【佐藤友子×土門蘭の『なんとか暮らしてます』】インテリア編〈前編〉:インテリアは「自分との対話」。
文筆家 土門蘭
こんにちは、土門蘭です。
『北欧、暮らしの道具店』店長の佐藤さんと、小説家である私による連載『なんとか暮らしてます』。これは、常にちょっとした生きづらさを抱えながらも「なんとか暮らして」いるふたりが、「暮らし」にまつわるさまざまなテーマについて語り合う対談です。
第2回目となる今回のテーマはインテリア。
前回の料理に引き続き、私はインテリアも大の苦手です。おしゃれなインテリアにはとても憧れるのですが、どこから手をつけたらいいのかわからず、いつも部屋で途方に暮れてしまいます。
それに対し、佐藤さんにとってインテリアは、専売特許でありライフワーク。
オリジナル短編ドラマ『青葉家のテーブル』の舞台でもあるご自宅は、実際に訪れると本当に素敵な空間で、思わず「ここに住みたい!」と言ってしまうほどでした。
そんなふたりがインテリアについて話します。
得意・不得意……両極端にいる立場のふたりが改めてインテリアについて話してみると、どんなことが見えてくるでしょう?
外では雨が降る中、佐藤さんの大事にしている植物に囲まれながら、ふたりでゆっくりお話しました。
「インテリアがこわい」?
土門:本当に素敵なお部屋ですね。ここには何年お住まいなんですか?
佐藤:2年くらいです。以前は2LDKだったんですが、子供が小学校に入ったら子供部屋を作りたいなと思って。それで3LDKの賃貸物件をずっと探していて、引っ越してきたんです。
土門:おうちを買われることは検討されなかったんですか?
佐藤:うちは賃貸派ですね。人に買うのを勧められたりもしたんですけど。買ったら好きなようにできるし、売ることだってできるんだからって。
土門:そうですよね。それこそやろうと思えば0からインテリアを作ることができますし。だから佐藤さんが賃貸派なんだと知って、少し意外でした。
佐藤:いやあ……もし家を買ったら、とことんやってしまうと思うんですよね。今それをするとリソースが足りなくなってしまうってわかるんです。会社も育児もある今、「ドアノブや壁紙を選ぶ」っていうことができない。
土門:ああ、全力でそちらに行ってしまうから。
佐藤:そうそう。今は他にやるべきことがあるから、賃貸がちょうどいいんです。ある程度制限のある中で、自由な気持ちで楽しむくらいが、現状のリソース配分としてフィットしていると思う。
元気に年を重ねて、もう引退かなってくらいの時間と余裕ができたら挑戦してみたいですね。自分のリソースを、インテリアに気兼ねなく投下できるときが来たら。
土門さんは、持ち家ですか?
土門:そうです。3年前に建売の戸建てを買いました。私も、上の子が小学生に入るタイミングで。
佐藤:土門さんは購入派なんですね。
土門:私、この世で一番苦手なのが「引越し」という作業なんですよ。もう荷造りが苦手で、また出さなきゃいけないのにダンボール箱にしまうっていう状況に耐えられなくて(笑)。引越しをせずにどこかに定住したかったっていうのが、家を買った大きな理由です。
でも、自分好みにできるリノベーション物件とかは避けていたんですよ。すでにできあがっている建売が良くて……。
佐藤:えっ、何でですか?
土門:私は自分のインテリアセンスにまったく自信がないので、「壁紙どうします?」「ドアノブどうします?」って選択肢を与えられるとよくわからなくなってしまうんです。だから、「私に選ばせる余地を与えないでくれ」って思っていたんですよね(笑)。すべてがあらかじめスタイリングされている状態で入居したかったんです。
佐藤:そうなんですか!(笑)
土門:なので、前回のテーマだった「料理」に引き続き、私は「インテリア」も苦手ってことなんですが……。
佐藤:インテリアは、好きではあるんですか?
