【でこぼこ道の常備薬】後編:過去の感情を拾いに行くことは、自分を大事にすること(マンガ家 ながしまひろみさん)

小説家 土門蘭

何かがあったというほどではないけれど、なんだか落ち込んだり、悩んだり、憂鬱になってしまうときってありますよね。

そんなときに自分を支えてくれる、「あの人の言葉」「あの人の姿」ってありませんか?

『でこぼこ道の常備薬』は、そんな常備薬のような存在についてうかがうインタビュー。今回は、漫画家・イラストレーターのながしまひろみさんのお話の後編です。

2020年は、心の拠り所がわからなくなってしまった1年だったと話すながしまさん。そんなながしまさんにとって、作品を作ることにはどんな意味があるのでしょうか?

前編はこちら

 

自分が感じたことのある感情を、もう一度拾い直す

土門:
以前、ながしまさんのインタビューで読んだことがあるのですが、『やさしく、つよく、おもしろく。』(ほぼ日ブックス)を書かれたとき、その少し前に辛いことがあったとおっしゃっていましたね。辛いことを「乗り越えるために描いていた」と。

ながしま:
そうですね。当時は、描くことで気持ちの整理をつけていたように思います。

土門:
それは、実際にながしまさんの身に起こったことを作品の中で描いていた、ということですか?

ながしま:
いえ、そのまま描くのは辛すぎて、描けなかったんです。でも、現実とはちがう物語を描くことで、すごく癒されていましたね。

『やさしく、つよく、おもしろく。』は母と子の物語なんですけど、糸井重里さんの言葉をヒントに、母と子を「大人の自分」「子供の自分」というイメージで描いていて。「自分が感じたことがある感情ってどんなだったかな」って思い出しながら作っていました。そうしているうちに、許せなかったことが許せるようになっていたり、「結果的によかったのかも」って思えるようになっていたり……。

そんなふうに自分にしかわからない形で描いたけれど、読んでくださった方が何かを感じたり感想を言ってくださったりすると、分かり合えた気持ちになって。それが癒しになっていたんだろうなと思います。

土門:
なるほど……。今思い出したのですが、ながしまさんのインタビューの中で、もうひとつ心に残った言葉があるんです。
「読んでいて『自分が大事にされている』と感じられるようなものを描きたい」とおっしゃっていたんですが、覚えていますか?

ながしま:
はい、はい。

土門:
今のお話を聞くと、作品を描くことで、ながしまさんご自身がまずは「自分が大事にされている」感覚を味わっていたのかなと思いました。過去に自分が感じてきた感情を、もう一度拾い直しに行って作品にする。これまで放っておいた感情を、大切な形にして取り戻す。それがながしまさんの「自分を大事にする」行為だったのかなと。

ながしま:
……ああ、そうかもしれないですね。

土門:
それが、読者の私にも伝わってくるんですよ。自分の中の「大人の自分」と「子供の自分」が、ながしまさんの作品と共鳴する感じ。だから、読んでいる私まで、大事にされている気がしてくる。なんだかながしまさんの作品は、じわじわと効いてくる漢方薬っぽいなと思います(笑)。

 

自分で自分の「常備薬」を作っているのかもしれない

土門:
ながしまさんにとって、作品を作る中で大変なことって何ですか?

ながしま:
いろんな大変さがあるけれど、やっぱり
「気持ちをいい感じに保つ」ことでしょうか。心を健康な状態にしておかないと、結果的に良いものができない。それがすごく大事だなって思います。だからまさに漢方薬を飲んだり(笑)、あとは朝夕に散歩をしたりするようにしています。作品ができたらできたで、「これで良かったのかなぁ」って悩んだりもするのですが。

土門:
作るのも発表するのも、大変なことですよね。それでもやっていけているのは、どうしてでしょう?

