【家具のオーダーメイドをしてみたら】前編:「お気に入り」を引き立てる。肩ひじ張らない家具さがし

編集スタッフ 糸井

家具探しって難しい

半年以上、ダイニングテーブル探しに戸惑っています。

割と大きい家具になるので、手持ちの椅子やソファとのバランスも考えたい。長く使うものだから、それ自体もお気に入りであってほしい。

親しみのあるメーカーや、憧れのデザイナーズ家具、ヴィンテージショップ、候補はたくさんあると思っていたのですが、探すと案外、ピタッとくる家具を探し出すことが、想像以上に難しいです。

相談できる人もないまま買うには経験不足で高額、部屋の主役になるのも不安で決めきれずにいました

そんなとき、家具をオーダメイドで作る、佐々木家具造形研究所の家具デザイナー・佐々木啓輔(ささきけいすけ)さんをSNSで見かけました。

賃貸暮らしの自分には縁遠いものと思っていたけれど、調べたり展示会に足を運ぶなかで「そうでもないのかも? 」とも思えるところも。既製品を買うよりもハードルが高そうなのに、その新しい選択肢になんだか惹かれたんです。

とはいえオーダーなんてはじめてのこと、具体的にどう相談を進めたらいいのでしょう。

そこでこの特集では、いつかのために、そんな一歩が踏み出しやすくなるよう、佐々木さんのショールームに伺ってきました。

 

ここにある家具も、あくまでひとつの提案

まずはショールームを案内してもらうことに。物静かなデザインのテーブル、ベッド、スツールなどが並ぶ空間。無駄なものが削ぎ落とされたような洗練さは、なんだか、自分の部屋の家具としては恐れ多い気持ちも浮かんできます。

一見近寄りがたい家具の雰囲気に息を呑みつつ、ひとつひとつの家具について質問すると、優しく穏やかな声でゆっくりと説明くださる佐々木さん。家具に込められた愛情に、自然と緊張がほぐれます。

ここにある家具はすべて佐々木さんの作ったものと思いきや、他のブランドの家具や雑貨が結構混ざっていることに気が付きました。

佐々木さん
「僕、家具自体が好きなんです。好きなデザイナーのヴィンテージを探すのも好きで、オークションサイトや、知り合いの家具店に探してもらったりすることも多いですね。そうして見つけた一点ものたちを、部屋にどう飾るかを考えるのが楽しくて」

佐々木さん
「僕がいま作っている家具のトーンも、あくまでひとつのスタイルなので、ご要望があれば全くテイストの違う家具もお作りします。僕にとっての作品性よりも、お客さまそれぞれのインテリアに馴染むようなもの、引っ越しや家族構成が変わってもできるだけ永く使い続けられるものをお届けしたい気持ちといいますか。

オーダーを受けるのはダイニングテーブルが多いですが、ベッドフレームや、写真などの額装、小さいものではジュエリーボックスや、オブジェなども手掛けます。

こんなものがあったらいいな、という構想や、お客さまからの声から少しずつ増えていきましたね」

 

建築から、家具づくりに憧れて

家具が大好きという佐々木さんが、この世界に入ったきっかけについても聞いてみました。

佐々木さん
「きっかけは、思い返すと単純です。出身が東北の、よくいる田舎の高校生だったのですが……たしか高校2年生の頃。図書館で『世界の美術館』という本を眺めていたら、とある美術館に目がとまって。船みたいな姿の美術館だなぁと、なんだか格好よかったんですよ。

自分もいつか美術館を建ててみたい。きけば、美術館を建てるなら建築学科らしい、と。

大学で建築学科に入ってからは、建築だけでなくいろんなものに惹かれましたが、なかでもデンマークの『Hans J Wegner(ハンス・ヨルゲンセン・ウェグナー)』には今も影響を受けています。ウェグナーは建築家であり、家具デザイナーでもあって、自分もそんなふうに進みたいなと思い描いてきました」

佐々木さん
「大学卒業後は、東京の職業訓練校に通って、木工仕事の基礎を学ぶことに。卒業後は、修行先を色々と調べて、岐阜県の親方のもとで7年修行し、その後、独立。今で4年目になりました。

ちなみにオーダーメイドというと、どこかのスペースにぴったりおさまるようなフルオーダーをイメージされる方が多いでしょうか。もちろんその場合もあるのですが、ほとんどのご依頼は、既にある家具のデザインから、サイズや材質を変えて作るセミオーダーに近いんです。

より手軽なものでは、『手持ちの棚にもうひとつ棚板を増やしたくて』といった要望もありますし。ヴィンテージのリペアを受け持つこともあるので、木を扱う範疇の仕事であれば、一通りのことはご相談いただけますよ」

 

主役でなくても、バランスをとれる家具を作れたら

佐々木さん
「独立する前は長いこと、自分はどういう家具をデザインし、作っていこうかと考えていました。家具の研究のために、のべ3ヶ月ほどバックパッカーをして、北米やヨーロッパ、東南アジアや北アフリカを旅したことも。

結局、どの国にも魅力的な家具やデザインがあるんですよね。アール・デコと呼ばれるきらびやかで装飾がかったものも、シンプルでモダンなものも、ひとつひとつ見ると、家に迎えたくなるところもあって。

でも、お気に入りが家に増えたときに難しいのが、家具同士のバランス。色んな国の家具に惹かれるけど、見た目がけんかするかな……と躊躇したり。これだという椅子は見つかったのに、好相性のテーブルがなかなか見つからない……なんてこともあると思うんです。

そんなシーンの、あいだを取り持つように。他の家具にすっと馴染み、バランスのとりやすい家具を作れたら、というのは最初に大きく掲げたことでした」

▲奥の木箱はカイ・フランクが手掛けたもの。佐々木さんのショールームには、他のデザイナーの家具がたくさん並べられています。

佐々木さん
「僕自身、デザイナーズ家具といわれるものが好きでこの業界に入りました。でも単純な話、好きなデザイナーを見つけられたとしても、その人は椅子は作ってるけどキャビネットを作っていなかったり、照明デザイナーは照明しかつくってなかったりもします。

ファッションブランドならば、自分にぴったりの服が見つかるほど種類があるかもしれませんが、家具の選択肢はまだまだ少ないと思うんです。椅子も、いくつかはパッと思いつくけれど、意外と選べる幅が狭いですよね。

そのなかで、一通り探してもしっくりこなかったというときに、オーダーメイドっていう最後の手段があるって思っていただくと、すごい世界が拡がるんじゃないかなと思っています」

 

肩の力を抜いて、部屋を見渡せば

佐々木さんのショールームを眺めると、たしかに他の家具デザイナーや照明デザイナーが手掛けたアイテムがたくさん置かれていました。ともすると、そちらの方が主役のように際立っている面も。その魅力が欠けないように、あいだを埋めるように、佐々木さんのテーブルや棚、スツールがバランスをとっているのが不思議でした。

オーダー家具というと、理想を詰め込んだ家の主役を作るイメージがあったけれど、今ある椅子が気に入っていて、それが映えるような家具をつくるという手もあるのですね。なんだか、がちがちに固まっていた肩の力が抜けるような気がしてきました。

後編では、具体的な家具のオーダー方法について伺ってみます。

(つづく)

【写真】メグミ


もくじ

 

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佐々木啓輔

家具デザイナー。佐々木家具造形研究所を立ち上げ、神奈川県の寺家町に工房を構える。定期的に展示会を開く。家具の製作から、店舗への家具の一時貸出、ヴィンテージのメンテナンスなど様々手掛けている。Instagramは@research_institute_sasakiから。

 


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