【心地よい部屋へ】後編:器や服をぐっと減らして。自分の大切なものを守る場所に(エッセイスト・広瀬裕子さん)

ライター 嶌陽子

エッセイストの広瀬裕子(ひろせ ゆうこ)さんに、住まいに対する考え方を聞く特集。前編では2年前にいまのマンションに引っ越してきた経緯、家具を大幅に減らした理由などを教えてもらいました。

続く後編では、広瀬さんの服や器の収納なども見せてもらいながら、暮らしに合わせて新しく取り入れたものや、この家での過ごし方などについても聞いていきます。

前編をよむ

器は少数精鋭。丈夫で、買い足しやすいものを

2年前から、隅田川に近い45㎡のマンションに暮らす広瀬さん。作りつけの収納に服や食器、日用品など、生活に必要なあらゆるものをしまっています。

食器は、ダイニングテーブル近くの収納のなかにゆったりと収められていました。

広瀬さん:
「以前は作家さんの器も持っていたんですが、いまはほとんどが〈ロイヤルコペンハーゲン〉のもの。丈夫で扱いやすく、買い足しもしやすいのが理由です。普段の食事やお茶の時間に使っています」

広瀬さん:
「数は以前よりかなり減らしました。お客さまが何人かでいらした時も、同じもので揃えて出さなくてもいいと思って。大勢いらっしゃる場合は紙コップを使うこともあります。この辺りはおいしいお店が多いので、誰かと一緒に食事をする場合は外食をすることが増えました。

だから来客用の器を持つことはやめました。前よりも自分を軸にして考えるようになりましたね」

▲永平寺の僧侶が使っているものと同じ応量器。「ごく簡単な食事のときでも、これに盛るとさびしい感じになりません」


白・黒・グレーだけ。服を減らしたら快適に

▲これが全シーズン分の服。「アーツ&サイエンス」「フルーツオブライフ」のものが多いそう

服は、作り付けの収納2つ分に全シーズンが収まっています。ここも予想以上に余白がたっぷり。来客用の椅子や小物入れを置いても、まだ余裕があるくらいです。

広瀬さん:
「全シーズンで20着くらいでしょうか。主にファインウールのものを選んでいるので、3シーズン着まわせます。暑い時期は、それにコットン素材のものを加える感じです。

昔は服が多かった時期もありましたが、何が自分にとって快適かなと考えて引き算をしていった結果、いまの状態に落ち着きました。いまの服の基準は、着心地がよくて、手入れが楽で、ある程度きちんと見えて、違和感なく着られるもの。色も白、グレー、黒の3色に落ち着きました。服が少ないと今日何着ようと迷わない、というより迷えません。管理もすごく楽ですね。

いまはたまたまこの家の収納に合わせてこの服の量にしていますが、もっとコンパクトな家に移ったら、さらに少なくすると思います」

▲着物は三つ折りに。収納のサイズに合わせた畳紙を見つけ、それにしまっている。下の白い引き出しには文房具やリモコンなどの細々したものを

▲持っているアクセサリーもほんの少しだけ

▲20歳のときから持っているパールのピアスは、お直しをしながら使い続けている

広瀬さん:
「家にあるものは、 “いまの自分にとって必要か” という基準で選んでいます。ものが多いと出し入れや掃除が大変だし、使いきれないことや、管理しきれないことも。私にとってはそういうことに対するストレスのほうが、多く持っているメリットより大きいんです。

この年齢になって、それがやっと分かってきました」


お掃除ロボット、電気ケトル。便利なものは積極的に取り入れて

家具も、食器も、服も、ぐっと少数精鋭にした広瀬さんですが、減らす一方ではありません。 “いまの自分” に必要だと思ったものは、積極的に導入しています。そのひとつが、お掃除ロボット。いまでは、広瀬さんの家事を手伝ってくれる頼もしい味方です。

広瀬さん:
「この部屋はものが少ないからお掃除ロボット向きと周りから勧められていたものの、本当に便利なのかなと決断しかねていました。そんなとき、家電のレンタルサービスがあることを知って、試してみることにしたんです。

実際に使ってみたら、とても便利。我が家は猫がいて毛が落ちるので、日に3度ほど掃除するのですが、そのうち2回をロボットにやってもらっています」

▲半年前に新しい電気ケトルも購入。「100度までお湯が沸かせるのでお茶がおいしく淹れられます」

広瀬さん:
「若い頃は、便利なものを否定するような気持ちもどこかあったんです。掃除くらい自分でしなくちゃって。でも年齢と共に、便利なものは素直に受け入れるようになってきました。それで無理なく、気分良く過ごせるんだったら、そっちのほうがいいかな。

そういうことも、年齢やライフスタイルによって変わっていくのかもしれませんね」


自分の大切なものを守るため、違和感をやり過ごさない

手持ちの服と同じように、インテリアも白・グレー・黒で統一。コンパクトなのにすっきり広々と感じられる空間は、そのおかげもあるかもしれません。

広瀬さん:
「キッチンの戸棚はダークブラウンだったんですが、なんだか落ち着かなくて。賃貸なので、表面に剥がせるタイプの白いシートを貼りました」

▲最近再開した茶道の道具などを、キッチンの吊り戸棚に収納

広瀬さん:
「洗面所にあったタオルハンガーや、リビングについていたピクチャーレールも、違和感があったので、管理会社の人に外してもらいました。

人によって全く違うと思いますが、私は色や文字なども含めて、情報が多いことにストレスを感じてしまうタイプ。若い時は、そのことがはっきりとは分かっていなかったんですが、年齢と共に自分はそうしたことにダメージを受けやすいんだと気づくようになりました。自分が好きなもの、苦手なものが明確になってきたんですよね」

