【57577の宝箱】私という神秘。 私という不思議。 私という謎。 私という問い。

文筆家 土門蘭


「土門さんは、マンネリを感じることはありますか?」

次のエッセイで何を書こうかと悩んでいたら、本連載の編集者である津田さんから、このようなご質問をいただいた。

「家事の仕方でも、料理でも、週末の過ごし方でも、何かでマンネリを感じることはあるのでしょうか。ある場合はどんなふうにマンネリを打破しているかなど、土門さんの『マンネリ』観を読んでみたいです」

なるほど、と思い、マンネリについてよくよく考えてみた。

改めて考えてみると、私はルーティンを好む性格だ。毎朝6時半に起きて、10時までは家事。それから18時まで仕事。22時にはベッドに入る。このリズムが一番心地良くて、変えようとは思わない。

食べるものもそうで、毎日同じものを食べても平気な方だ。現に朝と昼は時間がないのもあり、いつも同じような内容。晩ごはんは家族の要望もあるのでなるべくメニューを変動させてはいるけれど、同じものでいいと言われたら、ほぼ毎日同じものを作ると思う。

ファッションもそうだ。靴とか服とかバッグとか、同じ物を買い集める癖がある。気に入った物なら、繰り返し身につけてもまったく飽きないし、髪型も一旦気に入ると長年変えない。

出かける先も同様で、同じお店に何度も通うし、同じ場所に何度も出かける。勝手を知っていて安心できる、というのがいいのだ。そう感じられることが、その場所に出かける目的にもなる。

同じ場所、同じ物、同じ行動。そういったものに愛着を覚えこそすれ、マンネリはあまり感じない。私は「いつも新しい」より、「いつも同じ」な方が落ち着く。

それなら、人生においてマンネリを感じることはないのか?というと、そんなことは全然ない。むしろ私はよくマンネリを感じているし、退屈していると思う。

何に対してかというと、自分自身に対して。私は私に、よく飽きてしまう。

§

「なんだかつまらないな」と思う時がしょっちゅうある。「何かおもしろいことないかなぁ」と。子供の頃からそうだった。

昔はそういう時、予定をあれこれ詰め込んでいた。久しく会っていない人に会ってみたり、ショッピングに行ってみたり、お酒を飲みに出かけてみたり。そうすればこのもやもやとした気持ちも晴れるんじゃないかと期待をして。

もちろん、その最中はとてもおもしろい。出かけてよかったな、と思う。やっぱり、私に必要だったのは「新しさ」や「刺激」なのだと。

でも、帰ってくるとやっぱり退屈していて、振り出しに戻っている。さっきたくさん遊んだばかりなのに、新しい洋服や雑貨を手に入れたのに、家に帰ると満ち足りているどころか、退屈がさらに強くなっていることもある。ただ気を紛らわせるだけではだめなんだと、ある時ようやく気がついた。

もっと根本的な部分で、私はずっと退屈している。周囲のものごとではなく、変わらない自分自身に退屈している。私が私に飽きている限り、何をしてもつまらないから、それをどうにかしなくてはいけない。

そう気づいて、「自分が自分に飽きないようにするにはどうしたらいいんだろう」と考えた。これは結構難しい問題だな、と思った。

でもそう考え始めた瞬間、私自身に対する退屈が薄らいだのがわかった。ほんの少しだけど、自分の心がいきいきとし始め、目が輝き出したのを感じた。

「問い」が生まれると、私は私がおもしろくなる。
そのことに気がついた瞬間だった。

§

「どうしたら自分に退屈しないですむだろう?」
「そもそも退屈ってなんだろう?」

自分の中に問いが生まれると、私は自然と答えを探し始める。
答えに近づけそうなテーマの本を手に取るようになるし、映画やドラマを観ていても何かヒントはないかと観察するようになる。友人や家族との会話からも発見を感じ、仕事にも活かせないだろうかと考えるようになる。

問いが、世界の見方をぐっと変えてくれるのだ。見方が変われば、同じ風景や物事がまったく違って見えるようになる。この瞬間が、一番おもしろくて興奮する。自分の内側が変わることが、何よりもおもしろい。

そう思うようになってから、悩みごとや不満は、実は自分の「世界の見方」を変えるための起爆装置なのかもしれないと捉えられるようになった。

「もっときれいになりたいけれど、そもそも『きれい』ってどういうことなんだろう?」
「もっとお金が欲しいけれど、そもそも『お金』って何なのだろう?」
「幸せになりたいけれど、そもそも『幸せ』って何なのだろう?」

そんな問いが生まれると同時に、私の中に新しい目が生まれる。
答えを探し出そうとする目。貪欲で好奇心旺盛な、いきいきとした目。

そんな目で外の世界を見てみると、まるで小さなヒントや宝が眠っている、魅力的な場所のようだ。美しさや豊かさや幸福を問うことで、いつもの世界にそれらを新しく見出すことができるようになる。

自分さえ変わり続けていれば、何にも飽きることがない。
だって、世界を見ているのは自分なのだから。

「もっと知りたい」と興味を持つことは、この世界をより愛することでもあるのだろう。
そんな自分でいたいと、心から思う。

 

“ 私という神秘。 私という不思議。 私という謎。 私という問い。 ”

 

1985年広島生まれ。文筆家。京都在住。小説、短歌、エッセイなどの文芸作品や、インタビュー記事を執筆する。著書に歌画集『100年後あなたもわたしもいない日に』、インタビュー集『経営者の孤独。』、小説『戦争と五人の女』がある。

 

1981年神奈川県生まれ。東京造形大学卒。千葉県在住。35歳の時、グラフィックデザイナーから写真家へ転身。日常や旅先で写真撮影をする傍ら、雑誌や広告などの撮影を行う。

 

私たちの日々には、どんな言葉が溢れているでしょう。美しい景色をそっとカメラにおさめるように。ハッとする言葉を手帳に書き留めるように。この連載で「大切な言葉」に出会えたら、それをスマホのスクリーンショットに残してみませんか。

 


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