【訪ねたい部屋】第2話:吊り下げるから使いやすい。「リズミカルな暮らし」を教えてくれた、土間のある台所
ライター 藤沢あかり
友人の部屋を訪れたときの、わくわくするような気持ち。そこには、「その人らしさ」を知る嬉しさや楽しさがあるのかもしれません。
お宅を訪問し、インテリアを拝見しながら「その人らしさ」を紐解く特集「訪ねたい部屋」を全3話でお届けしています。
今回は、木工作家、うだまさしさんのギャラリー兼ご自宅。1話目では、古い木造平屋を自分たちの手で改装することになった様子を伺いました。
さて、うださん夫婦がこの家に住む決め手のひとつとなったのが、「土間のある台所」。
「暮らしのリズミカルなイメージが浮かんだんです」と話すその場所は、うださんの手がける道具をはじめ、個性的な家具やアイテムがひしめきあう、使いやすさのアイデアが詰まった楽しい空間でした。
2話目では、この台所を詳しく拝見しながら、妻のゆかさんをメインにお話を伺います。
湿気を嫌う木工製品と、上手につきあうために
リビングと仕事場を隔てた、家の角っこ部分に、ちょうど台所があります。床から40センチほど下がった、昔ながらの土間スタイルです。
あらゆる道具がぶら下がり、ところ狭しと並ぶ様子は、道具好き、とりわけ台所道具が好きな人なら、これだけでわくわくする気配が漂います。
昔の土間というと、少し薄暗いイメージを想像しますが、ここは2面に採光があり、とても明るい雰囲気です。
もとは古いシステムキッチンが取り付けられていたのを、改装を機に、より自分たちが使いやすいものにチェンジしました。
▲シンクやコンロと並んで、古い薪ストーブも。製作途中に出る木っ端を燃やして使っているそうで、これがあるおかげで、冷え込む冬もぽかぽかに。
ゆかさん:
「ここは、業務用のシンクを入れてもらいました。飲食店でのアルバイト経験も長かったので、使い慣れたこっちのほうが便利そうで。シンク下はがらんとしているので、自分たちで工夫しながら使っています」
明るく見える台所ですが、木造の北側に置かれた土間は、どうしても湿気がこもりやすいと言います。
とくに長雨の時季は、山の斜面のふもとに立っていることもあり、上から流れてくる雨水が、足元に染み出してくることもあるとか。
ゆかさん:
「この家では、システムキッチンのように扉の中にきれいにしまいこむより、棚にそのまま並べておくほうが風通しがいいんです。それに、うちは木工のものが多いから、なおさらよく乾かせる環境は必要。なるべく、木製品は上の方へ置くように心がけています。どうしてもひどい時季だけ除湿機をまわせば、あとは快適に過ごせていますよ」
なるほど、ただ、見せる収納というだけでなく、吊り下げられた道具たちには、住まいに合わせた暮らしの知恵が潜んでいたのでした。
▲窓辺の上に置いたザルは、木のカトラリーの一時置き場。ここでしっかりと乾燥させてからしまいます。ザルには、高さを出すため竹串を刺して脚をつけました。
ゆかさん:
「勝手口から出入りもするので、自然と砂埃はたまるし、掃き掃除が面倒だなぁと思うときもあります。でも、土間だと少々汚しても、水をひっくり返しても気になりません。麺類の湯切りもダイナミックにできますよ(笑)
最初は、なにか床材を敷くことも考えたのですが、これでよかったと思っています」
毎日使う食器が並ぶ棚も、自分たちで取りつけました。
うださんが作った木の皿をはじめ、ゆかさんが作ったお茶碗、知り合いの作家の作品や、個店を訪ねて手に入れた器など、作り手の顔の見えるものが中心です。
▲勝手口とシンクの間に、ぴったりと収まるカウンターシェルフ。古道具かと思っていたら、実はこれも手作り。サイズを調整し、古い建具をつけて仕上げています。右の古いホウロウポットは、生ゴミ入れとして。
「吊り下げ」と「隠す」のメリハリで、使いやすい台所に
さてこちらは、シンク側の窓辺です。
食器だけでなく、日常に使う道具はすべて吊り下げ収納にしています。
この台所が、愉快な空気に包まれているのは、やっぱり窓辺のこの景色のせいもあるのでしょうか。
うださんがつくる匙やトレイ、そのほかさまざまな道具が、窓からの風と光を受けて今にもしゃべりだしそうな様子。右上に下げられた円板状のものは、なんと鍋の蓋です。
