【50代はひとり旅の適齢期】前編:更年期、親の老い、不安定すぎて「ひとり時間」が必要かも?と思ったんです

ライター 長谷川未緒

年齢を重ねて、「新しいこと」が少なくなってきた気がしています。経験を積んだためでもありますし、自分の好きなこと・興味のあることはもうわかっているから、それ以外に食指が動かないせいもあるのでしょう。

でも、まだまだ新しいことにワクワクドキドキしたいし、自分の可能性を広げたい。そんなふうに思っていたとき、料理家・山脇りこ(やまわき りこ)さんの『50歳からのごきげんひとり旅』という本に出合いました。

読み進めてみると、これは旅の話だけではなく、中年期以降をごきげんに生きていくための指南書かもしれないと思いました。

そこで、特集【50代はひとり旅の適齢期】では、山脇りこさんにひとり旅をすることについて、生き方を交えて語っていただきました。

第1話では、ひとり旅を始めたきっかけ、最初のひとり旅について、お聞きします。

 

「大丈夫?」と心配される自分から脱却したかった

山脇さんがひとり旅を始めたきっかけのひとつは、あるグループ旅行での体験でした。

山脇さん:
「48歳くらいだったんですけれど、親しい先輩を中心とした知人7、8人と台湾へ旅行したんです。私は集団で行動するときは、あまり自己主張をせずについていくタイプ。ですから、事前に集まって旅のプランを立てているときも、旅先でもおとなしくしていました。

台北には行ったことがありましたけれど、その旅のおもな目的地は台南方面で、そちらに行くのは初めてでした。それもあって、慣れた人におまかせしたほうが輪を乱さずにいいだろうと思っていたのですが……」

山脇さん:
「ある日、私だけみんなと離れて先にホテルに戻ることになったとき、先輩から『ひとりで大丈夫?』と聞かれたんです。

優しい気持ちで聞いてくださったんですが、私はホテルにひとりで戻れそうもないくらい頼りないと思われているんだと衝撃を受けました。

たしかに、学生の頃はひとり旅もしていたけれど、結婚してからはいつも夫と一緒で、ずっとひとりで行動していないな、と思い当たりました。

そして振り返ると、ひとりだったときのほうが、印象的な出来事も多かったんですよね。またひとり旅をして、自分を鍛え直してもいいんじゃないかと思ったんです」

 

ひとり旅には、ふたつのハードルがありました

ひとり旅をしてみたいと思ったものの、すぐには実行できなかったそう。

山脇さん:
「ひとり旅なんて本当にできるのかしら、と自分に確信が持てない内側のハードル。そしてもうひとつが、家族が心配するという外側のハードルです。

内側のハードルについては、大前提として、自分を過信せず用心したうえで、行ったことがある場所に行くことにすれば乗り越えられそう。ですが外側のハードルは、家族関係によってもさまざまで、乗り越えるのが難しい場合もあると思います。

わが家の場合は、夫も旅好きで、毎月のようにふたりで旅行をしていました。今も夫と行くことがいちばん多いんです。そこで急に『ひとりで行きたい』と言うと心配されるかな、と気になって、なかなか言い出しにくくて。それにいざ行こうとなると久しぶりすぎて、なかなか踏み出せずにぐずぐずしていました。

そのうちに、母が体調をくずして、長崎の実家に毎月のように通うようになったんです。介護というほどではなかったのですが、1週間くらい滞在して、たくさん作り置きをしたりして」

 

更年期のイライラから、ついにひとり旅へ

年に何冊も本を出版する忙しさに加え、毎月の長崎帰省、さらに山脇さんに追い討ちをかけたのが、更年期の症状でした。

山脇さん:
「当時は更年期という自覚はなかったんです。というのも、よく耳にしていたのぼせなどの症状はなかったので。

私の場合、とにかく機嫌が悪くなりました。もともとはイラっとすることがあっても顔に出すほうではなかったのですが、このときばかりはすぐにイライラしてしまって。感情がコントールできず、仕事にも支障が出かねないほどでした」

