧侶 青江覚峰
浄土真宗東本願寺派 湯島山緑泉寺住職。米国カリフォルニア州立大学にてMBA取得。料理僧として料理、食育に取り組む。「暗闇ごはん」代表。超宗派の僧侶によるウェブサイト「彼岸寺」創設メンバー
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