【大事なものの収納術】第1話:石川博子さん(うつわ編)「眺めて心地いい。そんな景色をつくりたいんです」

ライター 片田理恵

ものをしまう。取り出して使って、またしまう。それだけのことがどうしてこんなに難しいのでしょうか。新しい収納ケースを買ってみたり、引き出しにラベリングをしたりと試行錯誤はしてみるものの、なかなかしっくりこない。迷って悩んだ末、それは収納に「私らしさ」が足りないからじゃないか、と思い至りました。

たくさん持っているものほど収納が難しいように感じるけれど、量が多いのはそれが自分にとって大事なものだからこそ。数を減らすだけじゃない、多く所有していても気持ちのいいしまい方を知りたいと、「私らしい収納」を実現されている3人の女性のご自宅にお邪魔してきました。

その人にとっての大事なものが、ちゃんと大事に扱える形で、部屋の中にある。それってとてもすてきなことだと改めて実感した次第。全3話でお届けします。

 

自分の台所を持ったら、うつわが好きになった

最初に訪ねたのは、東京・恵比寿に店舗を構えるセレクトショップ「ファーマーズテーブル」のオーナー・石川博子さんの住まい。築50年超というヴィンテージマンションの一室は、懐かしさと新しさ、素朴と洗練とが同居する雰囲気たっぷりの空間です。

石川さんにとって大切なもの、ついつい数多く集まってしまうもののひとつが「うつわ」。けれど結婚するまで実家暮らしだった石川さん、当時は好みのうつわを見つけて購入しても、それを「母親の台所」で使うことにあまり魅力を感じなかったといいます。

石川さん:
「だって、家族の中で私ひとりだけ別のうつわを使っているって変でしょう。食卓全体のバランスも崩れてしまうし。だからどんなに好きなものでも、ムードが出ないんですよね。その反動もあったのか、結婚して自分の台所を持った途端、うつわへの熱が一気に高まったんです。

それまでのスタイリストという仕事をやめて自分の店を開いたのも同じ頃。どんなうつわを扱うかということを考えるタイミングでもあったから、余計に目が向いたんだと思います。そこから数年は、たくさん買い物をしました」

 

普段使いのうつわはキッチンの吊り戸棚に見やすく収納

そんなうつわの収納場所は、シンクの上にある吊り戸棚がメイン。マンションにもともとあった造り付けの棚が気に入って、リフォームの際にもそのまま残してもらったといいます。

もともとはガラスの引き戸があったそうですが、いちいち開け閉めをするのは使いづらいと自ら撤去。扉を外すことで収納の容量も増え、利便性もアップしました。

また取り出しにくい奥側には木箱を使って底上げの棚を設置し、手前から見ても奥に何があるかひと目でわかるようにしています。

石川さん:
「普段使いのものはここに置いています。置き方、並べ方は使いやすさが優先。どれも全部使いたいんだけれど、やっぱり取り出しやすい手前のものについ手が伸びてしまう。だから時々、うつわの場所を変えるんですよ。奥にある鉢を前に出して、重なり合った一番下にある皿を上にしてというふうに」

石川さん:
「そうやって定期的に循環させていると、毎回新しい発見があるんです。すごく好きなのに最近はあまり使っていなかったうつわの存在に気づけるし、じゃあ次はこれを使うために何を作ろうかと考えるのも楽しくて。

自分では全体を把握しているつもりでも、意外と忘れているんですよね。だけど、どれも気に入って手に入れたものだから、大切にちゃんと使いたい。場所の入れ替えをするのはそんな気持ちもあるのかもしれません」

 

見せる収納は、主役をひとつ決めるところからスタート

リビングに置かれたガラス扉付きのチェストの中にも、花器やコーヒーの道具を収納しています。石川さんいわく、この棚は使いやすさよりも「飾る」ことを優先しているそう。こういった「見せる収納」にも憧れはあるものの、何をどう並べたらバランスが取れるのか、つい難しく感じてしまうのですが……。

石川さん:
「これを置きたいという主役をひとつ決めるといいと思います。今のこのチェストの中身でいえば、透明なガラスのうつわがそう。上段の背が高いものは、最初は奥に置いていたんです。でもこのうつわを中心に景色を作りたいなと思って、あえて手前に持ってきました。向こう側が透けて見えるから、抜け感が出て視界が心地いい。

そうやって何かひとつテーマを決めると、ものの場所がひとつ決まるでしょ。あとは洋服の上下を組み合わせるように、隣り合ううつわを決めていくんです。白いシャツには黒いパンツも合うし、白いパンツも合う。でも受ける印象が全く違うじゃないですか。その時の気分でどっちが気持ちいいかを考えていくと、自然と全体が決まっていきますよ」

 

私らしい収納って、心地いい景色になっているかどうか

限られた時にしか使わない来客用の大皿や、好きでついたくさん集まってしまったという急須やポットが収納されていたのは、昔の日本の住宅で使われていた階段箪笥。階段の内側には、一段ごとに収納スペースが確保されています。外側の段差にもものが置けるなど、デザインもなんとも魅力的。

石川さん:
「私、模様替えが好きなんです。階段箪笥は置く向きによっていろんな表情が出るところがいいんですよね。家ではソファーに座って過ごす時間が長いので、そこから見える景色に飽きてきたなと思った時に(模様替えを)することが多いかな。

基準は、自分が今一番気持ちよく感じるのはどこだろうということです。自分らしい収納って、自分にとって心地いい景色になっているかどうかだと思うから」

 

しまって、飾って、使うというサイクルを作る

手と目で全体を把握しながら、常に自分にとって心地いいバランスを探すという石川さんの収納術。それが使い勝手にも、同時に見た目のよさにも、つながっているんですね。

しまって、飾って、使う。そんなサイクルを循環する生活には無理がないし、何よりとっても楽しそう。それこそが好きなものと暮らす醍醐味といえそうです。

続く第2話では、イラストレーターのよしいちひろさんが登場。高校生の頃から何より好きだという「洋服」の収納について伺います。

(つづく)

【写真】木村文平

 


もくじ

 

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石川博子

1958年東京生まれ。文化女子短大、文化服装学院卒業。スタイリストを経て、1985年に生活まわりの雑貨の店「ファーマーズテーブル」をオープン。著書に『「ファーマーズテーブル」石川博子 わたしの好きな、もの・人・こと』がある。http://www.farmerstable.com

 


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