【彼女が旅に出る理由】17歳の挫折も、30歳の諦めも。気づけばぜんぶ京都だった(スタッフ齋藤編)

商品プランナー 斉木

ひとが旅に出る理由はなんでしょうか。

ひとの数だけ答えのありそうなそんな質問に、もし共通項を探そうとするならば、日常に足りない要素を埋めに行っている、ということではないかなと思うんです。それはある人にとっては刺激かもしれないし、またある人にとっては安らぎかもしれない。

本特集「彼女が旅に出る理由」では、暮らしを営むうえで “旅” を特別なピースとして捉えていそうな3名のスタッフに、その理由を尋ねます。彼女たちが旅(非日常)に求めているものをひも解くことで、その裏にある日常に託した願いも、ぼんやり透けて見えるといいなと思いながら。

 

旅がないと生きていけない。そう見えるワケを聞きたくて

今回登場するのは、編集スタッフの齋藤

入社4年目で、スタッフから「めぐさん」の愛称で呼ばれる彼女は、花や哲学、文学を好み、文章・絵・写真といった表現活動に余暇を費やす、自分の世界を大切に持っているタイプ。しかし一方で、チームや撮影現場の空気が停滞しそうになると誰よりも先にお菓子を準備し、率先して声をかける姿もたびたび目にしていました。

そんな彼女は私にとって、クラシコムの旅好きと聞いて真っ先に顔が浮かぶ人物です。旅について綴ったコラムが多いということもありますが、実際に旅から帰ってきた齋藤は、ツキモノが落ちたかのようにいきいきした顔をしているから。

旅がない人生なんて! そう聞いたわけではないのに、なぜだかそんなふうに見える。その理由を直接聞いてみたかったのです。

 

17歳、はじめてのひとり旅での挫折

齋藤がはじめて旅に出たのは、進路をはじめとしたこの先の未来に戸惑いを覚えていた17歳の頃。場所は京都。3泊4日の旅でした。

齋藤:
「ぜんぶ自分で決めたかったんです。寝る場所も、食べるものも、何もかも。当時高校生だったから、何か決めようにも、最終的には両親や先生、いろんな大人が提案をしてくれる。そのころはそれがもどかしくて、全責任を自分で負いたかったんですよね。

旅の最中はお寺に行ったり、ひと通り観光らしいことをしたり、それなりに楽しかった。でも、旅を終えて東京に戻ってきてから、打ちのめされて放心状態になったんです」

すべてを自分で決めたいと旅に出た齋藤が最初に感じたのは、 “強烈な不安” だったといいます。

どこに行ってもへっちゃらだと思っていたはずの自分が、いざひとりになると足がすくむほどの不安に襲われている。ことあるごとに、誰かに頼りたいという気持ちが顔を出す。ぜんぶ自分で決めたいと思っていたけれど、その “自分” なんてどこにもないのかもしれない。

この時感じたショックは計り知れず、彼女はこれ以降、本人曰く「気が狂ったように」旅に出るようになります。一刻も早くこの状態を脱しなければ、と。

 

京都の庭で、はじめて「ぼーっと」できた

ひとり旅に出たその日から絶えずこころにあった、もっと強くならなくちゃ、ひとりで何でもできるようにならなくちゃという思い。そんな焦燥感が消えていることに気づいたのは、偶然にもまた京都を訪れていた30歳目前のことでした。

鹿王院というお寺に泊まったことがきっかけです。

齋藤:
「お寺に泊まってみたい程度の感覚で滞在したんですが、そこには特にこれといって何かあるわけじゃないんですよ。朝は早いし、夜は門限もある。どちらかといえば制約の方が多いくらい。

ただ、敷地内に気持ちのいい庭があって、朝も夜もそれをぼーっと眺めてました。それだけですごく満たされている自分に気づいたんですよね」

それまでは日常でも旅に出ても、とにかく落ち着きがなかったといいます。スケジュールは分刻み、行きたい美術館や建造物をゲームのステージのように次々クリアしていく感覚。

それは承認欲求の表れだったんじゃないかと、齋藤は振り返ります。

齋藤:
「17歳からの10年以上、とにかくいろいろなところに行っては、これはいい、これはピンとこないと、自分というフィルターを通してひとつひとつ点検していたような気がするんです。

そのうちだんだん自分が本当に落ち着く場所や満足するものがわかってきて、それに比例するように他人から認められたいという気持ちが薄れていったのかなと。

それがピタッとはまったのが京都のお寺で、この庭でぼーっとする時間さえあれば、もうそれだけで十分だって思ったんです。そしたら、あんなに落ち着きがなかったのに、『ぼーっとする』ということが何より好きになってしまって。今では休日も部屋で何をするでもなく、ぼーっとしてることが多いです」

 

何ができて、何ができないか。ぜんぶ旅が教えてくれた

鹿王院に滞在して以降、旅の頻度はぐっと減ったと言います。今でも旅には行くけれど、何かに駆り立てられるようにではなく、どこかお出かけの延長のような感覚。それでも、「あの経験が今の自分を作っている」と齋藤は話します。

齋藤:
「17歳の頃は、やりたいことが山のようにあったし、そのどれもが叶えられるような気がしていました。いまなら羨ましく聞こえますが、その頃はそれがただただ苦しかった。できるかもしれないという可能性に囚われて、自分の向き不向きを考えず無理をしていたんです。

旅をすることは、自分に何ができて、何ができないのかをひとつひとつ身体で確かめていく作業でした。スケジュール管理が下手だなぁとか、いつも気づけば道に迷っているなとか(笑)」

齋藤:
「自分に何ができて、何ができないのか。その作業を繰り返すことで、いい意味で自分を諦めることができるようになったんです。諦めるって一見マイナスに聞こえますが、私にとっては生きやすさにつながっていて。何を諦めたらいいかもわからなかった頃よりは、ずいぶんラクになったような気がします。

それに、諦められることを知るって、逆に手放せないことを知ることでもあると思うんです。文章を書くことや絵を描くことは幼い頃から好きではあったんですが、それだけでは食べていけないかもしれないと知ったとき、辞めるという選択肢もありました。

それなのに、30歳を過ぎた今もずっと撮ったり描いたりし続ける方法を模索してる。これはきっとやめようと思ってもやめられないんだろうなぁと。そんなことも全部、旅が教えてくれました」

 

旅はひとを大人にするというけれど

もっと強く、全部ひとりで 。そんな思いに急き立てられるように旅に出たひとりの少女が、その過程で「諦める」ことを知っていく。

それは大人への通過儀礼だったんだよと、簡単にまとめることもできるかもしれないけれど、その間にはきっと手痛い失敗や、数えきれない出会いと別れがあったのだと思います。

自分を表現することへの情熱を強く持っている一方で、周囲のひとを自然と受け入れるふところの深さもある。そんな齋藤を、今までどこか「アンバランスなバランスがあるひと」だなぁと感じてきました。その秘密をすこしだけ覗かせてもらったような気がします。

明日お届けする最終話に登場するのは、店長佐藤。昨年、およそ20年ぶりのひとり旅を実現した佐藤ですが、そこにはある心境の変化がありました。

(つづく)

 

【写真】安川結子


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