【脚本 神谷圭介さん × 店長佐藤】新ドラマ記念対談! 40代、照れなく「好き」と言えるまで。

ライター 長谷川賢人

こわれる、きずつく、うしなう、といったことに、どうしても怯えてしまいます。高価なお皿を買ったとき、狭い道をクルマで通るとき、大切な人とケンカしたとき──。

でも、こわれても、なくしても、自分が慈しんだ時間と想いは胸に残り、また「始まり」になっていくきっかけでしかないのかもしれない。つらさはすべて消えずとも、また前を向けるようになっていく。

『庭には二羽』を観たときに、そんなふうに感じました。

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店長の佐藤は「軽快でリズムが良く、ユーモアもあって、これまでのドラマともちがうものを作れた実感があります」と話します。公開までかかった時間は、実に2年間。何度も脚本を練り直し、撮影を進めた作品となりました。

脚本を担当した神谷圭介(かみや けいすけ)さんにとっても「初めてまっすぐなドラマを描いた」と言うほどに、新たな挑戦だったようです。

異色作であり、意欲作。公開を記念して、佐藤と神谷さんが制作の2年間を振り返ります。さらには、制作を通じて自身に起きた変化についても語り合いました。

 

直感的に、神谷さんと何かを作ってみたくなりました

佐藤:
今作のきっかけは、髙橋真(たかはし まこと)監督から「女性の ”バディもの” に探偵要素を含めた作品が撮りたい」という構想が届き、私からは「それなればオール国立ロケにしてみたい!」と希望を出したことでした。仮タイトルも『くにたち事件簿』でしたね。はじめに脚本のオファーが来たときは、どのように感じていたんですか?

神谷さん:
クラシコムさんに話を持ちかける前に構想を聞いたのですが、「え?あの『青葉家のテーブル』の雰囲気で作るの?」と思って(笑)。

ひとりの視聴者として『青葉家のテーブル』を観ていたんです。画に映る家具や生活雑貨などの空気感も含めて、ぼく自身もその世界観が好きでした。そんな人たちと何かを作るなら毛色を変えたい意図もわかりましたし、そのために僕に声をかけてくれるのだろう、とも。

それこそ松田優作さん主演の『探偵物語』みたいな、これまでと異なるカルチャーも混ぜたようなかたちにできたらいいのかも……なんて話をしながら、脚本を考え始めました。

▲今回の対談は、ドラマのロケ地となった「room103」で行いました。

佐藤:
「脚本はテニスコートの神谷圭介さんに」と髙橋監督から聞き、その時点では恐縮ですが存じ上げなかった私は、まず神谷さんのTwitterのつぶやきをさかのぼってみたんです。

神谷さん:
おー、こわいですね(笑)。

佐藤:
すみません(笑)。それで、ロジックというより直感的に「神谷さん、好きだな」と思えました。会ってみたらお話が合いそうだな、と感じて。

そこからYouTubeでテニスコートのコント過去作を観て、ウェブメディアのインタビューも読んでいきました。神谷さんは面白い脚本を書き、実際に演じもするけれど、常に「引きの目線」で舞台を見つめるプロデューサー気質もある方なんだろうと。知るほどに、神谷さんがデザインされる世界観に感銘を受けて、好感が募っていきました。

神谷さん:
そんなふうに、ちゃんと言葉にして伝えてくれて、ありがとうございます。

 

神谷さんの世界観と、当店のドラマが融合したら、何が起きる?

佐藤:
髙橋監督に神谷さんとお会いしたい旨を伝えると、「佐藤さんがお好きだという韓国ドラマに、彼も僕もハマり出しているところなので、一度『韓国ドラマを語る会』をしてみませんか?」と返事が来て。そこで、お互いの直感を確かめる機会をくれたんでしょうね。

神谷さん:
あれはそういう会だったんですね!無邪気に『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』あたりの作品について話しましたっけ。

佐藤:
そうそう!

