【お坊さんのお悩み相談室】前編:大人になるほど「人付き合い」がむずかしいって思います
編集スタッフ 津田
3年ぶり、お坊さんのお悩み相談室
ひとりも好きだけど、人付き合いもうまくなりたいなあと思います。
たとえば、久しぶりの親戚との集まりや、学生時代の友人と数年ぶりに会うとき。楽しく話がしたいけど、この話題って大丈夫だっけ、置いてけぼりの人はいないかな、さっきのあの言い方はまずかっただろうかと、アレコレ考えてしまいます。
もっとスマートになりたい……。そんなとき頭に浮かんだ人がいました。当店で「お坊さんのお悩み相談室」を連載していた僧侶の青江覚峰(あおえ・かくほう)さんです。
私たちの悩みを受け止めて、お坊さんならではの知恵や生き方のヒントをくれる青江さん。今回もお願いして、ちいさなお悩み相談室を開いていただきました。
大人になるほど人付き合いがむずかしい……
はじめましてのご挨拶もそこそこに、さっそくお悩みを伝える私。「ここ数年で人付き合いってむずかしいなあと思うようになりました。歳を重ねて反射神経が鈍ったのか、コロナ禍で会話が減ったからなのか……」。
すると青江さんは「よくわかります」と、うんうん大きく頷いてくれました。
青江さん:
「すこし前の話ですが『退職理由の8割は半径10m以内の人間関係』と聞いたことがあります。風通しのいい付き合いがしたくても、それほど簡単にはいかないもの。ストレスや悩みを抱えてしまう人も多いのかもしれませんね。
ただ人間関係の悩みは、今に限ったことではなくてずっと昔、2500年前のお釈迦様の時代からあったものなんです」
そんなに前から! 私たちは先祖代々、人付き合いに悩んできたということなのでしょうか。驚きました。
お釈迦様の時代から悩んでいること
青江さん:
「仏教には、四苦八苦という言葉があります。
お釈迦様が『人間は苦しむものだ』ということで、絶対に免れることのできない『生老病死』という四苦に、社会的な四つの苦しみを加えて八苦と定義しました。
そのうちの一つ『怨憎会苦(おんぞうえく)』は、会いたくもない人と会わなければならない苦しみを指します。
どんな方とも仲良くできたらいいけれど、相性の良し悪しがあるのは、人間なので仕方のないこと。苦手な人とも付き合わざるをえない大変さってあるよね、ということです。
もう一つ『愛別離苦(あいべつりく)』はその逆で、愛する人と別れる苦しみ。
家族や愛する人との離別や死別もあれば、自分の気持ちが一方通行のまま、すごく愛しているのに相手に届かないこともあるでしょう」
青江さん:
「このように見ると、お釈迦様が2500年前に説いた『社会的な苦しみ』のうちの半分は、人付き合いで生じるものなのです。
人間の悩みは、時代とともに多様化しているように見えて、実はそれほど複雑なものではありません。
この事実を知るだけでも、すこし気の持ちようが変わりませんか」
確かに「明日あの人と会うのいやだなぁ」なんて、昔のインドで気重に過ごしている人がいると想像したら、クスッとしてしまいました。悩んでいるのは自分だけじゃない。その気づきは大きいです。
どうやら雑談が足りていない……?
青江さん:
「ただ、そうは言っても私たちが生きている時代は、お釈迦様の時代とは違います。ここ数年だと、やはりコロナによる人付き合いの変化もあったでしょう。
私もほとんどがオンラインになり、久しぶりに対面でお話しすると言葉が出てこなくて。『あれ、ほら、えーっと……』となったりするんです」
青江さん:
「でもね、それって人付き合いが大変なことの現れだとも思います。
私たちはみんな、大変なことをこれまで頑張ってきた。トップアスリートのように毎日トレーニングを欠かさなかったわけです。けれど数年間は最低限のことしかしてこなかった。そりゃお互いに贅肉もつきます。
テニスも、上手な人と打ち合えばラリーが続くけど、初心者同士だとうまくいきません。ドタバタしてるうちに、気づけばボールが落ちてしまう。
会話も同じことです。相手がいることだからこそ、ラリーが続かないと悪かったなあと落ち込むのでしょう。でもそんな時は、自分と同じように、みんなにも2年のブランクがあるのだから、これはもうお互い様でしょうがないと諦めるしかありません」
ハッとしました。私は、自分ばかりが変化に向き合って大変と思っていたのです。でも相手も同じなのかもしれません。お互い様というのは、気持ちをやわらかくしてくれる言葉のようです。
たくさん話せる共通点を「相手と一緒に探す過程」が会話になる
自分も周りも変化している。そんな中で会話を楽しむために、青江さんが心がけていることはありますか?
