【50代はひとり旅の適齢期】後編:いくつになっても新しいことにワクワクしたい。あとは優先順位を間違えないように。

ライター 長谷川未緒

年齢を重ねてさまざまな経験を積んでいても、新しいことにワクワクドキドキしたい。

そこで、特集【50代はひとり旅の適齢期】では、50歳からひとり旅を始めたという料理家・山脇りこ(やまわき りこ)さんに、旅を通して起きた変化についてお聞きしています。

第1話では、ひとり旅を始めたきっかけについて、第2話では、ひとり旅の醍醐味や、身近な人との関係の変化、最近の旅、これからについてなど伺います。

前編から読む

 

ひとり旅の楽しさに目覚めた「朝の時間」

目星をつけていた飲食店にも入れず、ホテルで早寝した山脇さんでしたが、早寝にはひとつ目的がありました。

山脇さん:
「15年くらい前から、走るのが楽しいかも?と思うようになりました。最初は200メートルしか走れなかったへっぽこランナーで、いまも5キロが限界です。初のひとり京都旅でも、走ってみようと思っていました。

Googleマップを見ながら、半径2、3キロの範囲で目標地点を探したところ、清水寺がありました。清水寺はいつもすごく混んでいるので遠慮していましたが、朝6時から開いているみたいだし、もしかして早朝なら空いているかも、と」

山脇さん:
「道路の標識を見たり、Googleマップを確認したり、人に聞いたりしながらホテルから走って清水寺に行ったら、清水の舞台が貸切状態。座ったら、ちょうど朝陽が登ってきたところで、すごく感動して。

戻る途中も、迷い込んだ霊園を歩いていると、何も持たずに手を合わせているおばあちゃんを見かけて『あぁ、毎日来ているのかな』と思ったり、一心にお掃除するお坊さんや、朝早くから重そうなランドセルを背負った小学生の姿などに遭遇し、自分もここで暮らしているような気持ちになったんです。あくまで旅人だけど、少しだけ近づいたみたいで、うれしくなりました。

夫や友人との旅行では、こんなふうに街を見ることはなかったな、と。ひとり旅の醍醐味は、朝なのかもしれないと開眼しました」

 

自分のごきげんを取る最適解が、ようやく見つかった!

ホテルをチェックアウトし、夫へのお土産に予約しておいた老舗弁当屋の折り詰めを買って帰宅。

山脇さん:
「夫と一緒にお弁当を食べながら、目当てのお店に入れなかったこととか、朝がすごくよかったこととか、機嫌よく旅の報告ができました。夫も『楽しく過ごせてよかったね』と、久しぶりに穏やかな時間を過ごせたんです」

京都のことを思い出すと機嫌がよくなって、「ごきげん貯金」が溜まったのを実感しました。

山脇さん:
「ひとりでお店に入れなかったことも含めて、初めてのお使いじゃないですけれど、結構ドキドキして、そういう緊張感も久しぶりでした。

この信号を渡るかどうかとか、どちらの方向に行くかとか、ひとり旅では、全部自分ひとりで決めるじゃないですか。120%自分の時間で、すべて自分で決めていいということが、ものすごく久しぶりで。学生の時はそうだったかもしれないんですけれど、若い時はそのありがたさがよくわかっていませんでした」

それからは、夫と行く旅行に前乗りしたり、出張の帰りを延ばしたりして、ひとり旅を決行するように。

山脇さん:
「家族が心配してひとり旅に行きづらいという方にも、前乗りはおすすめです。先に行って待ってるねという形ならば、わりと行きやすいと思います。後から家族が来てくれると思うと、自分の気も楽になります」

 

身近な場所でも、ひとりなら旅になります

遠い場所や海外にわざわざ出かけずに、都内1泊でも気分転換になるそう。

山脇さん:
「旅って、家族や友人がいると日常の延長になってしまいますが、ひとりだと完全な非日常になります。これは近場でも同じこと。

たとえば、電車で30分くらいなんですけれど、神保町という本の街に憧れがあります。本屋を何軒もはしごして、夜は本屋が経営するバーでハイボールを飲んで、朝早く起きて走って。谷中あたりも私にはなじみがないので、1泊旅行してみると、人気のお店に朝早くから行列ができていて、これじゃ昼間は買えなくて当然ねと思ったり、路地裏を近所の方が早朝からお掃除している姿に地元愛を感じたり。

ひとりで過ごすと、いろいろ考えたり発見があったりして、ごきげん貯金がたまっていきますよ」

旅の情報収集は、日常の中で

日帰りでも泊まりでも、ひとり旅をおすすめする山脇さん。旅の行き先は、どんなふうに決めるのでしょうか。

山脇さん:
「ふだんから、雑誌やSNS、駅のポスターや絵はがきなどで見て、行ってみたいなぁと思った気になるところを、Googleマップに行きたい場所リストとして入れています。

