【57577の宝箱】映画から滴る時間が肌に溶け 私の時間をきらきらさせる

小説家 土門蘭


映画を観る醍醐味のひとつは、役者さんの持つ「美しさ」を見られることだと思う。

ここでいう「美しさ」とは、容姿が整っているとかスタイル抜群だとかお肌がピチピチだとかそういうことではない。もちろんそういった要素にも惹かれるのだけど、生まれ持ったものではない、後から身につけた美しさに私は惹かれる。

例えば、話し方。歩き方。座り方。ものの食べ方。
「あっ、この人きれいだな」と思う役者さんは、一挙一動が見惚れるほど美しい。

そういう美しさは、役柄とはあまり関係がない。お嬢様役でも不良娘役でも、警察役でも犯人役でも、演技に関係なくその美しさはある。
そんな役者さんを見ると、人に見られる仕事柄、訓練されてきたのだろうなと思う。見ている人に自分の言動が気持ちよく入って行くように、日々発声の仕方や動き方を学んでいるから、体に美しい動き方が染み付いているのではないかな、と想像する。

わたしは昔から、そういった訓練された美しさにとても憧れる。年齢を重ねるにつれ、ますますその憧れは強くなった。「若さ」が美しさのひとつなら、それは誰からも例外なく確実に失われるけれど、後から身につけた美しさはなかなか失われることはない。自分自身が若さを失うにつれて、そういった美しさに敏感になった。

北野武さんのお母さんの言葉で、
「お金は人に取られればそれまでだけど、教育というのはどんなに人が取ろうと思っても取れるもんじゃない」
というものがある。

まさにその通りだと思うし、それはひとつの確かな希望だ。わたしが目を奪われるのは、そういった学び取られた美しさなのだ。

§

この間、久しぶりに邦画を観た。

子供が生まれてからなかなか映画を観る時間がなく、観るとしても子供が好きな海外のアクション映画やアニメ映画が多かったので、こういった現代日本の日常を描く映画は久しぶりだった。

主人公は、わたしよりも少し年上の女性。シングルマザーで、中学生の息子と住んでいる。友人カップルとも一緒に住んでいるので、四人暮らし。そんな一風変わった一家の物語で、タイトルは『青葉家のテーブル』という。

もともとドラマとして放送されていた物語で、それも大好きだったのだけど、このたび映画化されることになったと聞いて楽しみにしていた。そのオンライン試写に招待されて、一足早く自宅で鑑賞させていただいたのだ。

長男は遊びに行っていて、次男はお昼寝。そんな日曜の午後、「今だ」とばかりに再生ボタンを押す。マンションの一室での会話劇から、物語は始まった。

§

観ていて思ったのは、「やっぱり、きれいだなぁ」ということだった。

わたしは前から、この一家の人々の動きが好きだ。動き方や話し方など、いちいちが美しいなぁと思う。日常生活を舞台にしているから、しかも登場人物に同世代の人たちが多いから、なおのことそう思う。姿勢の良さ、指使いの美しさ、声の出し方や表情の変え方。それらひとつひとつが、目に、耳に心地いい。役者は見られる職業と書いたが、わたしたちが2時間近く心地よく観ることができるというのは、役者さんがそのように演じてくれているからなのだろう。

特にいいなと思うのは、料理のシーンだった。この物語では何度も料理のシーンが出てくるのだけど、そこが一番「きれいだ」と思うところかもしれない。

以前も書いたことがあるが、わたしは料理が得意じゃない。冷蔵庫にある物を使って短時間で仕上げなくてはいけないと思っているので、料理をしているときどうも急いで殺伐としてしまう。でもこの物語の登場人物たちは、みんな丁寧に料理をしている。楽しそうに、リラックスして、ゆったりと。この映画でも、やっぱりそうだった。

もちろん、映画だから現実とは違うわよ、と思うこともできる。でも、もしかしたらこれが、この一家に流れる時間のスピードなのかもしれない。丁寧に、楽しそうに、リラックスできる、時間の流れ。そう思いながら観ていてふと、わたしが「きれいだ」とか「美しい」と思ういちいちは、そういうことなのかもしれないなと思った。

つまり、自分の時間軸で生きるということ。周りに振り回されることなく、自分の時間の流れを守るということ。役者さんたちは無数の目にさらされながらも、自分の役柄を守るためにきっとそれを無意識に行っている。わたしはその訓練された強さに、もしかしたら惹かれているのかもしれない。

§

エンドロールが流れて、映画が終わる。
満足のため息をついて背伸びをしたら、長男が帰ってきた。次男ももうすぐ起きるだろう。

「今日のご飯、なに?」
と長男が言う。もうすぐ夕飯時だ。そろそろ何かを作り出さなくちゃ。わたしはパソコンを閉じて、台所へ向かう。

エプロンをつける手が、冷蔵庫を開ける手が、食材を取る指が、まな板に向かう背中が、いつもよりもどこか優雅になっていることに気がつきながら、わたしは台所で立ち回った。あの映画の時間の流れが、わたしにも伝染したなと思う。映画を観る醍醐味のもうひとつは、そこで流れる心地いい時間が自分の人生に流れ込んでくることだろう。

「美しい人」というのは、美しく生活をする人のことを言うのだと思う。
そのためには、自分の時間の流れを大切に。映画に出てくる「美しい人」たちは、そんなことをわたしに教えてくれる。

 

“ 映画から滴る時間が肌に溶け私の時間をきらきらさせる ”

 

1985年広島生まれ。小説家。京都在住。小説、短歌、エッセイなどの文芸作品や、インタビュー記事を執筆する。著書に歌画集『100年後あなたもわたしもいない日に』、インタビュー集『経営者の孤独。』、小説『戦争と五人の女』がある。

 

1981年神奈川県生まれ。東京造形大学卒。千葉県在住。35歳の時、グラフィックデザイナーから写真家へ転身。日常や旅先で写真撮影をする傍ら、雑誌や広告などの撮影を行う。

 

私たちの日々には、どんな言葉が溢れているでしょう。美しい景色をそっとカメラにおさめるように。ハッとする言葉を手帳に書き留めるように。この連載で「大切な言葉」に出会えたら、それをスマホのスクリーンショットに残してみませんか。

 


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