【今日も、台所にいます】第2話:町田紀美子さん「『私が全部やる』を手放したら、すごく楽しくなりました」

ライター 片田理恵

台所って料理をするだけの場所じゃない。じゃあ私にとって台所ってどんな存在なんだろう。そんなテーマで雑貨店オーナーの皆さんにお話を伺っています。

少しずつわかってきたのは、三者三様、台所への思いも過ごす時間もそれぞれに違うということ。だからこそ「台所と私」という、パーソナルで心地いい関係が出来上がるのかもしれません。

第一話のジェゲデ真琴さんに続き、第二話には「park」の町田紀美子さんが登場です。

第一話から読む

 

考える時間を含めて8割超。台所は暮らしの「要」

東京・調布市でカフェと生活道具の店「park」を運営する町田さん。店舗からもほど近い住宅街にデザイナーのご主人、中学生と小学生のふたりの息子とともに暮らしています。

家族みんな食べることが大好きという町田家の食を支えるのが、丁寧に使い込まれた道具がずらりと並ぶ対面式の台所。仕事の日はほとんどの時間を店で過ごすという町田さんですが、反対にオフタイムはほぼ一日中、台所にいるのだとか。

町田さん:
「朝は朝食と、家族のお弁当作りからスタート。その後も時間を見つけてはお腹をすかせて帰ってくる子どもたちのためにおやつを作ったり、翌日以降のお弁当や夕飯の下ごしらえをしたりして、夕方からは夕食の支度に取りかかります。日々の暮らしは完全に台所が中心ですね」

 

段取りはテトリスと同じ。はまると気持ちいいんです

中でも、自分のタイミングに合わせて作業ができる下ごしらえは最も好きな時間。この日も夕食用の大根サラダを先取りで作っておきます。仕事がある日は朝も夜も慌ただしいことが多いため、こうしてゆっくりと料理を楽しめるひとときは「自分のための時間」でもあるそう。

町田さん:
「段取りを考えて組み立てながら台所仕事をするのは、脳内のテトリスがスポスポとはまっていくような快感があって楽しいですね。料理だけでなく、整理整頓や道具の手入れも同じ。ここまでやっておこうと決めた作業をやり遂げた時の心地よさがたまらなく好きなんです。

自分ではそんなに自覚がなかったんですけど、昔から片付けはわりと得意でした。小学生の頃に片付けが苦手というお友達の部屋の整理整頓を手伝ったら、その子のお母さんにリビングも頼まれたくらい(笑)」

使用頻度の高いものほど手の届きやすい場所に置き、使い終わったら定位置に戻して、次の人が取り出しやすいように並べる。奇をてらった方法ではなく、あくまでも基本に忠実なやり方を積み重ねて作り上げられた台所だということが伝わってきます。「台所道具が好きすぎて店を開いた」という町田さんの言葉にも思わず納得。

町田さん:
「片付けのコツは『誰にでもどこに何があるのかがわかるよう、すべてが見えるように置く』こと。これは私ひとりが家事の負担を負わないためでもあるんです。家族みんなにとって使いやすくすることで、『これお願い』と頼めるから」

 

とにかく炊きたてのごはんさえあればいい

では、仕事のある平日はどうなのでしょうか。町田さんの業務は店舗の営業とそれに伴う準備と片付け、オンラインショップの運営と対応、カフェの経営。夕食の下準備が何もできないまま仕事で帰りが遅くなる日も珍しくないといいます。

町田さん:
「夕飯の支度は夫婦どちらかのできる方がやるというスタイル。じっくり取り組める休日とは正反対だけれど、ライブ感があってそれはそれで楽しいんですよね。うちは大のごはん党で、とにかく炊きたてのごはんさえあればいい。あとは焼くだけ、揚げるだけといったシンプルな調理で食卓を整えています」

 

私の相棒「精米機&土鍋」

そんな町田さんが毎日必ず使う台所の相棒は「精米機」と「土鍋」。玄米で購入した米を、食べる直前に精米機で精米して土鍋で炊き上げる。結婚以来愛用している伊賀焼の土鍋を使い、ずっとこのやり方で炊飯をしてきました。ご主人や息子さんたちも同じ方法でごはんを炊くことができるそう。

町田さん:
「大事なのはおいしいと感じることだと思うんです。精米をするのも、土鍋で炊くのも、その味が好きだから。炊いたごはんはおひつに入れておいて、温め直す場合はせいろで蒸してから食べます。昔ながらの道具が持つ潔さ、仕事の確かさにも惹かれますね」

 

楽しいと思えるやり方で台所に立ちたいから

日がな一日料理をするオフタイムと、仕事に全力投球する時間。どちらも自分のペースで楽しむ町田さんですが、かつてはそれらすべてをひとりで抱え、苦しんだ経験がありました。

町田さん:
「『私が全部やる』と意気込んでいたんです。そんなの無理だって当時は気づけなかった。今はお店の営業時間を短くして、食事の支度をしながらワインを楽しんだり、夕飯の後片付けは夫や息子たちにお願いしたりと、楽しいと思えるやり方で台所に立つようになりました。だってやっぱり仕事を思い切りしたいし、ごはん作りもきちんとやりたいから。私、欲張りな性格なんです」

自分らしく暮らすために、もう、無理はしない。楽しみながらやれるペースを探しつつ、今日も町田さんは家族の食事作りに精を出します。

続く第3話では「Fika」の塚本佳子さんが登場。「台所と私」の物語、まだまだ続きます。

(つづく)

【写真】木村文平


もくじ

 

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町田紀美子

カフェと生活道具の店「park」の店主。日本各地の作り手による器や道具など、暮らしの場で長く使うことのできる実用品を中心に販売している。夫、息子2人と4人暮らし。

https://thisispark.jp


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