【スタッフコラム】母の口癖「ゆず採るの手伝って」
編集スタッフ 鈴木
育った家の庭には、住む前から植わっていた花柚の木があります。ご近所さんを見回しても植わっているお家が多く、昔誰かが株分けしたのだろうということは想像にかたくありません。
毎年冬になるとたわわに実をつけるので、採ってレモンがわりに使いますが、その量も膨大。放っておくと道路を実で荒らしてしまうというのもあり、弟と私は毎年冬の寒い時期になると収穫を手伝わされてきました。
家が坂の途中に建っており、木が外壁からはみ出ているため、切る人と受け止める人の二人掛かりで取り掛からねばなりません。ゆずの木が庭にある、こう聞くと聞こえはいいかもしれませんが、私と弟にとっては寒い時期の面倒な手伝いだったのです。
先月、まだ寒さの残る2月のこと。弟も私も実家に帰るタイミングが久しぶりに揃ったことがありました。
いまなら人手があるぞ、と思ったのでしょう。例のごとく母の「ゆずの木切るから手伝って」命令が発動です。
「採る」ではなくて「切る」?と耳を疑いましたが、一人暮らしになった母は、花柚の木が手に負えない大きさになったのを悟り、柚子の木を小さく剪定することに決めたようです。
ノコギリで枝を細かく裁断、下で二人がキャッチ。細かい棘で手を傷だらけにして、文句を言いながら。
母は案の定、自分のことに手いっぱいで労いの言葉もかけてくれません。通りがかった近所のおじちゃんたちが、手伝ってるの、偉いねえと言ってくれるのがせめてもの救い。
もう20代も半ばを過ぎているのに、偉いってさ……うふふ。柚子風呂が好きらしいその方には切った枝ごとおすそ分けしました。
「ついでにバラの枝も切って」
ついでって、まだ柚子の作業終わってないんだけど……またもやそんな文句を抱えながら、バラの剪定も進めます。
玄関外の小さな植え込みにハーブを植えて料理に使ったり、育てたバラをジャムや入浴剤にしたりと、小さい庭ながらも植物を育て、活用するのが好きだった母。仕事を増やしてからは忙しくて以前ほどではありませんが、柚子とバラだけはいまも元気に育っています。
そういえば、母は昔、第1子の私が幼少期アトピーだったこともあって、専ら自然派食材に凝っていました。
なにかと料理に多用されるゴマやおから、甘さの足りない手作りお菓子。外で食べるご飯や売っているお菓子のほうが美味しいかもしれないと気がついた弟と私は、成長するにつれ、母の自然志向にうんざりしてくる節がありました。
だから、庭のゆずにも特段ありがたみも感じていなければ、お庭の手伝いもいつもしぶしぶ。この日も「捕まってしまった」感が拭いきれぬまま、文句たらたら庭仕事していたのです。
▲これは6月ごろ、花が咲いた後のバラの剪定。年に何度か剪定の時期がやってきます。
でも、いまや家を出て、それぞれ庭のない賃貸で生活を始めた私たち兄弟。植物を身近に感じながら生活することを、どこかで懐かしく思い始めていたのだと思います。
無心になって枝を切っていると、なんだか気持ちが整ってくる。花を咲かせるための作業だと思うと、次の花を楽しみにする気持ちも、悪くないな。
いつか庭を持つことになったら、母と同じように手のかかる植物を育てずにはいられないだろうな。いやむしろ、植物を育てるために庭のある家に住みたいかも……。
バラの枝を剪定しながら、いつしかそんなことを考えていました。近くで枝をまとめている弟も同じことを考えていたのか、ぽつりとひとこと。
「こうやってさ、嫌だ嫌だいいながらやってるけど、自分も将来、ローズマリー庭に植えちゃってさ、チキンに乗っけて焼いちゃったりするんだろうなあ」
庭仕事に文句たらたらだったはずの兄弟は、二人して大笑いしてしまいました。
収穫した花柚子は持ち帰って、ゆずぽん酢やマーマレードにしました。
マーマレードにしたんだ、と後日伝えると、「私がやってるところ見ててやり方覚えてたの?」と嬉しそうな母。ごめんなさい、Webで検索しました。当時は興味がなかったからやり方は覚えてなかったけれど、お母さんがやってたな、ということだけは覚えていたんだよ。
家で採れたゆずを食卓に活かせる幸せを、家に柚子のならない今は身にしみて感じることができます。
立ちもどれる原体験をありがとうと、いつか伝えられるだろうか。まだまだ素直になれない私は考えるのでした。
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