土門:苦手すぎて、好きかどうかも考えたことがないです。なんかもう、インテリアがこわいって言うか。
佐藤:インテリアがこわい!(笑)ええー、それはどうしてですか?
土門:多分、自分のことをダサいと思っているからだと思います。センスがないから、手を加えれば加えるほどおかしくなるように感じるんです。だから今はインテリアに対して何もしていないんですよ。もう、なされるがまま。
佐藤:無の境地なんだ(笑)。
土門:インテリアに向き合うと、自分のダサさが見えてきてしまいそうでこわいんですよね。
佐藤:ああ……でも今聞いて思ったのは、私にとってはファッションやメイクがその「こわい」って感覚に近いかもしれないです。好きだし興味はあるし、「もっとかわいくなりたい」「きれいになりたい」って思うけど、決して人様の前でそんなことおくびにも出せないってジャンルがそれ。
土門:そんな感じかも。自信なさすぎて、「もっとセンス良くなりたい」って言うのもはばかられるというか。
衝動的に「何かを飾りたい!」という欲求があった
佐藤:うちはね、母がとてもインテリア好きだったんですよ。別に「おしゃれ」とか「センスある」って感じではないんですけど、休日にはホームセンターに一緒に行って、カゴとかカーテンとか選んでいましたね。
母の趣味で『私の部屋』や『美しい部屋』っていうカントリー系のインテリア雑誌がいつも置いてあって、私も兄もその本をよく読んでいました。そのインプットからインテリア好きはスタートしているように思います。
土門:へえー。お母さん譲りなんですね。
佐藤:忘れもしないんですけど、中学のときにお小遣いで初めて買ったのが、自分の部屋に飾る造花と布だったんですよね。それで嬉々として、赤と白のギンガムチェックの布を敷いて、造花を飾ったりしてね……。
土門:造花と布! かわいいなあ。
佐藤:友達と遊んで、家族と過ごして、夜はひとりになるじゃないですか。そのときに自分の部屋の中で、本の並べ方を延々と変えてみたりするような子供でした。背表紙の高さを揃えたら綺麗に見えるのか、それともわざとギザギザにするほうが外国の書棚っぽくなるのか……。本棚なんてなかったから、ただのカラーボックスなんですよ?(笑) でも並べ方や置き方を変えることで、「物って直列で並べるとこう見えて、変則的に並べるとこう見えるんだ」って、子供ながらに検証をしていたような気がします。
土門:それが遊びだったんですね。
佐藤:そうそう。でね、造花を飾って、夜に寝るじゃない。それで布団に入ると、「あ、やっぱり向きが違うな」とか思って、起き出してわざわざ向きを変えたりしていたんです。そうしないと、気になって眠れないわけ(笑)。物の置き方や配置に異常にこだわるのはその頃から。ちょっと病的なのかもしれないですね。
だから、「インテリアが好き」とか「素敵に暮らしたい」とかよりも、動物的にそこが気になってしまう、っていうところから始まっていて。最初に「何かを飾りたい!」「気持ち良く置きたい!」っていう衝動があったんですよね。
土門:まずは自分の中で「これが好き」っていうのがあったんですね。布であれ、造花であれ。
佐藤:自分のものさしですけど、「これが好き」ってわかっていたんだと思う。
土門:私はきっと、「これが好き」っていうことを信じられないんだと思うんですよね。
佐藤:自分の感覚を?