神谷さん:
コロナ禍になって、韓国ドラマを見る機会が増えていたんです。僕は韓国ドラマが持つヒューマンな物語の作り方に、シンプルな感動を抱いていて。それも、コント脚本だけではなく、人間を描くドラマを書きたい気持ちになった影響の一つだと思います。

佐藤:
実は、その会でとても安心したことがあるんです。

観てくださるお客さまには「北欧、暮らしの道具店が作るドラマには、どこかには一貫性があるよね」と感じてもらいたいですし、今回の新作もそうしたかったからこそ、「脚本のプロではない私たちが意見を挟ませていただくかもしれませんが、大丈夫ですか?」と神谷さんへ伺ったときのことです。

そうしたら「全然、どんどん言ってください」と答えてくださり、「僕も勉強したい気持ちがあります」といったようなことも教えてくれて。

神谷さん:
それは本心ですね。なにせ、初めて作るようなドラマですし、僕としても強引に「自分のやり方」に押し込めていくつもりもなかったですから。

そう聞くと、相性がよかったのかもしれませんね。僕も、一貫性のあるイメージをベースに、バリエーションのちがう作品へ生かしていくやり方が好きなんです。『青葉家のテーブル』や『ひとりごとエプロン』からも通ずる印象を反映させながら、それに異素材をミックスしていくような面白さを叶えるのは、僕としてもやりたいことの一つでした。

佐藤:
「神谷さんが作るコントやテーマの世界観」と「北欧、暮らしの道具店のドラマ」が融合したら何が起きるんだろうというのは、私にとっても玉手箱みたいなもの。不安半分、ワクワク半分で走り出しました。

今回の新作は、これまで3つのドラマをディレクションしてきたからこそ、その玉手箱を開けるような感覚を大事にしたかったんです。そうでないと自分も喜べないし、お客さまにも新鮮な驚きを届けられないと思ったからです。髙橋監督と神谷さんのドライブに、自分も相乗りさせてもらうような気持ち、といいますか。

神谷さん:
北欧、暮らしの道具店の世界観を持つ作品群に加わるというプレッシャーは、ちゃんと僕の中にありました。それをわかっていない人が手掛けてはいけない仕事だ、とも感じていたくらい。もちろんそれは、髙橋監督とも通じ合っていたことだったと思いますね。

 

なくしたものを、探し続けていたって、わるくない

佐藤:
「韓国ドラマを語る会」以降、本格的な脚本づくりが進んでいきましたね。初稿があがってきた時に一読して、琴線に触れたので「きっと大丈夫」と感じたんです。と。

大きかったのは、作中でもシンボリックに描かれる「金継ぎ」のモチーフです。器のヒビや欠けを漆でつなぎ、金粉で化粧をして修復する。金で繕った模様のことを「景色」と呼ぶ……自分たちも、いろんなキズや欠けを抱えながらも、それなりに明るく生きようとしている人間ですし、まさにそういう人たちにとっての物語だと思えました。

神谷さん:
今回の脚本を決定づけたのは、僕も金継ぎだと思います。金継ぎは、手仕事や所作を見ているだけでも快い時間が流れるもので、そういった要素が作中に欲しいと考えていました。バディのうちの一人は、その作業に身を置いている姿がいいな、と思っていて。

もともと興味もあったのですが、実際に金継ぎ職人さんへお話を伺った瞬間に「これだ!」と感じたんです。「壊れたものを修復することで新しい味になり、それが景色と呼ばれる」ということ自体が、もはや人間と関わるドラマじゃないか、と思って。

佐藤:
それから、なくしたものを取り戻そうとして探し回ることについても、「振り切ること」を良しとする価値観もありますが、それは必ずしも無様なことではないという描かれ方に、私は優しさを感じました。

ただ、脚本でどうしても直していきたい部分も、いくつかありました。それで、髙橋監督と神谷さんとビデオ会議をつなげて、夜遅くまで脚本について語り合いましたよね。

神谷さん:
佐藤さんのコメントは、僕がコントを書くときの抜けきれないクセを自覚させてくれましたね。そのあたりがまろやかになりながら、登場人物たちの背景がより立ち上がり、さらにつながっていくような関係性が見えていったと思います。

佐藤:
髙橋監督を含めた3人でのやり取りが、私にはとっても気持ちが良かったです。全員がフラットな目線で臨んでいて、監督からは「佐藤さんのおっしゃることもわかるけれど、今回チャレンジしたい部分は弱くなってしまいますよ」と何度も言われたような気もします(笑)。

