【57577の宝箱】丸まっていく鉛筆の芯の先 掻いた心がふるえる夜更け

小説家 土門蘭

この間、ある大学でゲストとして講義を行った。国語教諭を目指す学生たちのクラスでのことだ。

わたしは、文章を「書くこと」と人に話を「聞くこと」、このふたつを仕事の軸としている。その日は後者の講義で、テーマは「対話」だった。インタビューで培ってきた対話の仕方を学生の皆さんに伝えるというのが、わたしのミッションだった。

おもしろいことを話せる自信はないが、これまでの経験をもとに考えてきたことならある。それで、自分なりに考えた対話の定義について話した。
「『対話』とは、相手から答えをもらうのではなく、相手とともに答えを探すこと」
ではそれをどんなプロセスでやっていけばいいのか、大事にすべきことは何か……そんなことをスライドにして説明していった。

緊急事態宣言が出されたあとだったので、オンラインでの講義だったのだけど、ちゃんと向こうで聞いてくれていることが伝わる時間だった。画面越しでも、こういうのってわかるんだなと思った。

§

わたしの講義のパートが早めに終わったので、質疑応答へと移る。その中で、こんな質問が出た。
「もし自分が教師になったら、対話の相手は生徒であることが多くなると思います。でも、中には自分の意見を言語化するのが難しいと感じる子もいるんじゃないかなと。そういうとき、どんなふうに接すれば対話になるでしょうか?」

なるほど、おもしろい質問だな、と思った。わたしが教師になり、黙り込んでいる生徒を前におろおろしているところを想像してみる。そんなとき、わたしだったらどうするだろう……。

それでわたしは、こんなふうに答えた。
「もしひとつの質問に言葉が詰まったら、違うところから質問を投げかけてみてはどうでしょう。『なぜそう思ったの?』と聞いて答えが返ってこなければ、『いつそう思ったの?』『誰にそう思ったの?』『どんな感情が起こったの?』と、角度を変えて投げかけてみるんです。すると少しずつ言葉が出てくるはずなので、たくさん集めてみてください。その中によく出てくる言葉がないか、似ている言葉がないか、共通する言葉がないか、探してみる。すると、その人が大事にしていることやこだわっていることが、ちょっとずつ見えてくるはずですよ」

これは、いろんなインタビューを経て学んだことだ。すべてのインタビューが、ぽんぽんとリズム良く行われるわけではもちろんない。直球の質問がだめならば、いろんな球を投げてみる。そうするうちに、少しずつ相手のことがわかってくる。とりやすい球、投げるときの癖、好きなボールの種類……

わたしたちは一問一答でつながっているのではない。いろんな投げ方でいろんなボールをやりとりしながら、お互いのことをわかっていく。そんなことを伝えたくて答えると、質問をしてくれた学生さんは深くうなずいた。

§

もうひとりの学生さんが、手を挙げた。
「私の場合は、まず自分が何を言いたいのかがわからないんです」
なんと、これもまたおもしろい質問だ。対話とは、一方的なものではなく双方向なものだというわたしの話を受け、彼女はこんな質問をくれたのだ。

「たとえば『なんだかもやもやする』というのはわかるのだけど、それがなぜなのか言葉にできない。自分のことがわからないから、相手に伝えられない。それができるようになる訓練のようなものはありますか?」

わたしは少しだけ考えて、「日記を書いてみてはどうでしょう」と提案した。
「わたしも、夜寝る前に毎日日記を書いているんです。誰にも見せない、自分だけの日記を。頭の中にあることを、どんどん外に並べる感じです」

今日は何があった。誰と会った。こう言われて、こう思った。それはなぜなんだろう。もしかしたら、こうだからかもしれない……

「なんでもいいんです。自分にいろんな質問を投げかけてみる。すると少しずつ言葉が出てくるはずなので、たくさん集めてみてください。そうするうちに、自分のことがわかるようになるはずですよ」

話しながら、「あっ」と思う。さっきの質問とまるで同じだ。対象者が「生徒」か「自分」かの違いだけで、相手を知るためのプロセスは同じなのだ。いろんな角度から聞いてみて、言葉を集めること。その集積から、相手を知ること。

「書く」ことって、自分の話を「聞く」ことでもあるんだな。
学生さんとのやりとりでそんなことを思った。それならわたしの「書く」「聞く」という仕事は、「自分との対話」「他者との対話」と言い換えられる。今書いているこの文章だって、自分が講義で何を感じたのか、自分に聞いているようなものなのだから。

「私も、今日から日記を書いてみます」
そう言ってくれた学生さんに、わたしはこう答えた。
「自分の話を、じっくり聞いてみてあげてください」

自分に対して聞き上手になれたら、自分のことがもっとわかるはず。1日のうちに数分だけでも、みんながそんな時間を持てたらいいなと思う。

 

 

私たちの日々には、どんな言葉が溢れているでしょう。美しい景色をそっとカメラにおさめるように。ハッとする言葉を手帳に書き留めるように。この連載で「大切な言葉」に出会えたら、それをスマホのスクリーンショットに残してみませんか。

 

1985年広島生まれ。小説家。京都在住。小説、短歌、エッセイなどの文芸作品や、インタビュー記事を執筆する。著書に歌画集『100年後あなたもわたしもいない日に』、インタビュー集『経営者の孤独。』、小説『戦争と五人の女』がある。

 

1981年神奈川県生まれ。東京造形大学卒。千葉県在住。35歳の時、グラフィックデザイナーから写真家へ転身。日常や旅先で写真撮影をする傍ら、雑誌や広告などの撮影を行う。


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