土門:はい、特にインテリアに関しては。私は、自分の部屋を飾るということをほとんどしたことがないんです。必要最低限のことしかしない。なぜかというと、自分の感覚を信じられないから。「好き」とか以前に「本当にこれイケてるのかな」「ダサくないかな」って考えてしまう。だからこわいんだと思います。
佐藤:なるほどなー。私はその頃まだ子供だったので、人目を気にしていなかったんですよね。全部主観で選んでいて、人から「素敵だな」って思われることを求めていなかったんです。
でも、歳をとるにつれ、だんだん人からどう見られているかって視点が、自分の中に入り込んできて。その時初めて「センスが良くなりたい」って思うようになりましたね。自分でもいいなと思えて、人からもいいなと思ってもらえるインテリアにしたいなって。そのためにはどうしたらいいんだろうっていうのは、後天的に考え始めたことですね。
「今後私が進んでいく道なんだ」というシンボル
土門:インテリアってふたつの要素があるなと思うんです。ひとつは、自分が心地良い空間であること。もうひとつは、他人も心地よい空間であること。主観と客観が入り混じるものだなって思っていて。
私は「他人」の目線ばかり気にしてしまって、「自分が何を好きか」は考えたことがなかったかもしれないです。
佐藤:そっかー。でも自分の好みって、「素敵だな」とか「こんな暮らししてみたいな」っていう、ほわわんとしたレベルで気づけると思うんですよ。自分が何を見て「ああ、こういうのいいな」って思うのかを、自覚するってことですよね。
たとえば、アジアンスタイルには特に何も感じないけど、北欧スタイルを見ると何か心が揺れるとかね。私はその揺れに気づくことが、第一歩だと思うんです。
土門:それが主観の始まりなんですね。じゃあ、たとえば今私は佐藤さんの部屋を見て「いいなあ」って思っているけれど、これは自分から大事なシグナルを受け取っているってことなのか。
佐藤:好きじゃないスタイルにはそう思わないと思いますよ。まあ、うちだからそう言ってくれているのかもしれないけど(笑)。
土門:いやいやいや、本当にそう思っていますよ!
佐藤:あはは。でも本当、「こういうのいいな」って思う自分を自覚するのが第一段階だと思います。次は、「こういうのいいな」って系統の情報をインプットしまくって、あらゆる視点で真似をするのが第二段階。
土門:や、でも、私が「佐藤さん家を真似したい!」と思っても、何から始めたらいいんでしょうか。一体どこから真似すればいいのやら……。
佐藤:そうですねえ……。あのね、私自身、自分がどういうスタイルが好きなのかを確信できるまでに、相当時間がかかったんです。私が人生を通して追いかけるインテリアのテーマは「北欧と植物」だって気づいたのは、30歳を過ぎてから。それまでは絞ることができなくて、その時々で「好きかも」って感じるものに散々影響を受けてきました。だけどやっとこのふたつに絞れたことで、インテリアに軸ができたんです。
それで自分は北欧的なインテリアが好きなんだなってわかったあと、あるカップを買ったんですよ。このカップなんですけど、これは北欧に行って初めて自分で買ってきたものなんです。「これなら高いお金を出してでも買いたい!」って思うくらい、本当に好きだって思ったの。
土門:わ、そうなんですか! これが佐藤さんのインテリアの原点なんですね。
佐藤:そうそう。これを買ったことから始まったんですよ。当時団地に住んでいたんですけど、「これが今後私が進んでいく道なんだ」っていうひとつのシンボルになったんです。
土門:シンボル……。
佐藤:シンボルだから、当時から食器棚の一等地にこれを置いているんです。いつもどこからでも、私からこの人(カップ)が見えるようにって。
土門:……なんか、今の話でもう泣きそうなんですけど。
佐藤:ええっ? 泣くとこじゃないよ?(笑)
土門:いや、すごくいい話だなと思って……。それくらい自分にとって大事なものを手に入れるって、本当に素敵ですね。
佐藤:たかがカップアンドソーサー、されどカップアンドソーサーなんですよね。
好きなものに囲まれているだけですごく頑張れる