でも、「ここはごめん、譲れない!」という箇所には意見を伝えて、そこからお二人がまた柔軟に考えてくださって。そうやって練りに練って……映像の完成までに出会ってから約2年が過ぎていましたね。

神谷さんが脚本を書かれたことは、このドラマの大きな個性になってくれています。映像の作り方も今までのカット割りとは異なり、舞台演劇を思わせるような長回しのカットもあって。それでいて軽快でリズムが良く、ユーモアにあふれる。これまでのドラマとはちがうものを作れた実感が湧きました。

神谷さん:
そこはかとなく品のある映像と、良い空気感の中で物語がつむがれていき、気づいたら結末で「あぁ!そういう話なんだ!」と思える。制作に携わった方々のおかげでもありますが、「ほんとうに僕が書いたものか?」と(笑)、自分でも驚くほど良い作品になりました。

 

40代って、「照れ」を取り去りたいフェーズなのかも

佐藤:
神谷さんにお願いしてよかった、と思えることがもう一つあって。

神谷さんが初めてお会いしたときに、『青葉家のテーブル』の感想を伝えてくれたことです。監督した松本壮史さんの作品への姿勢について「照れがなく、人間を描くことにまっすぐに向き合っている。自分もそういうチャレンジをしたい」と言っておられました。

私たちの描きたい世界観をまっすぐに受け止めてくれて、作中に出てくる美術設計にいたるまで、とてもポジティブに見てくださっていると感じました。神谷さんなら、お互いをリスペクトしながら、フラットな関係性で作っていけるはずだと思えたんです。

神谷さん:
もともと好きなものでもありましたから。「そういうチャレンジをしたい」と言ったのは、僕にもそういった「好きなもの」や「良いと思えるもの」を前面に出すのが難しい時期があったからかもしれません。「照れ」との戦いが長く続き過ぎていたな、と思いますし。

佐藤:
神谷さんって、今、おいくつでしたっけ。

神谷さん:
42歳です。

佐藤:
私が4歳上になるんですけれど、40代って、そういう「照れ」を取り去っていきたいと思えるようになるフェーズなのでしょうか。

私も若い頃は、感動した映画をまっすぐに「良い映画だった!」と言うことに躊躇があったりしました。良かったものを、ただ「面白かった」と表現するだけじゃ、周りからつまらないと思われるんじゃないか、とか……。

みんなが「名作!」と言ってる映画に、実はとっても感動したのに「良かった」と言えない。でも、それこそ韓国ドラマを観ていると「まっすぐに幸せな気持ちにしようと作っている」と感化される部分ってありますよね。

神谷さん:
30歳を過ぎたくらいから、そういう虚栄心みたいなものが、自分をどんどん窮屈にしている感覚がありました。それは自分の中でも潮目の一つで、「なんであんなに斜に構えていたんだろう」と見直せたんですよね。恥ずかしい話ですけれど、本当に最近のことです。

コロナ禍で全てが一度止まって、新しいことを始めようとする若い人たちと、何がしかを一緒に取り組んだ経験にも影響されている気がします。自分としても過渡期だという自覚もありますね。僕が変わろうとする姿を見て、髙橋監督も今回の脚本を依頼してくれたのかもしれません。

実際に『庭には二羽』の機会を経てみると、自分を変えようとしても、どうしても残ってしまうものが、おそらく「自分っぽいもの」だとも感じます。その混ざり具合で作品が面白くなっていく。他者と絡む機会があっても、いかに「自分っぽいもの」で貢献できるかもわかりやすくなりました。

とはいえ、長年やってきた「斜に構える」姿勢はなかなか取れず、結局は超えられていない「照れ」もたくさんあります。それら全てを悪いとは思いませんが、自覚的にはなりたいですね。

 

『庭には二羽』が見せてくれた、あたらしい “景色”

佐藤:
こんなことを聞いてよいかわかりませんが……むしろ、ここまで「斜に構える」ことを続けてきて、良かったと思えることもありますか?