ながしま:
やっぱり、作ることで自分が癒されるからでしょうか。最近は、どうすれば読む人が「おもしろい」と思ってくれるかなということも考えて作ってみているのですが、やっぱり最初の『やさしく、つよく、おもしろく。』の作り方が要にあるように
思うんです。

さっき土門さんがおっしゃった「感情をもう一度拾いに行って作品にすることは、自分を大事にする行為なんじゃないか」ということですが、まさにそうだったなと今思いました。描くことで、自分のことを大事にしていたんだろうなと思います。

土門:
もしかしたらながしまさんは、作品を通して、自分で自分の「常備薬」を作っているのかもしれないですね。

ながしま:
ああ……なるほど。

土門:
ながしまさんが自分のためにこねこねと作った「常備薬」を、私も分けてもらっているのかもしれません。他の人にも効く、汎用性がある「常備薬」というか(笑)。

ながしま:
あはは、そうだといいなぁ。私自身、やっぱり作品を作る一番の理由は「自分のため」なんですね。描くことで癒されて、精神的に安定できている。でも、
さらに作品を発表したときのみなさんの反応に癒されているんですよ。「読みました」って言っていただけるだけで嬉しい。その中で、私が考えていたこととは別の感じ方や捉え方をしてくださったりとか。自分でも気づいていなかったことに気づかされたりとか。そういうのがすごく嬉しくて。

土門:
読んでいる人も、ながしまさんとともに過去の感情を味わい直しているんでしょうね。未来に向かっている中でいったん立ち止まって、過去をもう一度抱きしめ直すような……だからながしまさんの作品には、子供と大人が存在し続けるのかなぁ。

 

心が揺れ動いた1年を経て、今描きたいもの

土門:
2020年はたくさん感情が動いた1年だったと思いますが、それもまた、いつか形を変えて作品になるのかもしれませんね。心が揺れるたびに、ながしまさんの常備薬が生まれていくというか(笑)。

ながしま:
あはは。そうだといいですね。

土門:
ちなみに、次はこんなものを描きたいな、というのはありますか?

ながしま:
コロナの前から描きたいなって思っていたのは、まさに「自分が大事にされている」と思えるようなものなんです。絵本の読み聞かせをすると、子供は心を愛撫されているような気持ちになるって聞いたことがあるんですけど、
私の漫画を読むことで、読者の方が心を撫でられているような気持ちになったらいいなって。

あとは、コロナの中で考えていたのは、「許すこと、許されることって、どういうことなんだろう」ということですね。子供のころは謝ったら許せたり許してもらえていたけど、大人になると、そうできないことが増える。人に対してはもちろん、たとえば自分が失敗したときに、どうしたら自分を許していけるのかなっていうのも描きたいなと。……本当に描けるのかなって感じなんですが(笑)。

土門:
それはぜひ読んでみたいです。ながしまさんの感情の動きから、こんなふうに「常備薬」って生まれているんだなぁと、リアルタイムで知ったような気持ちになりました。楽しみにしていますね。

ながしま:
ありがとうございます。がんばります。

お話を聞いているうちに、わかったことがあります。

それは、自分を支える「常備薬」は、他人からもらうだけでなく、自分で作り出すこともできるのだということ。他人にわかってもらうことももちろん必要ですが、自分で自分をまずはわかってあげる。ながしまさんが言うように、「自分が感じたことがある感情ってどんなだったかな」と振り返り拾い直す作業は、自分の感情を肯定し大切にする作業なのでしょう。

そうして生み出される作品だから、読んでいていつも涙を流してしまうんだなと思いました。ながしまさんが自分自身を癒している姿に、自分も一緒に癒されているように感じるからかもしれません。

これからも、気持ちが揺れ動くことはたくさんあるでしょう。だけど、どんな感情も自分で受け入れ大切にすることができれば、その都度傷は癒え、また歩いていけるはず。そんなことを思わせてもらった時間でした。

(おわり)

【写真】濱津和貴

 

本連載のバックナンバーはこちら

 

ながしまひろみ

1983年北海道生まれ。マンガ家、イラストレーター。著書にマンガ『やさしく、つよく、おもしろく。』(ほぼ日ブックス)、絵本『そらいろのてがみ』(岩崎書店)、マンガ『鬼の子』全2巻(小学館)。デザインの仕事をしながら絵を描きはじめ、2019年6月からフリーランスとして活動中。

HP:https://nagashimahiromi.studio.site/
Instagram: @nagashitake

 

土門蘭

1985年広島生まれ。小説家。京都在住。小説、短歌、エッセイなどの文芸作品や、インタビュー記事を執筆する。著書に歌画集『100年後あなたもわたしもいない日に』、インタビュー集『経営者の孤独。』、小説『戦争と五人の女』がある。


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