1、2か所行きたい場所があったら、そこを目指して旅します。私の場合、観光名所というより、1軒のお店だったり、市場だったりすることが多いです。あとは現地に立った時の自分の気分や勘で、Googleマップに保存したところや、お店の人に勧めてもらったところに行っていますね」

 

苦手なひとりごはんは、早い時間に行くことで解決

ひとり旅の問題は、ひとりでごはんを食べなければならないこと。初めての京都ではお店に入れず、ホテルでお惣菜を食べた山脇さんでしたが、苦手意識は克服できたのでしょうか。

山脇さん:
「以前に比べれば慣れましたけれど、やっぱり苦手です。でも、カウンター席がある店に早めに行くことで、少しは解消された気がします。

17時オープンの店なら17時に行って、18時頃には出てしまう。店が盛り上がる前に行って、盛り上がる頃には帰ることにすると、抵抗感が薄れますね。

あとおすすめは角打ち(買ったお酒をその場で飲む立ち飲みメインの店)です。この雰囲気は無理だと思っても、一般のお店だとひと品だけ頼んで帰るのは気が引けるじゃないですか。でも角打ちなら、それができます。

最近はナチュールワインのおしゃれな角打ちも増えていますし、女性ひとりでも入りやすいし出やすいのでおすすめですよ」

ひとり旅ができる人間でよかったです

ひとり旅でごきげん貯金をためられるようになった山脇さん。ひとり旅ができるようになって、一番良かったことは何なのでしょうか。

山脇さん:
「ちょっとヘンな言い方になりますけれど、ひとり旅ができる自分になれたことでしょうか。ひとりでホテルに戻れるか心配されてショックを受けた自分としては、大きな変化です。

誰かと行くときとひとりとでは、街の楽しみ方や感じ方が違います。ひとり旅は、自分とのふたり旅という感じで、緊張もするし、寂しいときもあるけれど、好奇心が湧いたり、ドキドキワクワクを味わえたりするのが、いいなと思います。

人はひとりでは生きられないし、ひとりになりたいと思っているわけでもないんです。生活力があるとかないとか、精神的に自立しているとかしていないとかでもなく、最後はひとりだということを引き受けられるかどうか。

ひとり旅ができるかどうかというのは、そういう生き方の美学みたいなものにも通じるのかな、と」

▲ひとり旅を始めて増えたひとり行動について、文芸誌で連載も。「ソロソロ、ひとり」(小説新潮)。

ひとり旅をするようになって、ひとりで行動する機会が増えてきたという山脇さん。これからについて伺うと、思いがけない答えが返ってきました。

山脇さん:
「50代、60代は自分のやりたいこと、好きなことを優先したほうがいいとよく聞きますし、自分もそう思うんですけれど、それが何か?私はまだよくわからないんです。死ぬまでにやりたいことなども、ぱっと思いつかないですし。

ただひとつ思うことがあって。実は母が1年前に亡くなったのですが、生きている間に、母をもっともっと絶賛し、感謝を伝えるべきだったと、今も毎日後悔しています。料理の道に進んだのも料理上手だった母の影響ですし、いまだに母以上にうまくお米を炊けたこともありません。でも、ちゃんと伝えないまま別れてしまいました。

だからこれからは、優先順位を間違えずに、大切な人のことは大切にしたいし、大切だとしっかり伝えていきたいと思っています」

ひとり旅を通じて自分で自分の機嫌を取れるようになった山脇さん。帰ったら夫にこれを食べさせてあげたいとか、身近な人のことを今まで以上に思えるようになったそう。

ゆっくり自分と向き合う時間が持てたからこそ、『人生の優先順位を間違えずに大切な人を大切にしたい』とシンプルな考えに行き着いたのでしょう。

ひとりでいるようで、なかなかひとりになりきれない現代なので、私も自分と向き合う時間をしっかり持ち、これからの人生で何が大切なのか、考えたいと思いました。


【写真】土田凌



もくじ

山脇 りこ

料理家。旬を大切にした手順がシンプルで作りやすいレシピを各媒体で提案。『明日から、料理上手』(小学館)など著書多数。ひとり旅の楽しさを綴った『50歳からのごきげんひとり旅』(大和書房)がベストセラーになり、文筆家としても活躍の場を広げている。最新刊は50代半ばから感じるようになった老いへの不安や、社会からはじかれる初めての体験を通じて、やっておきたいと思った“おしたく”をつづった「ころんで、笑って、還暦じたく」(ぴあ)。

Instagram: @yamawakiriko


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