神谷さん:
野球でいうと、最初から変化球しか投げてこなかったピッチャーなんですよ。それでストライクを狙ってきた。だから、今の自分がストレートを投げても、きっとどうしても、わずかな変化のクセがボールに出てきちゃう。メジャーリーグのボールって、実際にそうらしいですね。まっすぐではないけれど、それも「良さ」だと捉えるようにしました。

むしろ、「ちゃんとしたストレートって、本当にすごいんだな」と思えるようにもなりました。僕らがテニスコートを始めたのは大学生のときで、当時は斜に構えているほうが格好がついたくらい。でも、最初からまっすぐを投げ続けている人がプロになって、そのストレートが客席へ届いたときの大きな衝撃を目の当たりにすると、やっぱり凄みがある。

僕にとって『庭には二羽』は、今までにないくらい、まっすぐな球だけを頑張って投げ続けようとした機会でした。これから作るものに影響を与えてくれたとも感じます。僕の投げるストレートはわずかに変化しながら客席へ届いていくことで、また違う着地を見せてくれるかもしれない、と期待しているんです。

佐藤:
逆に、私は本当はまっすぐしか投げられないタイプで、変化球が使える人にコンプレックスがあったのかもしれないと、お話を聞きながら感じました。若い頃は特に、そういう変化球を使える人に面白さやセンスを感じた部分もあって。「まっすぐ」は「面白みがないこと」と同じ意味なんじゃないか、と悩んだ時期もありました。

神谷さん:
でも、結果的には、まっすぐな人のほうが、今でもそれを続けられているんですよね。どちらにしたって、センスだけでは、いずれ壁に当たっていくものですよ。

佐藤:
ぜひ神谷さんのファンの方にも、この対談を読んだ後で『庭には二羽』をご覧いただきたくなりました。

私としては、ぜひ続編を撮りたい作品です。この庭の中で、ツグミとつばめというバディがどんなふうに新しいものと向き合うのか。髙橋監督も交えた3人でフラットに話し合う中から、また奇跡的なアイデアが降りてくるのだろうと思うと、楽しみで仕方ないです。

髙橋監督や神谷さんと出会えなかった人生も、きっと私にはあったはず。だから、『庭には二羽』と、それがつくってくれた出会いは、私にとっても人生の宝物です。

【写真】鍵岡龍門

 

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4/28(木)29(金)21時にYouTubeにてプレミア公開!

『庭には二羽』は、YouTubeの「北欧、暮らしの道具店」公式チャンネルにで4月28日(木)前編、29日(金)後編の二夜連続で21時からプレミア公開いたします。

プレミア公開では、チャットをしながらご覧いただくことができますので、ほかのお客さまやクラシコムのスタッフといっしょにぜひ楽しみながらご覧いただけますと嬉しいです。下記リンクからリマインダー設定をすると30分前にアラートが届きますので是非ご設定ください。

もちろん、あとからゆっくりご覧いただくことも可能です。

4/28(木)21時公開・前編はこちらから

4/29(金)21時公開・後編はこちらから

『庭には二羽』作品情報

作品名:庭には二羽
出演: 美村 里江、森本 華、石山 蓮華
辻 しのぶ、矢田 政伸、小路 さとし、鈴木 奈津子、阿見 201、大貫 花子、村中 玲子、吉村 えり
主題歌:大比良 瑞希「景色」
脚本:神谷 圭介(テニスコート)
監督:髙橋 真

エグゼクティブプロデューサー:佐藤 友子
プロデューサー:髙橋 真 石井 将

企画:株式会社クラシコム
製作:KURASHI&Trips PUBLISHING
制作:HOEDOWN
クレジット:©︎ 2022 Kurashicom.Inc

あらすじ
その事務所(事務所と言うにはあまりに青々しい場所だ)には、様々な悩みをもったお客がやってくる。 事務所の主は、不動産エージェントの蒼井ツグミ(41歳)と修繕士の鳥海つばめ(35歳)という少し変わった、変わったというより変な組み合わせの2人である。 一度話を聞いてしまったら放ってはおけない。おせっかいなバディが今日も探偵ごっこをやりはじめ、ひと騒動を巻き起こす。

 

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神谷圭介

千葉県出身。俳優、作家、イラストレーター。コントグループ「テニスコート」のメンバー。プロジェクト「画餅」の代表。 舞台や映像への出演のほか脚本やイラスト、エッセイまたデザインや映像制作など多方面で活躍。


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