山脇さん:
「夫と母が一番の被害者でした。夫にはささいなことで怒ったり、仕事でいやなことがあると、彼には全く罪がないのに当たったり。

自分でもおかしいと思うし反省もするのに、小さなことに爆発していました。

これは更年期かもしれないとだんだん気づき始め、諸先輩方の本を読むと、自分を好きになってあげましょう、たくさん褒めてあげましょうとか書いてある。それができないから、困ってるんだよーとますます鬱々としてしまって。しかし、このままではまずいことはわかっている、でもできない、どうしよう、と焦り、またイライラして」

山脇さん:
「母にも、せっかく実家に帰っているのに優しくできず。できないことが増えていく母を見ることが辛くて、老いは病気じゃないのに、私は愚かにも母の老いを治そうと必死になっていました。がんばって歩こうとか、スクワットしようとか言って、思えば母は十分がんばっていたのに、私のほうに心の余裕がなかったんです。

いよいよまずい、ここから脱出する術を見つけなければと思って、映画をひとりで見に行ったり、運動をしたり、いろいろやってもダメで。

そこで帰省した長崎から東京に戻る途中、新幹線を使って、京都に1泊してみようと。いつも帰省したあとも母のことが心配で、なかなか東京で日常に戻れなかったこともあり、1泊おくことで、自分にとっても、夫にとってもいいんじゃないかと思いました」


慣れた京都なのに、飲食店にも入れず……

京都にひとり降り立った山脇さん。この旅が最高だったのかと思いきや、緊張の連続だったそう。

山脇さん:
「京都はプライベートでも仕事でも、一番たくさん旅した街ですが、ひとりになるとそれまでとは全く違い、駅に着いた瞬間から緊張していました。

ホテルは予約していたのでとりあえずチェックインして、問題は晩ごはんです。

仕事柄もあって、店側の目線で考えると、ひとりでふたり席に座るのは悪いから、カウンター席があることは必須。

カウンター席があって、自然派ワインを出してくれる、前々から行ってみたいと思っていた店があったので、『よし、行こう!』と気合を入れて行ったのに、ぐるぐるとお店の周りを3周して、結局、入れなかったんです……」

山脇さん:
「笑われてしまいそうですが、もともとひとりでごはんを食べることがすごく苦手で、チェーン店のカフェですら入れないくらい。

ひとりだと手持ち無沙汰ですし、誰も見ていないとわかってはいても、『あの人、友だちがいないのかな、かわいそう』と思われないかとか、気になってしまう。夜ごはんをひとりというのは、自分としてはとてもハードルが高くて、このときは断念しました」

山脇さん:
「仕方なく気持ちを切り替えて、いつも買う鯖寿司のお店が2、3軒あるので、そのうちの1軒で鯖寿司を買い、大丸の地下で京都のお店のお惣菜と、これまたよく行く錦市場の酒屋で京都の酒蔵の日本酒の小瓶を買って、ホテルでひとり宴会しました。考えてみたら誰かといたらやらないから、これはこれでいいかなと思いつつ。

で、その夜は早く寝ることにしました」

目星をつけていたレストランにも入れず、ホテルで早寝した山脇さんには、ひとつ目的がありました。

続く第2話では、ついに発見したひとり旅の醍醐味や、ひとり旅をしたことで起きた身近な人との関係の変化、最近の楽しかった旅、これからについてなど、じっくり伺います。


【写真】土田凌



もくじ

第1話(5月15日)
更年期、親の老い、不安定すぎて「ひとり時間」が必要かも?と思ったんです

第2話(5月16日)
いくつになっても新しいことにワクワクしたい。あとは優先順位を間違えないように。

山脇 りこ

料理家。旬を大切にした手順がシンプルで作りやすいレシピを各媒体で提案。『明日から、料理上手』(小学館)など著書多数。ひとり旅の楽しさを綴った『50歳からのごきげんひとり旅』(大和書房)がベストセラーになり、文筆家としても活躍の場を広げている。最新刊は50代半ばから感じるようになった老いへの不安や、社会からはじかれる初めての体験を通じて、やっておきたいと思った“おしたく”をつづった「ころんで、笑って、還暦じたく」(ぴあ)。

Instagram: @yamawakiriko


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