ゆかさん:
「S字フックはイケアです。それをさげているアイアンバーは、100円均一や雑貨屋で見つけたものが多いですね。引き出しにしまったり、ポットに立てたりするよりも、さっと使えるし、空気の流れもよくなります」
▲タオルをかけた白いバーは100円ショップで。黒いアイアン素材だったものを、白く塗装したそう。
そんなわけでカラフルな布巾も、片手鍋も、
さらにはこんな大きなお鍋まで、ここではぶら下がった状態で、出番を待っていました。
ちなみにこの味わいたっぷりの銅鍋は、骨董市で見つけた掘り出し物。麺類を茹でる時に活躍するそうです。
カビやすい蒸篭も、こんなふう。レンジフードに取り付けたフック付きマグネットは、職人さん御用達のECサイト『モノタロウ』で。
『IKEA』のマグネットナイフラックは、壁にとりつけるのが一般的ですが、うださんは棚の裏側に貼りつけています。下からのぞきこむと、こんなふう。
水切りかごの真上に位置するので、導線もスムーズなうえ、普段は刃が目に触れないので安心感があるそうです。
隠す収納には、『無印良品』のファイルボックスやワイヤーバスケットを活用
収納には、古道具やかごを多用しているうださんのお宅ですが、シンクの足元に選んでいたのは、『無印良品』のポリプロピレンファイルボックス。ここは使用頻度の低いお鍋や、水筒などをジャンル別にしまっているそうです。
こちらも、『無印良品』のステンレスワイヤーバスケットを使い、スパイスなどの食材を中心に。先ほどと同じマグネットフックに切りっぱなしの布をひっかけ、ラフな雰囲気で目隠ししています。
たくさんの吊り下げた道具に並んで、この台所で存在感を放っているのがもうひとつ。それが、このどっしりと構える時代箪笥です。
古道具屋で見つけたお気に入りの家具のひとつだそうですが、なぜこれが、ここに?と不思議に思いませんか。
答えは、こちら。実はここ、うだ家のパントリーなのです。
「引き出しだと、上から一気に見渡せるから便利なんですよ」とゆかさん。乾物や子どものお菓子など、カラフルなパッケージもここなら安心です。スクエア型のバスケットや仕切りをうまく使いながら、うまく整理していました。
▲昭和の空気が愛らしいキャスターワゴンは、ネットオークションでうださんが見つけたもの。「個展やクラフト市など、大きな仕事がひとつ終わるとご褒美として、なにか古道具を買うのが楽しみなんです」とうださん。
働く、食べる、遊ぶ、学ぶ。日々の彩りを宿した台所
素材や色かたち、手触りまで表情がそれぞれ異なる木のカトラリー。3歳の黄之(きの)くんは、その中から食事ごとに使いたいものを選びます。
台所は、毎日の暮らしの中でも、特に大切な役割を担う場所。食べることは、人を支え、仕事を支え、そして暮らしを支えます。黄之くんがここで、食材の色や香り、お父さんの作る作品を肌で感じているように、子どもだけでなく大人も、色とりどりな毎日を楽しんでいます。それが暮らしを「リズミカルに」彩っているのかもしれません。
次回は、住まいのあちらこちらに潜むアイディアをご紹介します。ものづくりに携わるうださんならではの、ユニークな視点ばかりです。
(つづく)
【写真】木村文平
もくじ
卯田真志(うだまさし)
木工作家。1983年秋田県生まれ、千葉育ち。千葉県立市川工業高校インテリア科を卒業後、大道具会社に入社。壊される切なさを苦に、手仕事を生かせる道へ向かう特注家具を作る家具工房で勤務した後、鍛錬を重ねるため、城南職業訓練校にて学ぶ。2011年秋より「monom」として活動をスタート。現在は、展示会やクラフトフェアを中心に木の器・カトラリー・カッティングボード、ランプなど暮らしにまつわるものを制作する。http://monomusubi.com/
ライター 藤沢あかり
編集者、ライター。大学卒業後、文房具や雑貨の商品企画を経て、雑貨・インテリア誌の編集者に。出産を機にフリーとなり、現在はインテリアや雑貨、子育てや食など暮らしまわりの記事やインタビューを中心に編集・執筆を手がける。
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