広瀬さん:
「この場所に住むことを選んだ理由のひとつにも、窓の外の景色が素っ気ない高層ビルや倉庫などで、よけいな情報がないから、ということがありました。殺風景かもしれませんが、私にはこれくらいがちょうどいい。自分にとってのノイズができるだけ少ない場所がいいんです。

自分でも偏っていると思いますが、もうそういう自分を受け入れようと、いい意味で開き直れるようになりました」

▲本は玄関の収納に入れている。「本の色が気になってしまうので、モノトーンのカバーをかけてくれる『蔦屋書店』で買うことが多いです」

広瀬さん:
「私にとって家は、自分が大切にしていることを守る場所でもあります。ひとり暮らしだからできることではありますが、自分が大切にしていることが損なわれない空間にしたいと思っているんです。

残りの人生の時間を考えたら、 “嫌だな” と思う気持ちをやり過ごしているのはもったいない気がして。違和感を大事にして、こっちのほうがいいなと思ったら、なるべくそちらを選んでいきたいと思っています」


バスと徒歩で買い出し。ときには銭湯へ

▲お茶の時間は、広瀬さんにとって大事な気分転換。「おやつにかける情熱はすごいと自分でも思います」

引っ越してきて2年。念願だった、隅田川の近くでの暮らしはどんなものなのでしょう。日々の過ごし方についても聞いてみました。

広瀬さん:
「バスと徒歩で築地や銀座、日本橋などへ買い出しに行ったり、浅草や根津のほうまで足を伸ばして、おいしい和菓子屋さんを見つけたり。時々銭湯に行くこともあります。

隅田川を船で巡るツアーにも時々参加するのですが、すごく面白いんですよ。夏は地元の盆踊りに行くのが楽しみだし、去年の年末は浅草の酉の市に初めて行ってみました。歌舞伎や寄席にも時々行ったりして、このエリアの文化を楽しんでいます。

とはいえ、普段の毎日はいたって地味です。朝から仕事をして、ごはんをつくって食べて、夜は本を読んだり映画を見たりして、猫と遊んで、ストレッチかヨガをして寝る。その繰り返しです。

でも、このルーティンが仕事をするうえではすごくいいなと思っています」

広瀬さん:
「いままでずっと『世の中のためにできることを』と考えてしまうタイプだったんですけど、最近になって『ここまで頑張ってきたかもしれないな』って少し思えるようになってきました。ある意味、肯定感が増したというのかな。

元クラスメイトとも、『私たち、頑張ってきたよね』って言い合ってます。60歳って、仕事や介護がひと段落し、次をどう生きていくかを考える時期なのかもしれません。

私はこれから、これまで仕事や暮らしを通じて自分が受け取ってきたたくさんのものを、次の人たちに渡していきたいという気持ちもあります。

どういう形で渡していけるかはまだ分からないんですが、それを考えていきたい。そのためには自分がいい状態でありたいし、そうなるように住まいや暮らしを大事にしていきたいなと思っています」

変化する自分に合わせて新しいものを柔軟に受け入れ、日々を心地よいほうへとアップデートしている広瀬さん。同時に、小さな違和感でもそのままにせず、一つひとつ解消しているのが印象的でした。

「家は、自分が大切にしていることを守る場所」という言葉は、これからの住まいについて考えるうえでの核になりそうです。

年齢と共に変わることもあれば、より明確に、強固になってくることもありそう。自分にじっくり向き合いながら、何を大切にしたいかをじっくり考えていきたいと思いました。


【写真】黒川ひろみ




もくじ

広瀬 裕子

エッセイスト、設計事務所岡昇平共同代表、other:代表、空間デザイン・ディレクター。東京、葉山、鎌倉、香川を経て、2023年から再び東京在住。現在は設計事務所の共同代表としてホテルや店舗、レストランなどの空間設計のディレクションにも携わる。近著に『60歳からあたらしい私』(扶桑社)ほか多数。インスタグラム@yukohirose19


感想を送る

本日の編集部recommends!

土いらずの簡単グリーン
ポストに3種が届いたら、好きな器に飾るだけ。新しいグリーンライフを楽しみませんか【SPONSORED】

春夏のファッションアイテムが入荷中です!
大人に似合うシアーカーディガンや、重ね着しやすいタンクトップなど、今おすすめのアイテムが揃っています。

Buyer's selection|今欲しい靴とサンダル
毎年人気のレザーサンダルや、春の新作スニーカーなど、コーデを格上げしてくれるアイテムが入荷中!

【動画】北欧をひとさじ・春
何も考えない、をするために。思考のデトックスがはかどる欠かせない習慣

インテリアカテゴリの最新一覧

公式SNS
  • 読みものの画像
  • 最新記事の画像
  • 特集一覧の画像
  • コラム一覧の画像
  • お買いものの画像
  • 新入荷・再入荷の画像
  • ギフトの画像
  • 在庫限りの画像
  • 送料無料の画像
  • 横ラインの画像
  • ファッションの画像
  • ファッション小物の画像
  • インテリアの画像
  • 食器・カトラリーの画像
  • キッチンの画像
  • 生活日用品の画像
  • かご・収納の画像
  • コスメの画像
  • ステーショナリーの画像
  • キッズの画像
  • その他の画像
  • お問合せの画像
  • 配送料金の画像