【レシート、拝見】試行錯誤で暮らしを変える。元・片づけベタの整理収納アドバイザー
ライター 藤沢あかり
水谷妙子さんの
レシート、拝見
取材にあたりレシートを見せてくださいとお願いしたとき、こんな返事をいただいた。
「うちはスーパーで買い物をするのも、ドラッグストアで日用品を買うのも夫の担当なんです。わたしが買ったレシートではないんですが、いいですか?」
「元・無印良品の商品開発担当者」。
そんな経歴をもつ、整理収納アドバイザーの水谷妙子さん。夫と、小学2年生を筆頭に、5歳、3歳の子どもたちと暮らしている。
「わたしは大雑把だから、ポイントを見極めたり細かく計算するのが苦手。洗濯も夫の方が丁寧です」
大雑把とは無縁に見えるすっきり片づいた部屋で、ワハハと笑って教えてくれた水谷さん。朝ごはんの準備や買い物、洗剤やシャンプーなどの日用品の管理は夫の担当だ。安いスーパーやポイントがお得な日を見極めては、ゲーム感覚で買い物を楽しんでいるという。
子どもたちも自分のことは自分で。3歳でもおもちゃは元の場所にしまえるし、5歳はひとりで服を選んで着替え、7歳は自分が使いやすいルールで学校のプリントを分類している。
きっと水谷さんが、みなを率いて指導しているのかと思いきや、そうではない。
「自分のアイデアが一番だとは思わないです。人のアイデアもどんどん聞きたいし、大切にしたい。これは無印良品時代に学びました」
ハンガーひとつを買うにも、「こういうのを買おうと思うんだけど、どうかな?」と夫に相談する。
洗濯の担当は夫でも、最初のころは、なんでもいいよとしか返ってこなかった。けれど、何度もその質問をしているうちに、こんな形のほうが使いやすいかな、◯本くらい欲しいね、と提案してくれるようになった。
「子どもの収納も同じです。
長女がいつもヘアゴムを放置するので、A案とB案、どっちの収納方法がいい?とたずねてみました。そうしたら、C案を出してきたんです。試しに採用したら、きちんと戻せるようになりました。子どもができないと怒りたくなるけれど、責めるべきは人じゃなくて『しくみ』だと思うんです」
知識も、ものを見る目もプロである水谷さんの言う通りにしていたら間違いないだろう。それでも水谷さんは、収納場所や洗剤の種類、家電の予算まで、家族でコミュニケーションをとりながら決めるらしい。
「このやり方でいきます、みなさんよろしく!って全部わたしが決めたら、あっという間に終わる話かもしれません。
でも相談されると、『自分がやるもの』という視点をもつことにもつながりますよね。誰かのものさしではなく、自分も考え選ぶことで、片づけも家事も自分ごとになります。自分ごとにならないと、本質は変わらない気がするんです」
そう力を込めて話すのは、自身の経験から。無印良品で収納用品などの生活雑貨をつくりながらも、暮らしを「自分ごと」として考えられるようになるまでには、ずいぶん時間がかかった。
500点以上の商品開発を経験しても、自分の暮らしは整わなかった
もともとは片づけも家事も苦手で、学生時代も友達を部屋に招くことはなかったという。結婚後は、新婚気分に後押しされながら家事をひとりで抱え込み、どうにか頑張っていたところに、産後ノイローゼがやってきた。
今まで頑張れていたことが、思うように頑張れない。夫は「部屋がめちゃくちゃでもいいから、今は一緒に子どものことを考えて育てていこう」と言ってくれたという。けれど職場に復帰しても、散らかった部屋では保育園着も見つからず、イライラは募るばかり。
なんとか夫婦で乗り越えながら必死で過ごしていた頃、2人目の出産の機会がおとずれる。
「そこではじめて、自分の暮らしに気持ちが向いたんです。
散らかった状況も気持ちも、ほんとうは嫌なんだと。一念発起してお片づけのプロの手を借り、ものの量を3分の2くらいに減らしました」
結果、2度目の職場復帰は想像以上にスムーズだった。
「人数は増えたのに、登園準備がサクサク進むんです。あるべき場所に必要なものがあって、夫や子どもが自分でできるしくみがあるだけで、どんどん暮らしがラクになるのを感じました。
仕事では500点以上もの企画やデザインに携わって、ものの知識は山ほどあるし、よそのお宅の収納用品をたくさんつくってきた。けれど、わたしは今までなにを見ていたんだろうって思いましたね」
ほんとうの意味で暮らしを整えるおもしろさに目覚めた瞬間だった。
自分だけでなく、家族みんながスムーズに暮らしていくためには、どうしたらいいのか。片づけられなかった自分だからこそできることがあるはずだと考え続けた先に、今の道にたどり着く。
暮らしを「自分ごと」にして、おもしろがっていきたい
ふと、洗濯機に貼ったヘアゴムのフックの横に、メモが貼ってあるのを見つけた。
かわいらしい子どもの字で、「このせんたくものは あらった」。
夜中に乾燥まで終えた洗濯物を、朝、うっかり再度洗ってしまったお父さんを見て長女がつくってくれたらしい。「あらった」をめくると「あらってません」の文字。
どんなに片づけのハウツーがあふれていても、自分の暮らしに引き寄せられないと意味がない、と水谷さんは繰り返す。そしていつだって、今がベストではなく試行錯誤の連続だと。
きっと洗濯機のメモも、ドラッグストアのレシートの「ポイント10倍」の文字も、家族が暮らしを「自分ごと」として、おもしろがっている証なのだろう。
自分の手で、毎日を楽しく、豊かに変えていく。暮らしを編んでいくって、なんてクリエイティブでチャーミングなことなのかと思わずにはいられない。
水谷 妙子
整理収納アドバイザー。夫、7 歳の娘、5歳と3歳の息子の5人暮らし。無印良品で生活雑貨の商品企画・デザインを13年間務める。手がけた商品は500点超、調べた他社商品は5000 点超。2018 年に起業し、雑誌やテレビなどで活躍中。11月26日、新刊「水谷妙子の取捨選択 できれば家事をしたくない私のモノ選び」(主婦の友社)が発売予定。WEBサイト:「ものとかぞく」http://taekomizutani.com/ Instagram:@monotokazoku
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ライター 藤沢あかり
編集者、ライター。大学卒業後、文房具や雑貨の商品企画を経て、雑貨・インテリア誌の編集者に。出産を機にフリーとなり、現在はインテリアや雑貨、子育てや食など暮らしまわりの記事やインタビューを中心に編集・執筆を手がける。
写真家 吉森慎之介
1992年 鹿児島県生まれ、熊本県育ち。都内スタジオ勤務を経て、2018年に独立し、広告、雑誌、カタログ等で活動中。2019 年に写真集「うまれたてのあさ」を刊行。
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