【あのひとの子育て】フォトグラファー・馬場わかなさん〈後編〉親になって、自分自身を広い心と長い目で、見られるようになりました。
ライター 片田理恵
人や料理など、暮らしのさまざまな場面を撮り続けるフォトグラファー・馬場わかな(ばば・わかな)さん。前編では小学校2年生の息子さんが大好きだというバスケットボールをめぐる親子の日常を伺いました。
続く後編では、クラスメイトとの小さなすれ違いのエピソードが登場。子どもを見守るということについて、馬場さんに今の思いをお話しいただきました。
からかわれても言い返せなかった日
揺れ動く子どもの気持ちをしっかりと見守る。そこには親として、どれだけの覚悟があるでしょうか。心配しすぎて子ども以上に悩んでしまったり、口を出しすぎて子どもを余計に悩ませてしまったり。
目と心は離さず、少しずつ手を離していく自立のプロセスは、喜びであると同時に、なんとも悩ましいものでもあります。
馬場さん:
「1年生の1学期、息子がクラスメイトから数回、からかわれたことがあったんです。言い返せなかったことに『そんなに?』というほど落ち込んで帰ってきて。でもこのままじゃいけないと考えたんでしょうね。『明日はちゃんとやめてって言うんだ』って意気込んで、翌日、学校に行ったんです。そうしたらその子が欠席で。
息子は当事者のいない帰りの会で、自分の気持ちを話したそうです。後日、担任の先生が改めて話をする時間を設けてくれたんですけど、いざとなったら何も言えなかったみたい。結局先生が、息子の気持ちを代弁してその子に伝えてくれました」
馬場さん:
「実をいうと、最初は私が相手の子の親御さんと話をしようと思っていたんです。『きっちり言ってやる』って、それこそ意気込んで。でもコロナ禍で保護者会なんかも開催されず、顔を合わせる機会がなかった。
そうこうしているうちに、気づいたら息子がその子と友達になっていたんですよ。普通に一緒に遊ぶようになって。『あれ、仲良くなってる?』みたいな(笑)。言う機会がなくてよかったと思いました」
あるがままを受け入れたい
言う機会がなくてよかった。馬場さんがその言葉に込めたさまざまな思いに、身に覚えがあるお父さんお母さんも、たくさんいるのではないでしょうか。
つらい状況にある子どもを思うと自分自身のこと以上に心が苦しい、受け入れがたい、あの気持ち。悲しい。悔しい。腹立たしい。
そして自分の力でそこから一歩踏み出したときに見せる、照れたような表情と少し大きくなった背中。頼もしい。誇らしい。そしてすごく、嬉しい。
馬場さん:
「理想はいつでもドンと構えた頼れる母。でも現実にはちっともそうはなれない。だから息子よ、すまないがいたらぬ母を乗り越えていってくれ、というのが正直な気持ちです。その時々で何が最適かということは一緒に模索していくから、と。
でも完璧じゃないからこそ、工夫できることもあるんですよね。私は息子に自分の意見を伝えるとき『私はこう思う』『私ならこうする』という言い方をするように、できるだけ心がけています。それと、間違いに気づいたらすぐに謝る。親のいうこと=正解ではないですから」
親がいつだって道の途中にあるように、子どもたちもまた同じ。しかも彼らはぐんぐんと思いもかけない速さで、歩幅で、自らが決めた道を歩きだしています。
子どもだけでは解決できないのではと思っていたことが、知らぬ間に決着している。そしてどんな予想よりもいいリスタートを切っている。なんてことも、実は少なくないのかもしれません。
馬場さん:
「私は親になって、自分をそれまでより少しだけ広い心で、長い目で、見られるようになった気がしてるんです。子どもに対してそういう親でありたい、人間でありたいという気持ちが芽生えたときに、それは自分に対しても、社会に対しても同じなんじゃないかと思って。
ちっちゃい心と短い目で見てしまって『ちっちぇえなー、自分!!』と反省する日もあります。いっぱいある。でも、息子のことも、自分のことも、その時々のそのままを、あるがままを受け入れたいですよね。なるべくね」
迷っても、もどかしくても。子育てっておもしろい
迷わない親なんていない。馬場さんの言葉を聞きながら、今さらのようにそう思いました。
できないことを落ち込むのではなく、できないなりになんとかなるさと前を向く強さ。馬場さんがそれを手にするまでにはきっと、何度も迷って、迷って、迷った末にそれでも「こうありたい」と立ち上がった日があったのだろうと気づいたから。
馬場さん:
「もどかしいのも込みでおもしろいですよね、子育てって。本当におもしろい経験をさせてもらっていると思います」
馬場さんの子育ての話、いかがでしたか。
親になったことで、子どもを、自分を、社会全体を、それまでより少しだけ広い心と長い目で見つめることができるようになった。そんな馬場さんの変化を、私たちも今一度、自分の中に見つけてみたいと思いました。
道の途中にあるひとりひとりの存在を認め、尊重するために。そしてそうやって紡ぐ未来を、子どもたちに手渡すために。
(おわり)
【写真】神ノ川智早
馬場わかな
フォトグラファー。1974年3月東京生まれ。雑誌、単行本で主に暮らし周りを撮影。 好きな被写体は人物と料理。著書に、17組の人とその人の作った料理を撮り、文章を綴った『人と料理』(アノニマスタジオ刊)がある。他に『まよいながら、ゆれながら』(文・中川ちえ)など。
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