【スタッフコラム】わたしが買い物をする理由

編集スタッフ 奥村

いまの街に住み始めて5年。最近好きな古本屋ができました。

入り口には古い料理本が並び、中に入ると、旅のエッセイや、奥の方には写真集や美術書が。

そして何より、店の奥からにこっと微笑んでくださった60代くらいの店主さんの雰囲気があたたかくて。その日はちらりと眺めただけでしたが、翌日の仕事帰りに改めてじっくり寄り道を。

「いつか買おうと思っていたリスト」に加えていた2冊を見つけたので、買って帰ることにしました。

パリっとした薄い紙袋に入れてくださって、その袋をほくほくした気持ちで握りながら帰路へ。

その日持ち帰ったのは、その気になれば大型書店やネットでいつでも手に入れられた本だけれど、今すぐに欲しかったわけでもないもの。「偶然出合えた」うれしさも含めて、そのお店との縁を感じたくて、買い物をした自分に気づきました。

 

そこで、買いたくなる理由

▲どんなパンより好きと胸を張って言える、近所のお店の焼きそばパンとカレーパン

買い物って、そのお店が「好きだ」ということを、確かめるためにする行為なのかもしれません。

同僚が、先日こんな話をしていました。とても好きな本屋さんがあって、そこの品揃えに熱意を感じる。だから応援するような気持ちで、そこで本を買うと決めているのだと。

その話を聞いてから、最近自分の中でも買い物の見方がすこし変わった気がします。高いか安いか、お得かお得じゃないかだけじゃなく、そのお店が好きかどうか、で考えるようになったと。

すると不思議なのが、買ったものに愛着が出てくること。本1冊でも、内容だけじゃなく、そのもの自体に愛着が湧いてくる。たぶんこれは、今までにあまりなかった感覚です。

好きだなあと思える店が、近所には他にもあります。

たとえば、やわらかくてほんのり甘いコッペパンに挟まれた、紅ショウガのたっぷりのった焼きそばパンのあるパン屋さん。

いつもいい感じのレコードが流れていて、寡黙だけれどじつは顔を覚えてくれているマスターのいる喫茶店。

あえて行きたい。そんなお店のある暮らしは、とてもラッキーなことだと思います。

同時に、そんなお店が今日も当たり前のようにそこにあることが、実は当たり前でないということも、この5年で知りました。

見とれるくらいにきれいで美味しかった、喫茶店のアイスクリーム

バニラビーンズがたっぷり入って、ウエハースが添えられた、昔ながらのアイスクリームがとてもおいしかった喫茶店は、この間惜しまれながら閉店しました。

こちらが心配になってしまうくらい良心的な価格で、フランスの家庭料理を出してくれた料理屋も、ある日行ったら突然お店が閉まっていて、それきりになってしまった。そこの奥さんの、ちょっとぶっきらぼうだけど、言葉の裏にじんわり優しさがしみている雰囲気が大好きで、彼女への会いたさにお店に通っていたことを、今更ながら痛感しています。

いつもの街に、当たり前のようにある小さなお店。けれどそれを当たり前のように続けることは、きっとすごく大変なことで。それでもわたしの好きなものを、今日もお店に並べてくれている。そのことに、心から感謝を思わずにはいられません。

だから、わたしは今日も買い物をする。それはそのお店への小さな共感のしるしと、エールのかたちなのかもしれません。


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