青江さん:
「相手との共通点を探すことでしょうか。
そもそも私は、極端に共通点が少ない人間です。ご覧の通りの坊主頭で、サラリーマンでもありませんから、人と重なる部分が少ない。ひとつでも重なるところがあれば、そこでいっぱいお話ができるかな、というふうに考えています」
共通点を見つけると言っても、具体的にはどういうことをしているのでしょう。
青江さん:
「相手の話を聞くことです。そして気になるキーワードを拾うこと。
今回のお悩み相談では、津田さんが最初におっしゃった『反射神経』という言葉を拾って、私から『テニスのたとえ』で返してみました。そうすると相手からも、また返ってきます。むずかしいことではなくて、きっとみなさんもされているはず。
会話って一枚ずつ互いのカードを出し合っていくようなイメージ。無理して合わせるのでもなく、みんなが自然と楽しく心地よく話せるところを一緒に探すものだと思います」
アレ……?、と思いました。
私はずっと大変な勘違いをしていたのかもしれません。会話といえばテレビ番組のように、司会者役を買って出なくちゃ、気の利いたコメントをしなくちゃと焦っていました。
「それは流石にむずかしいのでは……」と苦笑いの青江さん。
青江さん:
「会話って正解があるわけではありません。相手の話の中から、自分も興味のあることや話しやすいことを一緒に探していくようなものだと思いますよ。
すばやく打ち返さないといけないってこともありませんし、知らないことばかりだったら教えてもらうのも一つの手です」
肩の力がするすると抜けていくようです。
話題にせよ、相槌にせよ、ずっと自分の引き出しを探していた私。いつか枯渇するのではとヒヤヒヤしていたけれど、みんなが話してくれることに耳を傾けて、その中から探せばいいのだとしたら、自分にもできそうな気がしてきました。
ゆっくり話すというのも大事です
青江さん:
「私のことをお話しすると、そんなふうに会話がしたいと思ったのは、友人の僧侶の存在が大きいんです。彼は共通点を見つけるのがすごく上手。そしてゆっくりと低い声で丁寧に話す。修行時代に彼と出会い、それがお坊さんっぽくていいなと思い、真似するようになりました」
ああ、わかるような気がします。青江さんと話していると心地がいいのは、そのゆっくりとした話し方にも秘密がありそうです。
青江さん:
「下町育ちなので本当は早口なんですよ(笑)。若い頃は『楽しい=興奮する』でしたしね。それこそ、わーっと喋ってゲラゲラ笑ってのコミュニケーションです。
でも早く話すのって大変なんです。自分も疲弊してしまうし、相手とペースを合わせづらい。彼とは、そういうストレスがなくずっと喋れました。
例えるなら、香りのいいやさしいお出汁のようなもの。旨味がじわ〜っと沁みるような薄めのお出汁なら、たとえ毎日出されてもたっぷり飲めるのと、どこか似ています。
じんわり続く旨味のような人付き合いがいい。年齢を重ねるほどにそう思います。それで、低い声でゆっくりと話したり、共通点を探したり。自分も相手もリラックスできるように意識しているところがあります」
やさしい気持ちでいられるように
この日から、人と会うときの気の持ちようを、ほんのすこしだけ変えてみました。
「うまく話せなかったらどうしよう」と緊張するけれど、ほんの1ミリでいいから「相手と一緒にたくさん話せそうなところを探してみよう」と、青江さんに教わったことを、頭に思い浮かべるようにしたのです。
すると相手の話を聞くことに、集中力が向きはじめました。
自分との共通点はあるかしら、もっとくわしく教えてほしい、と感じるアンテナがあるとして、それがずいぶんと大きくなったような。「ふうん」「そっか〜」「へえ」以外の相槌が自然と出てくるようになりました。これまで、緊張のあまり上の空だったかもしれないと反省するほどです。
自分も相手もお互い様。だから、できるだけやさしくありたい。人付き合いはその積み重ねかもしれないなと思い始めました。青江さんとのお悩み相談は後編へとつづきます。
【写真】鍵岡龍門
もくじ
僧侶 青江覚峰
浄土真宗東本願寺派 湯島山緑泉寺住職。米国カリフォルニア州立大学にてMBA取得。料理僧として料理、食育に取り組む。「暗闇ごはん」代表。超宗派の僧侶によるウェブサイト「彼岸寺」創設メンバー。
▼これまでの青江さんの連載はこちらから
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