【57577の宝箱】太陽に溶けてつやつやの汗を流す 全身で夏を味わうあなた

文筆家 土門蘭


今年はものすごい暑さだ。
なんだか年々暑くなっている気がするけれど、気のせいだろうか?

子どもの頃には30度を超えただけでも大騒ぎだった記憶があるが、今はそんなの当たり前。体温を超える日だって珍しくない。ただただ、暑すぎてバテている。

それでも、毎月1日には神社に行かないといけない。
この連載でもたびたび書いているけれど、毎月1日には近所の神社にお参りに行くのが習慣なのだ。暑いからと言って、サボるわけにはいかない。誰に強制されているわけでもないけれど、サボると良くない気がする。

それで、7月1日の今日、できたら朝早い時間に行こうと思っていたのだけど、まんまと寝坊してしまった。家事や子どもの送迎などをしていたらもう9時過ぎ。すでに日は高く登っていて、とてつもなく暑い。さっき干したタオルがすでに乾き始めている。こりゃ、人間だって水分を奪われるよなぁと思った。

私は意を決して帽子を被り、日傘を持ち、水を持って、万全の体勢で神社へ向かった。化粧はしないで行く。汗をかくから。

上からは太陽の、下からはアスファルトの熱気が迫ってきて、すぐに汗が流れ出す。「暑いのいやだなー」と言いながら、私は自転車をこいだ。

§

こんな暑さだったら誰もいないだろうと思っていたのだけど、意外にも数名の参拝者がいた。昨日は夏越の祓(なごしのはらえ)だったからかもしれない。京都では6月と12月の末日に、半年の厄を祓う行事がある。

神社は緑が多いからなのか、少し空気がひんやりとしている。境内へ向かうと、真ん中に茅の輪がまだ置かれていた。人が通れるほどの大きさの輪っかの中を、8の字を描くようにくぐってから本殿をお参りするのだ。
せっかくなので、私も茅の輪くぐりをすることにした。黙々とくぐっていると、少しずつ体が軽くなっていくような気がする。もしかしたら厄が落ちたのかもしれない。それから本殿へ行って、毎月恒例のお参りをした。

お参りをした後は、汗を拭いて水をたくさん飲んだ。風が強く吹き抜けて、思わず「ああ、涼しい」と声をあげる。目線を上げると、抜けるような青い空。雲ひとつない。

神社を囲う樹々の葉が、風に揺れてざわざわと音を立てる。気がつくとセミも鳴いている。私はもう一度、汗を拭いて水を飲んだ。

くっきりとした木陰の中で、「夏だなぁ」と思う。

§

次の社へ行こうとしたら、木陰道を保育士さんと園児さんが歩いていた。

2歳か3歳くらいだろうか。半袖半ズボンで、帽子をきちんとかぶり、よちよちと歩く姿が愛らしい。私はそのそばを通りながら、ちらっと子どもたちに目をやった。

子どもたちの顔は、汗でピカピカ光っている。風が吹くと、みんなてんでに立ち止まり、気持ちよさそうに目を閉じた。その姿がとても可愛くて、私はこっそり笑ってしまう。

すると保育士さんが「シャボン玉飛ばすよー」と言って、シャボン玉を飛ばし始めた。ふわふわとシャボン玉が風に乗ると、子どもたちは嬉しそうに声をあげる。暑いのなんてお構いなしに、木陰から飛び出し、キラキラ光るシャボン玉を追いかけ始めた。

子どもたちを追い越すと、後ろの方から保育士さんの
「すごい汗やなぁ」
「早めに帰って、水浴びしようね」
という声が聞こえた。

「水浴び、気持ちよさそうだなぁ」
聞こえないように独り言を言った。帰ったら、私も水浴びしよう。汗を流したら、きっと気持ちいいだろう。

§

家に着いてすぐ、汗でびっしょり濡れたTシャツやタンクトップを脱いだ。浴室に入り、冷ためのシャワーを浴びる。汗を洗い流し、新しいTシャツを身につけると、さっぱりとして心地が良かった。たくさん汗をかいたからだろうか、まるでお風呂に浸かったみたいに、鏡に写る顔がツヤツヤと紅潮している。神社で会った子どもたちと一緒だ。

エアコンの効いた部屋は涼しくて気持ちいい。私はアイスクリームを取り出して、火照った頬に当てた。あの子たちも今頃、水浴びが終わって涼しい部屋にいるだろうか? そんなことを思いながら、バニラアイスの蓋を剥がす。

暑すぎるのはいやだけど、夏ってやっぱりいいよなぁ。
スプーンを咥えながら、そう思った。

汗をかいたら水浴びをして、風が吹いたら目を細めて、喉が渇いたら水を飲む。その気持ち良さの中に、夏の喜びはある。

エアコンの効いた部屋の中にいたら忘れそうだったことを、神社の子どもたちに思い出させてもらった気がする。

またどこかへ、夏を味わいに行こうかな。熱中症にならない程度に。

そんなことを思いながら、バニラアイスを食べた。ひんやり甘い、夏の味がした。

 

“ 太陽に溶けてつやつやの汗を流す全身で夏を味わうあなた ”

 

1985年広島生まれ。文筆家。京都在住。小説、短歌、エッセイなどの文芸作品や、インタビュー記事を執筆する。著書に歌画集『100年後あなたもわたしもいない日に』、インタビュー集『経営者の孤独。』、小説『戦争と五人の女』がある。

 

1981年神奈川県生まれ。東京造形大学卒。千葉県在住。35歳の時、グラフィックデザイナーから写真家へ転身。日常や旅先で写真撮影をする傍ら、雑誌や広告などの撮影を行う。

 

私たちの日々には、どんな言葉が溢れているでしょう。美しい景色をそっとカメラにおさめるように。ハッとする言葉を手帳に書き留めるように。この連載で「大切な言葉」に出会えたら、それをスマホのスクリーンショットに残してみませんか。

 


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