【心地よい部屋へ】前編:ひとり暮らし、45㎡。60歳を前に住まいをリセットしました(エッセイスト・広瀬裕子さん)

ライター 嶌陽子


どこに住むか。マンションか、それとも戸建てか。どこに、何を、どれだけ置くか。住まいにまつわることは、いつだって選択の連続です。

一つひとつ考えながら選んでいくことは、楽しくもあり、同時に難しさを感じることも。年齢と共に求めるものも変化していく中、ぶれない指針がひとつでもあれば、より自分らしく、心地よい暮らし方ができるかもしれません。

自分なりの「哲学」を持って住まいを選び、整えている人生の先輩に話を聞いてみたい。そんな時に頭に浮かんだのが、エッセイストの広瀬裕子(ひろせ ゆうこ)さんです。

半年ほど前に取材で広瀬さんの家に伺った際、ものがとても少ないのに寂しい感じは全くなく、ほっと安心できるような空気に満ちていたのがずっと心に残っていました。

何ともいえない心地よさの背景には、広瀬さんの住まいに関する「哲学」がきっとあるはず。これまでの、そして今の家や暮らしについてじっくりお話を伺ってきました。前後編でお届けします。



これまで13回引越し。基準は「窓からの景色」です

窓から見えるのは、隅田川や東京湾の景色。そんなマンションに、広瀬さんが愛猫と一緒に引っ越してきたのは2年前のことです。それまで暮らしていた瀬戸内から、20年ぶりに東京に戻ってきました。

広瀬さん:
「60歳を前にして、これからどうやって生きていくかを考えたいと思いました。そのために、自分が生まれ育った東京に戻って一旦リセットしようと思ったんです。

住むなら交通の便がいい場所にしたかったのと、一度隅田川の近くに住んでみたかったので、いろいろ見て回った末にここに決めました」

東京、葉山、鎌倉、瀬戸内……。実家を出て一人暮らしを始めてから、引越しは13回してきたという広瀬さん。その間に結婚と離婚も経験しました。

広瀬さん:
「マンションに住んでいた時もあれば一軒家もあったし、賃貸の時も、購入した時もありました。いまのマンションは賃貸です。

もちろん、場所や費用も決め手になりますが、家はいつも “窓から何が見えるか” を基準にして選んできました。これまでの家も、必ず空か緑のどちらかが見えていましたね。

この部屋を見にきた時もちょうど夕方で、窓から見える空がすごくきれいだったんです。ここで暮らしているイメージが湧いて、決断しました」


広さが120㎡から45㎡に。住んでみたら快適でした

今の住まいは、45㎡の1LDK。それまで住んでいたのは120㎡の平家だったというから、かなりのサイズダウンです。不便や窮屈さなどは感じなかったのでしょうか。

広瀬さん:
「瀬戸内に住んでいた時、よく出張で東京に来てホテルに泊まっていたんですが、コンパクトな空間でも工夫すれば快適に過ごせるなと感じていました。

数年前に亡くなった父が暮らしていた高齢者施設の部屋を見たことも影響しています。ワンルームで、必要最低限のものが揃っていて居心地がいいな、と。

いまの部屋は、立地と賃料との兼ね合いで、最初に考えていたよりもコンパクトになりましたが、窓の外の景色が抜けているから窮屈さは感じないですね。実際に暮らしてみると、掃除が楽だし、室温も快適に保ちやすく、とても快適です」

広瀬さん:
「年齢と共に住まいに求めることは、少しずつ変化しています。今の私にとっては、床がフラットであること、快適な室温、掃除のしやすさ、セキュリティでしょうか。

以前よりも、生活の中のいろいろな “わずらわしさ” を溜めたくないという気持ちがあります。年齢やライフスタイルなどによっても求めるものは違うでしょうが、いまの私はストレスなく、心穏やかにいられることを大事にしたいです。

東京に住むことも、そのひとつ。自然の中で暮らすという選択も素敵だと思いますが、私は年を重ねた分、自分ができないことを都市の便利さにサポートにしてもらった方がいいと思ったんです」


ソファも、ベッドも、棚も手放して

1LDKのコンパクトな住まいですが、それでも広々と感じられるのは、家具やものが少ないから。大きめの家具は、一人がけ用のチェアと、ダイニングテーブルくらいしかありません。

広瀬さん:
「引っ越してきた当初は、前の家で使っていた家具をいったん全部運び入れて使っていました。3人掛けのソファ、ベッドやテーブル、チェストなど……。部屋の中にきちんと収まっていたので、しばらくそれで暮らしていました。

でも、ちょっと体調を崩してしまった時に、これでは多すぎるなと感じたんです。元気な時は何も問題がなかったんですが、弱っている時に家具が多いとよろけてぶつかってしまったりするし、ものをよけながら過ごすのは危険だなと」

▲布団と枕は作りつけのクローゼットに収納。「軽くて出し入れしやすく、洗えるものを選びました」

広瀬さん:
「それで、思い切ってソファもチェストも手放し、ダイニングテーブルも小ぶりで一人でも動かせる軽さのものに買い換えました。ベッドも手放し、いまは布団生活です。

家具を減らしたら空間が広々して、さらに快適になりましたね」


家は回復する場所。弱いときに合わせて整えたい

広瀬さん:
「体調を崩して、家具にぶつかったりしてしまった経験をして、住まいは弱っている時に合わせた方がいいと思ったんです。

外に出ると、世の中は基本的に元気な人を中心にして成り立っているので、家は弱っている時に合わせないとバランスが取れない気がします。

私にとって、家は自分の心身を回復させる場所。 "リトリート" という言葉がありますが、そんなイメージです。温泉やリゾートに行かなくても、ここに帰ってくるとリセットできる、そんな場所にしたい」


広瀬さん:
「これまで仕事で温泉施設やホテル、レストランなどの空間デザインのディレクションをしてきました。その際、お客さまが何を求めているのかということをすごく考えるんです。疲れているから休みたいとか、おいしいものを食べて元気になりたいとか、やはり皆さん、自分を大切に扱ってくれる場所に行きたいと思うんです。

考えてみると、それは日常でも一緒なんですよね。家も、自分が大切にされる場所であってほしい。私はひとり暮らしなので、そういう家を自分で自分のために整えようと意識しています」

広瀬さん:
「そう考えるようになったのは、このコンパクトな部屋に住むようになったこともありますし、年齢的なこともあるかもしれない。いろんなことが重なったんだと思います」

広瀬さんの家で感じる、心安らぐやさしい空気。それは「自分を大切にする場所」として住まいを整えているからなのだと、お話を聞きながら腑に落ちた気がしました。

続く後編では、器や服といった広瀬さんのものの選び方や心地よく暮らすためのインテリア、さらには最近の暮らしについて伺います。


【写真】黒川ひろみ




もくじ

第1話(5月1日)
ひとり暮らし、45㎡。60歳を前に住まいをリセットしました(エッセイスト・広瀬裕子さん)

第2話(5月2日)
器や服をぐっと減らして。自分の大切なものを守る場所に(エッセイスト・広瀬裕子さん)

広瀬 裕子

エッセイスト、設計事務所岡昇平共同代表、other:代表、空間デザイン・ディレクター。東京、葉山、鎌倉、香川を経て、2023年から再び東京在住。現在は設計事務所の共同代表としてホテルや店舗、レストランなどの空間設計のディレクションにも携わる。近著に『60歳からあたらしい私』(扶桑社)ほか多数。インスタグラム@yukohirose19


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