【ポケットに詩を】第三話:自分が自分のままでいることを喜べたら、人生は大成功

編集スタッフ 津田

自分が自分のままでいることを喜べたら、人生は大成功。そう話すのは、絵本と詩集の出版社「童話屋」の田中和雄(たなか・かずお)さんです。

田中さんが詩のトビラをひらいてから、たっぷり15年の月日をかけて、60代で出版したのが『ポケット詩集』でした。

そのまえがきで「いい詩はみな、生きる歓びにあふれています。(略)読み返すたびに、階段をおりてゆくように、真実の底にたどりつくでしょう。生きていてよかった、と思う時が、かならず、きます」と、読者に語りかけます。

好きな詩を見つけることは、自分を見つけることかもしれない。そんな思いを胸に、ある冬の日にお会いしてきました。たっぷり全三話でお届けしています。

第一話から読む

 

詩を読んだら、もう君は詩人だ

これまでに200冊近い詩集や絵本の編集を手がけてきた田中さん。多くの人に詩の魅力を知ってほしいと、70代半ばから小学校での詩の授業に取り組んでいます。

田中さん:
「昔、三好達治さんという詩人がエッセーの中で『詩を読む人はもう詩人だ』というようなことを書いていました。詩を読む人は世の中にいっぱいいるわけでしょう。国語の教科書でも、子どもの頃の絵本でも。そういう人はことごとく詩人だと、三好さんが言ってくれるんです。

そんなの嘘だ、と言う人もいるかもしれない。もちろん僕だって自分が詩人だとは考えていませんでした。でも、そう言われたら、なにか嬉しいものがあります。『そうか、僕も詩人か』とね(笑)。

だからこう考えました。詩を読む人が詩人ならば、詩を書く人はもっともっと詩人かもしれない。授業が終わった時には『もう詩人になっちゃっている』というようなプログラムにしたいなと思っているんです」

 

詩を書けるようになる、とっておきの秘密

詩を読む人はもう詩人で、詩を書く人はもっともっと詩人……。そんなふうに言われたら、大人の私でも、なんだかくすぐったいような気がしてきます。子どもだったら、なおさら素直にうれしい気持ちかもしれません。

でも、詩を書くのって憧れるけど難しそうです。どんなふうに始めたらいいのでしょうか?

田中さん:
「詩を書くには、とっておきの秘密があるんです。これを知れば、今すぐにでも誰にでも詩が書けます。

たとえば『僕の名前』というタイトルで詩を書くとするでしょう。『僕の名前は田中和雄です。和は平和の和で、雄は英雄の雄です。平和の英雄です』。まずは、こんなふうに作文をします。

ここから、余計な “ですます” を取って、改行して意味のまとまりに分ける。そうやって整理すると詩になります。

僕の名前は
田中和雄

和は平和の和
雄は英雄の雄

平和の英雄だ

遠くから見たら、詩のように見えるでしょう。『ように見える』でいいんです。そんなのダメだと言われちゃうとダメなのだけど、自分がこれでいいと思えたら、それはそれでいいじゃないですか」

 

何度も読み返した詩は「生涯の友」になってくれます

田中さん:
「これから先、気に入った詩を見つけたら書き写すといいと、授業で子どもたちに伝えています。

心から好きになれる詩は、滅多に見つかるものじゃない。それはもう、宝物を見つけるようなもの。

もし見つけたら、どんどん書き写しなさい、何度も朗読しなさい、そうしたものは君が書いたものと同じくらいの価値がある、だから胸を張って君の詩集に入れていいんだと。

それで卒業するまでにノートがいっぱいになったら、どれだけ嬉しいだろうなぁって話すんです。

人生の折々に読み返した詩は、これから先も、悩んだり迷ったりした時にきっと役に立つ。たくさんの詩を知らなくても大丈夫。一つあれば、それが生涯の友になってくれます」

 

どんな人にも「やさしい気持ち」があるはず

田中さん:
「話が飛びますが……。『芸術は爆発だ』って言う人がいるでしょう。僕はね、それと同じようなことが、詩でも言えないかなと考えているんです。

詩にも色々あるでしょう? 『あいうえお』も『いろはにほへと』も『古池や』も、みんな詩です。どれが詩で、どれが詩じゃないなんてことは、定義しろと言われても、本来はできないものだと思うんです。

詩人も、詩を書こうとしたのではなく、心に浮かんでくることを、ただ書き留めただけなのかもわかりません。

それでも、そうやって生まれてきた詩や詩集が、なにか世の中の役に立つんだとすると、それは人間が元々持っている『本当のやさしさ』みたいなものを、喚起させてくれるものだと思うんです」

田中さん:
「宇宙船から地球を見た宇宙飛行士たちは、人生が変わると聞いたことがあります。

あまりにも美しくて『その中に神を見た』って言うんですね。僕も、月から見える『地球の出』をテレビで見たことがありますが、あれはすごかった。人間技じゃないようなものがありました。

地球以外がすべて死の世界。

ただ、一点の、青い地球。

詩でも、ひょっとするとそういうことができるかもしれない。音楽とか芸術とか宇宙船と同じようなことが。みんなのやさしい気持ちを呼び覚まして、もしかすると人生を変えるような何かができたらいいなと思うんです。どうしたものかなあと、ずっと考えているところです」

 

自分でいることを喜べたら、人生は大成功

たっぷりとお話を聞かせていただいたインタビューの終盤、大人になった私たちが詩と友だちになるにはどうしたらいいでしょう、と質問をしてみました。

田中さん:
「存在の詩がいいかもしれませんね。

まど・みちおさんの『ぞうさん』や、石垣りんさんの『表札』など、存在の詩は色々あります。気にいるものを見つけてもらえたら。

中でも『ぞうさん』は深い意味があり、象の子どもの目線で、象として生きる歓びをうたっています。ぜひ歌わずに朗読してみてほしいです。

僕自身も、色々な詩に支えられてきました。

小学校の時、先生が黒板に白墨で『雨ニモマケズ』と板書を始めたとき、立派な美しい文字に涙が出るほど嬉しくなりました。理由はわからないんだけど、先生が書くそばから暗唱ができたくらいに、子どもだった僕の心を動かしてくれたものでした。

生きている間に、そういう出会いは、きっと誰にでもあるはずなんです」

 

詩と出会うことは、自分を見つけること

詩人たちは繰り返し、自分のままにいることの素晴らしさをうたってきた、と田中さんは教えてくれました。

同じような毎日を過ごしていると、あまりにも何もかもが平凡に思え、そのありがたさに気づくことは滅多にありません。

けれども、いい詩を読むと、その平凡な毎日の中に、愛おしさや美しさがあることを思い出させてくれます。ほんとうに大切にしたかったものを、鏡のように写してくれます。

周りと比較してしまったり、このままじゃダメだと駆られてしまう時、自分のままでいることの歓びを思い出せたら、すこし景色が変わりそうです。

その歓びは、木の根っこのように、人生を支えてくれるでしょう。これからも、それを思い出したくなったら、折々に『ポケット詩集』を開こうと思います。

(おわり)

 

【写真】キッチンミノル


もくじ

 

田中和雄(たなか・かずお)

1935年生まれ。大学卒業後、広告代理店を経て、1977年に童話屋書店を開く。子ども図書館(イトーヨーカ堂)の企画・運営に携わり、小学校での詩の教室も行う。安野光雅の絵本『魔法使いのABC』で出版を始め、くどうなおこの詩集『のはらうた』、詞華集『ポケット詩集』、絵本『葉っぱのフレディ──いのちの旅──』など、子どもの本の編集に力を注いでいる。

 


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