佐藤:そしてね、これが食器棚にあると、この周りを良くしたいって思うようになるんですよ。それで隣に違う柄を並べたくなって、次に買ったのがこのカップなんです。そのあとも、食器棚の上に北欧の花瓶を置いてみようとか、ひとつひとつ増やしていきました。
そういうふうにシンボルを起点に一個ずつ揃えていくと、「自分が好きなのはこういうカラーなんだな」ってわかってくるんです。私の場合は、北欧のブルーが好きだってわかった。だから今後もこのカラーコーディネートで揃えていこうって決めることができた。これらを買ったのはもう10年前ですけど、今もそのセオリーを守っているんですよね。
土門:自分の「好きなもの」の解像度を高めていく作業みたいですね。ひとつのシンボルを起点に、少しずつ世界を広げていくことで。
佐藤:そうそう。だから、「すごく好きだ!」っていうスタイルの物があれば、がんばって買ってみたらいいんじゃないかな。それが生活の中のシンボルになると、そこから派生する周辺のゾーンも統一していきたいっていう欲が湧いてくると思うので。
たとえばそれを食器棚からスタートするとしたら、次はキッチンへ、次はリビングへって広がっていきます。うちもまだ、全然完成できていないですよ。
土門:じゃあ佐藤さんは、ひとつの雑貨や家具を買うのでも、ちゃんと文脈があるんですね。
佐藤:そうですね。もちろん衝動的に買ってしまうものもあるけど、自分のインテリアのテーマはこのカップから始まったひとつの芯に沿っているから。何で買ったか、人生のどの時期に買ったか、どうしてこの色にしたかを、全部説明できるんですよね。それが愛着になるんです。
土門:なるほど、それは愛着が湧くだろうなあ。
佐藤:「なんとか暮らしてます」って話で言えば、私、毎日ちゃんとコーヒー淹れて、ちゃんとこのカップで飲んでいるわけじゃないんですよ。普段用のマグカップでインスタントコーヒー飲むほうが圧倒的に多い。だけど、毎日ここにある雑貨に囲まれているだけですごく頑張れるんですよね。だから見えるように置いているんですよ。ここは私にとっての「聖域」なんです。
土門:原点となるシンボルがあって、いつも「自分が何を好きか」に戻れる場所ですよね。そこからテーマ性が立ち上がって、インテリアになっていくんだろうなあ。
佐藤:そう。だからインテリアって、「自分との対話」だと思いますね。
まずは誰にどう見られるかよりも、自分が何を好きで誰に憧れているのかを理解しておくことが大事。何より自分が住む家なのだから、「インテリアは自分の生活を支えてくれるもの」っていう考え方がいちばん切実なんじゃないですかね。
まるで、ただ私のインテリア相談に乗っていただく形になってしまったかのような『なんとか暮らしてます』の前編。
思わず冒頭から「インテリアがこわい」だなんて言ってしまいましたが、佐藤さんと話していてようやくその感情の理由がわかりました。
私はこれまで「自分が何を好きか」にちゃんと向き合ったことがなかった。だから自分の理想もわからず、人目を気にしたり他人をうらやましがったりするばかりで、ふわふわと心もとなく自信がなかったのだと思います。
「自分の『シンボル』って何だろう?」
佐藤さんと話しながらそう思いました。私はまだ、それに出会っていません。それはいったいどんなものでしょう。どんな形で、どんな色で、いつ、どこで出会うのでしょう。
そんなことを考えていたら、インテリアが「こわい」という気持ちから「楽しみ」という気持ちに、少しずつ変わっていきました。
「インテリアは自分の生活を支えてくれるもの」
この言葉に、佐藤さんの気持ちがしっかり込められているように思います。
後編も、どうぞお楽しみに。
【写真】濱津和貫
もくじ
土門蘭
1985年広島生。小説家。京都在住。ウェブ制作会社でライター・ディレクターとして勤務後、2017年、出版業・執筆業を行う合同会社文鳥社を設立。小説・短歌等の文芸作品を執筆する傍ら、インタビュー記事のライティングやコピーライティングなどを行う。共著に『100年後あなたもわたしもいない日に』(京都文鳥社)。2019年、『経営者の孤独。』(ポプラ社)と『戦争と五人の女』(京都文鳥社)を刊行。
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