【自分の道をさがすこと】第1話:私はこのまま続けたい? 40代を前にして立ち止まらざるをえなかった

ライター 小野民

もしも寿命を全うできたなら。もうすぐ40才の私の人生は、まだ折り返しにも到達していないのだなあとふと考えることが増えました。親に育ててもらった子ども時代、社会人になり目の前の「働くこと」にがむしゃらだった日々を抜けて、いよいよ自分なりの人生を探したり、切り開いていくことを問われているような気がします。

どうしたって周りの声も気になるけれど、このあたりで自分自身に矢印を向けることも必要なはず。その想いを強くしたのは、小川奈緒さんの著書『ただいま見直し中』や『すこやかなほうへ 今とこれからの暮らし方』を読んだからでした。

人生の壁や岐路に立ったときの小川さんの思考は、これまで私が持ち合わせていなかったもの。小川さんがとある本を読んで大きくうなずいたという「何かを『やめる』っていうことは、何かを『始める』よりも簡単で、効果も大きいんじゃないか」という考えや、周囲がうらやましくなったり、落ち込んだりして悩んでいる人にすすめている「心の引越し」……。

すこやかなほうへと上手に舵をとっているようにみえる小川さんは、どうやって答えを見つけていったのか。ある夏の暑い日、郊外にある小川さんの自宅を訪ねてお話をうかがいました。

 

40代目前、気づけば壁の前にいた

汗を流しながら到着した私たちを迎えてくれた小川さんは、上下白でまとめた服装がさわやか。すっと伸びた背筋に、こちらもしゃんとした気持ちになります。

一息ついて、さっそく著作から受けた印象を伝えました。流されるままではなく、ちゃんと立ち止まって、棚卸しや取捨選択をしながら進んでいる様子が、まぶしく映る、と。時には進路変更も厭わない姿勢を、見習いたいのです。

小川さん:
「自分から進んでそうなったわけではないんですよ。なんだか、壁にぶつかって否応なく……。自分では頑張ってやってるつもりでも前のようにうまくいかなかったり、立ち止まらざるを得ないことが、30代であれ、40代であれ、起こるんですよね。

私は30代後半で出産をしていて、38歳の時に、地元の千葉県松戸市で見つけたこの家に、都内から引っ越してきました。大学を卒業してから30代後半までは、ずっと好きで忙しくファッション誌の編集の仕事をしてきましたが、この家に越したことで、無理を感じるようになってきたんです」

 

頑張るほどに、空回り

それまでは、好きな服を毎シーズン買うことが仕事でもあり、心踊るできごとでした。でも、あるときふと気づきます。

小川さん:
「のどかな風景のなかの古い一軒家に住んで最新の服を着ても、自分が景色になじんでいない、と。一度そう感じたら、打ち合わせのために都内に出るのも大変に感じるようになりました。

ファッション誌の編集者は、大勢のスタッフを取りまとめるのが仕事。忙しいスタッフが多いのに、私自身が子どもは小さい、家も遠い。みんなのスケジュールをなんとか調整した結果が『青山で9時に打ち合わせ』だったら、私どうしたらいいんだろう?って。

無理していたんでしょうね。だんだん『私がこれだけ頑張ってるんだから、みんなもちゃんとして』と、振り回されたくない気持ちが芽生えてきたんです。『早く確認してください』『この日で決めちゃっていいですよね』って先を急ぐようになって、『そんなふうには進められないのよ』って、スタイリストの先輩方にお叱りを受けたり、そんなことが立て続いてしまいました」

 

ふと気づいた「この仕事を手放せる」感覚

遠方に住み、子育てをしながら働いていた小川さん。自分の仕事を全うするために、よかれと思って先手を打ってスケジュールを決めていくことは、当時身を置いていたファッション業界では、あまり歓迎されなかったのです。

小川さん:
「でもね、正直なところは、やることはやっているから納得できないなって思っていました。

それで考えたんです。これって、どちらの言い分が正しいとかじゃなくて、やり方が私に合わなくなっただけなんだなって。そのムードに染まりたくないんだったら、自分が離れればいいのかもって。真面目な仕事人だという自負はあるので、自分を変えなきゃというような方向での反省はしませんでしたね(笑)。

