【古いものが好き】第1話:さびていくって美しい。だって自然な変化だから

ライター 片田理恵

古いものだけが持っている魅力があります。

家具に雑貨、器、生活道具、工業製品。かつて誰かの暮らしの中で生き、いくつもの手から手へと渡り、無数の偶然が重なって今ここにある、世界にひとつしかないもの。

どこで作られたのかも、どんな目的で作られたのかも、最初はどんな形をしていたのかもわからない、これから作ることは決してできないもの。

ぬ衣(ぬい)さんのアトリエには、そんな愛すべき古いものたちが並んでいます。30年以上の歳月をかけて少しずつ集めてきた彼女の宝物。

夫の定年退職と同時に田舎暮らしをスタートさせた時、これらを飾る空間が欲しいとこの部屋を作りました。森の中に立つ真っ白な家の扉を開けると、そこはたくさんの物語がひそやかに息づく世界。

ぬ衣さんが育んできた人とものとのつきあい方は、私たちに年齢を重ねることの豊かさを教えてくれます。ひとりの女性が歩む道具と人生のお話。全3話でお届けします。

 

はじまりは、海岸で拾った古いスツール

運命の出会いは36年前。家族で出かけた海水浴場の片隅で、砂に埋もれた古いスツールを見つけました。脚の一本がほんの少し地面に突き出た状態で全貌は見えなかったものの、興味本位で掘り出してみたというぬ衣さん。現れた佇まいに、一瞬にして惹きつけられたといいます。

ぬ衣さん:
「あちこち木が削れたり欠けたりしてボロボロだし、砂埃が木目に入り込んでずいぶん汚れていたんです。でも一目みて『すてき!』って。新品だったらこんなにいいとは思わなかったかもしれないですね。海風にさらされて朽ちて風化したその具合がすごくかっこよく見えたんです。それをきっかけに古いものへの興味がどんどん増していって」

家に持って帰り、水でよく洗ってから陽に当てて乾かすと思った通り。読みかけの本や植物の鉢を乗せたり、座ってお茶を飲んだりするのにもちょうどいい、雰囲気たっぷりのインテリアになりました。

手作りの風合い、一工夫された脚のデザイン、小ぶりなサイズ感も気に入って、以来ずっとアトリエのアイコンとして一緒に過ごしてきたそう。

 

女友達と「さびもの拾い部」を結成

古いもの好きが高じて、15年ほど前には趣味の合う女友達と「さびもの拾い部」を結成しました。

その名の通り「さびたものを拾って歩く」集まり。鉄工所が閉まる、古い家の倉庫を片付けるといった情報を聞きつけては現地に出向き、不要品の中から気に入ったものを安く分けてもらっていたといいます。時にはフランスを旅して、何日も蚤の市をめぐって歩いたことも。

ぬ衣さん:
「私が特に惹かれるのは、古い木と金属。たとえばスツールなら形を見れば使い道がわかるけれど、いったいこれは何だろうと思うような何かのカケラも好きなんです。溶けて流れたいびつな金属片とか、苔が生えたような古い板切れとか。発色の鮮やかな古いプラスチックもいいわね。

フランスには仲よしの3人で行きました。とはいえ一緒に過ごしたのは食事と移動の時間くらい。蚤の市を回るのも、ホテルの部屋も別々。誰かに合わせると誰かが疲れてしまうでしょ。楽しかったねって、今でも話に出るんですよ。あの旅で手に入れたものも、この部屋にいくつもあります」

 

作為のないあるがままの美しさを蘇らせたい

そこまで惹かれる古いもののよさとは、いったいどこにあるのでしょうか。ぬ衣さんに尋ねると「売っていないこと」という言葉が返ってきました。年月が作り出した作為的でない形、唯一無二である存在そのものに、大きな魅力を感じています。

ぬ衣さん:
「さびたものって独特の味わいがあるでしょう? これまである環境にさらされてきて、今、自然にこうなっている。割れたり、欠けたり、朽ちたり、塗装がはがれたり、道具としては役割を終えている場合も多い。

でもだからこそ、誰かの意図や評価と無縁なんだと思うんです。

認めてほしいとかほめられたいって気持ちは誰しもあるけど、でも、古いものにはそれがない。あるがまま。私はそこを美しいなと感じて、好きになりました。そのよさを何かの形で蘇らせたいって気持ちがあるから、あちこち探して集めたり、それを部屋の中に並べて飾ったりするようになったんじゃないかしら」

アトリエに並ぶひとつひとつの物語に耳を澄ますように、手にとって眺めては、配置や組み合わせを変えて楽しむ。ぬ衣さんの静かな時間です。

 

ものは自然の中で、雨と風に育ててもらう

光がたっぷり注ぐ大きな窓からふと外に目をやると、デッキに置かれたテーブルの上に、絶妙なさび具合が渋い鉢植えを見つけました。金属の鉢に塗られた緑のペンキはもう半分以上はがれ落ちて、あちこちさびついた状態。そこに小さな黄緑色の葉がこんもりと茂っています。

ぬ衣さん:
「これはね、もとはランプシェードだったんです。電球を通す穴が空いているから植木鉢にちょうどいいと思って外に出しました。飛ばないように庭の土を入れて置いておいたら、自然と草が生えてきて。雑草だから名前もわからないんだけど、わりといい感じだからそのままにしています。

もともとさびていたけど、最初に手に入れた時より腐食が進んだ感じ。外で雨と風にさらして育ててもらいました。まだ若い板なんかもね、わざと庭に放置して育てるんですよ。そうすると味わいが深くなって、ますます私好みになるから」

大切なものを自然に託して育ててもらう。なんて自由で、そしてユニークな思いつきでしょうか。思いつくままにものとつきあい、育て、変化を楽しむ。ぬ衣さんらしいそのやり方がどうやって生まれたのか、次回たっぷりとお聞きします。

(つづく)

【写真】馬場わかな

 


もくじ

 

ぬ衣

主婦。2人の子どもを育て、現在は夫とふたり暮らし。予約制のギャラリー&ショップを不定期で開催している。

 


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