【とっておきの椅子選び】第2話:やっぱり大事なのは座りやすいこと。自分に合った選び方とは(北欧家具talo)

編集スタッフ 栗村

北欧家具taloの山口太郎さんに、椅子選びのポイントを教えてもらっている本特集。

第1話では、デザインを中心にフィンランドとデンマークの椅子の違いを聞きました。

続く第2話では、座り心地の良い椅子のポイントと、デザイナーチェアの特徴について教えてもらいます。

 

長く座る椅子こそ、浅く腰掛けるものを

山口さん
「ダイニングチェアを選ぶ時にポイントになるのは、背もたれまでの距離。

みなさんリラックスして座りたいと思って、より深く腰掛けられるものを選ぼうとするのですが、実はそれは間違いなんです。

できるだけ浅い椅子の方が疲れにくい。

なぜかというと、人が椅子に座っていて、一番苦痛になるのって、かかとが床につかないことなんです。

特に海外の椅子は作りが大きく、さらに靴を履いた状態で座ることを想定しているので、日本人の場合だとかかとが床に付きにくいものが多いです。

そうするとどうしても疲れてきてしまうので、長く座るダイニングチェアこそ、浅めでしっかり地面にかかとがつくものを選んでください」

山口さん
「ただ背もたれまでの距離感って、どうしても見た目だとよくわからないんですよ。

この2脚はパッと見たときに、ほぼ一緒なんですが座ってみると全然違うんです。手前のグレーの座面の方が、わずかに座面が背もたれ側にあって座りやすいはずです。

はじめて買うときは、見た目の好みだけじゃなく背中までの距離を意識して、ぜひいろんな椅子を座り比べて見てください」

▲座り比べると驚くほど違いがわかります。

 


座りやすい椅子、教えてもらいました。


学校用に作られた
アルネ・ヤコブセンのスクールチェア

山口さん
「椅子って、座面が少し後ろ下がりになっているものが多いのですが、デンマークの学校用の椅子は、座面が地面に並行か、少し前屈みになっています。

この形だと、長時間座ってもしっかりかかとが地面について疲れにくい。

さらに面白いのは、背中が丸くならないように、背もたれが突き出ているんです。これは良い姿勢じゃないと座りにくいんですよ」

 

今、1脚選ぶならこれ
ハンス・J・ウェグナーのCH29

山口さん
「デンマークのデザイナーのウェグナーの椅子です。数多くある中で個人的に一番好きなダイニングチェアです。

まず背もたれまでの距離が短い。それでいて軽くて、コンパクトで、座った時の安定感もある。

一番深く腰掛けても、座面の前だけに浅く腰掛けても、安定するんです。

さらに、椅子をテーブルに入れたときの収まり方もいいですし、Xの背もたれがチラッと見えるのも、何か特別な椅子を使っている感じが出て良いんですよ」

 

家族で取り合いになる
イルマリ・タピオヴァーラのアスラック

山口さん
「これはフィンランドのデザイナー、イルマリ・タピオヴァーラがデザインしたアスラックという椅子です。

似たような形でドムスチェアというのがあるのですが、これはその後継で、とにかく丈夫です。

自宅では子どもがこの椅子を気に入っているのですが、子どもがダイニングからいなくなったら、自分がわざわざ座りかえるくらい座り心地がいい。

背中までの距離が短くて、肘掛けもあって、長い時間座るのに最適です。

あとフィンランドは日本と同じで、家では靴を履かないので、小ぶりなものが多く、日本人の体型に合いやすいですよ」

 

気になる価格、デザイナーの椅子って何がいい?

座り心地の他に、やっぱり気になるのが価格です。

ビンテージの椅子だと1〜3万円で購入できるものから、デザイナーのものになると1脚10万円以上になるものも。この価格の差には、どんな違いがあるのでしょうか。

山口さん
「デザイナーの椅子の方がクオリティが高いですね。

まずは耐久性。例えばウェグナーの椅子は圧倒的に丈夫です。いろいろな椅子を修理してきましたが、その中でもかなり作りがしっかりしています。車でいうとメルセデスベンツのようなイメージです。

ほかには、見た目へのこだわりが尋常じゃない。簡単に言うと、省けるところを省かずに作られています」

▲ボーエ・モーエンセンのソボーチェア

山口さん
「例えば、ちょっとしたことなんですがこの椅子は、湾曲した部分で接合させていたり、後ろの貫(ぬき)の部分は、緩まないように隙間に職人が木を入れて仕上げているんです。

これは作る側としたら、すごく大変で機械だけじゃできない。

さらに、普通椅子って緩まないように側面に張を入れるんですが、これは美しさを優先して入れていないんです。メーカーはできるだけ簡単に丈夫な椅子を作りたいので、こういう手間のかかる量産品のデザインは、力のあるデザイナーでないと作れません。

こだわりと技術がたくさん詰まった、ただ座るものとして使われる以上の価値が、デザイナーの椅子には込められていますね」

山口さん
「ただですね、デザイナーの椅子は間違いなくいいものですし、1脚10万円の価値もあると思うのですが、みんなにフィットするかというと違うんです。

例えば子育てや、家事で手いっぱいのときに、すごくおしゃれだけど取り扱いに気を使う椅子や、掃除がしにくい大きくて重い椅子があったらストレスになるじゃないですか。

そんなときは、もう少し手軽でお手入れも気を使わなくていい椅子の方が良いですよね。

だから大切なのは今の自分が、椅子に何を求めているのかということ。そこと照らし合わせながら、椅子を選んでみてください」

実はこの取材に伺った際に、あわよくばとっておきの椅子を買って帰ろうと思っていたんです。でも山口さんの話を聞いているうちに、これは勢いで買うものではないと冷静になって、今の自分にあった椅子をもう一度考えてみることにしました。

さて次回は、ビンテージの椅子と新しい椅子の違いや、お手入れの方法を伺います。

(つづく)

【写真】鍵岡龍門


山口太郎(やまぐちたろう)

1973年生まれ。神奈川県伊勢原市にある北欧家具taloのオーナー。27歳でフィンランドに行き、北欧家具の買い付けをはじめる。現在は1年の約半分を北欧で過ごす。
WEBサイト:https://www.talo.tv/


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