【すてきな照明】第2話:小さな照明で、家族それぞれの穴ぐらをつくれたら(建築家・西川日満里さん)

編集スタッフ 糸井

椅子を見つけて、テーブルを揃えて、ラグやクッションなどもひととおり探してきて。でもずっと手を伸ばせなかったアイテムが、照明でした。

そもそも私は、照明があることでどういう風に暮らしたいのだろう。照明との付き合い方が上手そうな3人の先輩たちに話をきき、そこから探してみたいなと思いました。

2話目では、建築家の西川日満里(さいかわひまり)さんと坂爪佑丞さんのご自宅を訪れました。

1話目を読む

 

ワンルームのような小さな家だからこそ

にぎやかな商店街を抜けたところにある、ラフなグレー塗りの一軒家。家全体の広さは60平米ほど、スキップフロアの3階建てで、2、3階を住居として使っているというご自宅に、着きました。

西川さん
「ここに引っ越したのは4年前。まわりに高い建物が建つ中で、ぽつんと残された小さな土地に惹かれ、同じく建築家の夫と一緒に設計しました。

家の面積が限られているため、部屋と部屋を隔てる扉は、あえて作りませんでした。全体がワンルームのようだからこそ、照明も部屋ごとに設置するのではなく、窓辺やコーナーなど小さな居場所ごとに置いています。

建物の種類によっては、満遍なく室内を照らすことが必要な時もありますが、家は穴ぐらのような安心感のある場所であってほしい。たとえば、部屋の4隅それぞれに小さな照明を置き、部屋の中央と端で明るさの濃淡をつくると、1つの部屋にいても家族それぞれが自分の領域をもつことができる気がします。

時間帯や使い方によって、照明を全部つけたり、1箇所に絞ったり。同じ部屋だけれども、照明でモードを切り替えながら、過ごしていますね」

そんな気になる西川さん宅の照明を、早速見せてもらいました。

 

シーリングライトの代わりに、選んだもの

家の基本的な明るさをつくる照明(ベース照明)として一般的なのは、シーリングライト。でも、わが家は天井には何もつけず、かわりに家中の壁にブラケット照明をつけることにしました。

天井にライトを付けることの良さは、床に光が反射し、効率よく部屋全体を明るくできることです。一方この家では多少暗かったとしても、色んな場所に小さな光源をつくって、シーンを分けるほうがいいなと思ったんです。

床置きも良いですが、置ける数には限界があります。そうすると、壁付けがベストでした

▲窓枠の上にも。小さく、雑貨のようにも見える存在感が気に入っている。

1個4000円ほどのものを、夫がDIY塗装。元々は黒色だったのですが、壁のラワン材に馴染ませたかったので、泥のようなグレーカーキに塗り替えています。

照明器具の色は、背景のように馴染ませたいのか、居場所の中心としたいのかなど、部屋の特徴によって考え方を決めることが多いです。

ブラケットライトの数は……20個ほど設置しているでしょうか。ヘッドが360度動かせるので、読書スペースでは下を向けたり、階高が高いスペースは上を向けて天井面に反射させたり。大きさも筒部分がなるべく小さいものを選んでいるので、家中に散らばる食器や雑貨と並んだ風景もかわいらしく、気に入っています

 

絵や雑貨のような、気軽な照明

リビングの角に置いている、デンマーク製のテーブルランプです。

ベースは、陶器。木やプラスチックとはまた違う、ひんやりとした質感と、釉薬のムラのある陶器は、他のものとは光の反射が違って面白いんです。明かりをつけていなくても、照明器具自体がしっとり輝いているので、周りに置かれた本やファブリックの風景に奥行きも生まれます。

陶器製のランプは、設備機器というよりは、絵や小物を飾るような気軽さがあり、置く場所も選びません。

1日の中でも長い時間を過ごすリビングの照明は、家族みんながリラックスしやすいように、シェードを布と紙製にしています。光源が直接見えず、明かりがぼんやりと薄く広がるので、表情が柔らかくなるんです

他のテーブルランプも、置いているのは部屋の角。

部屋の面積が小さいので、中心に置くほどのスペースがないこともありますが、角に置けば、光量が少ない照明でも壁面を照らせる。四隅が明るいと、空間に広がりを作れます。

もし、中心にぽつんと置くと、焚き木のようにみんなが自然と集う『中心性』ができますね。置き方ひとつで、部屋の性格に違いをつくれるのは照明の面白いところですよね

 

伸び縮みが、居場所のON/OFFをつくる

台所とリビングの中間に作ったダイニング。そのテーブルの上に、壁付けタイプのアンティークの照明を置いています。これなら、ビスでとめるだけなので設置も簡単。アームが伸び縮みするので、食事のタイミング以外は収納できるのもお気に入り。

高さは、テーブルから60cmくらいを目処に少し低めにつけています。高すぎて料理や手元が暗いことも、低すぎて目線を邪魔することもないちょうどいい高さです。

照明、テーブルともにデンマーク製で、伸縮可能。デンマークは家が小さく、家具や照明器具にも工夫がされていることが多いので、わが家にもぴったりだなと

▲このシェードも、あえて布を選び、光を柔らかくしているそう。

 

光によって印象が変わる、グレーカラー

デスク周りは本を読んだり、図面を書いたりするので、他の部屋よりも照度が必要。これは『ランプ・ド・マルセイユ』という、スイス出身の建築家ル・コルビュジエがデザインしたものです。

ラッパのような円錐が上下に2つついていて、その両端が光ります。直接光と間接光が組み合わされたユニークな設計です。この部屋は天井が高く、目線付近と手元を明るくするには照明が2台必要になりますが、これなら1台でまかなえます。

コルビュジエらしい躍動感のある形で、この子が空間にいるだけで楽しい雰囲気になりますね。色はグレーを選びました。

グレーは天気や、自然光の当たり具合によって印象が変わる色なんです。雨の日や日が落ちた後は存在感があるけれど、晴れや曇りの日は反射のせいか壁の白とも馴染みます

 

それぞれの居心地のいい場所を選べるように

西川さん
限られたスペースに、家族が3人。仕切りのない部屋で毎日暮らすとき、家族の気分や心の状態は日によってバラバラで、夜、明るいところにいたいときもあれば、ひとりになりたいときもあります。その時々に寄り添う照明ってどんなものだろう。いろいろ試した結果、ひっそりと光る穴ぐらをいくつかつくり、動物のように引き寄せられる『多中心』をつくることにつながった気がします。

それぞれがそのとき、一番居心地のいい場所を選べて、自由で健やかにいられたらと思っています

***

そんな西川さんの、すてきな照明。次回はパドラーズコーヒー代表・松島大介さんの自宅に伺います。

(つづく)

【写真】木村文平


もくじ

 

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西川日満里

建築家。2013年より建築設計事務所「ツバメアーキテクツ」を山道拓人、千葉元生と共同主宰。


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