洋服が大好きでずっとファッション誌の編集者を続けている人は、子どもを産んでも、自費でパリコレに行くぐらい根性があるんですよ。でも、私はそこまでの覚悟はない。この仕事は手放せる、と思いました。その時点でもう16年ぐらい続けてきたから、やりきった感もあったのかもしれません」

 

それから2年、抱えた違和感を見つめて

小川さん:
「今の家とか環境に合った働き方をすれば、自分が感じてる空回り感が解消されるんじゃないかな?と思いました。

それから2年くらいは、違和感を抱えながら見つめた期間。その間は気になることをメモしておいて、じゃあどうすればフィットするんだろう、と具体的な働き方を考えていきました。

その結果、少ない人数でシンプルなやり取りで仕事ができるんだったら、それがいいと気づきました。出産を機に、インタビューや、インテリアとかライフスタイルの仕事もいただくようにはなっていて。興味のある分野でもあったから、その比重を増やしていこうと調整を始めたんです」

小川さんの話を聞いていて気づいたのが、違和感に気づくときに、自分の気持ちに正直なだけでなく、「風景に合っていない」と自分を俯瞰して見ていること。いっぱいいっぱいになると、自分がどこに立っているのかわからなくなりそうですが、その俯瞰力はどこで養われたのでしょうか。

小川さん:
「子どもの頃から、すごく大変な状況にいても、 どこか冷静な子だったんですよ。たぶん、大家族の末っ子で育ったことが影響しているのかな。みんなキャラが濃くて、私は1番下っ端で発言権がないので、ずっと人間観察をしていました。

どう説明したら自分の気持ちが届くかな?と、みんながわあわあしゃべっている間に考えている。あまり感情的にならないので、若い頃は、落ち着いてるとかクールだとか言われていましたね」

 

最初の1冊を出せたのが、41歳の時でした

気に入って移り住んだ郊外の家で、ストレスなく働き続けるためにはどうすればいいのだろう。小川さんは、周りの景色と自分をフィットさせる方法を、自分の現在地を俯瞰して考えました。

小川さん:
「絶対に仕事は辞めないと決めていました。仕事をすることはすごく好きなんですね。 だから、考えるべきは、これまでの働き方を手放して、この家と環境で小さい子どもを育てていくにはどうすればいいか。

雑誌のお仕事で、私自身がインタビューして原稿を書くようなものであれば、少人数でスケジュールを決めていけそうだから積極的に受けたいと思ったし、あとはやはり著者になるのが1番だと思いました。

もともと、雑誌編集者か物書きになりたかったんです。38歳くらいからブログを始めて、自分が書いた文章に、読者から反応がもらえる喜びを知りかけていたタイミングでもあった。

ファッション誌の編集の仕事でも企画書は書いていたし、 出版企画を自分で書いて、出版社に持ち込みを始めたんです。それが、40歳くらい。すでに自費出版本は出していましたが、商業出版でも出せる企画を考えました」

小川さん:
「最初に出すことができたのが『家がおしえてくれること』でした。家の数だけ出会う物語があるだろうと、都心・郊外・一軒家・マンションなど、それぞれのスタイルで、家と暮らしに向き合う10組の家族を取材した本です。いくつかの出版社に持ち込んで、ようやく企画が通って、本を出せたのが、2013年、41歳でした。

1冊出せた時はすごく嬉しかったけれど、やっぱりどこか冷静な自分がいて。この1冊でエッセイストって堂々と胸を張る勇気はなかった。出し続けられるようになって初めて物書きやエッセイストと言えるし、出し続けることが1番難しいんだろうと、 出してみてわかったんです」

そこから小川さんは、毎年1冊著作を出すという「難しいこと」に挑み、10年近く続けます。そのお話は、次回に続きます。

(つづく)

 

【写真】川村恵理


もくじ

 

小川奈緒

エッセイスト・ライフスタイリスト。最新刊『すこやかなほうへ 今とこれからの暮らし方』(集英社)。近著『ただいま見直し中』『直しながら住む家』など。音声プラットフォームVoicyにて『家が好きになるラジオ』も配信中。

 


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