【連載|朝、いろいろ】第十一回:チーム・辰どし

石田 千

 新年あけましておめでとうございます。よい一年になりますよう、こころよりお祈り申し上げます。

 
 4年ぶりに、年末年始の帰省がかなう。朝いちばんの飛行機で、東北の実家にむかった。
 松林の深いみどり、空をいく白鳥の群れ。胸が痛くなるほど、つめたい空気。どんよりした雪雲、吹き飛ばされるほどの北風、夜闇にとどろく雷鳴さえ、なつかしい。
 お正月を、母と迎えられる。母が、待っていてくれる。それだけで、満願成就。涙がでるほど、うれしいことだった。
 母は、1月2日うまれ。ことしは、ありがたや、年女さまになった。
 ふしぎなことに、親しくしてくれる友人、ながく仕事をごいっしょしているかたがたは、圧倒的に辰年うまれ。
 気丈なドラゴンのみなさんは、気弱なおさるを放っておけないのか、これまで、なんど支えて、助けていただいたか、わからない。ことしは、還暦を迎えられるかたもいる。チーム・辰どしのみなさま、ますますのご多幸を、願っています。

 
 4年間、実家の大掃除をさぼったし、だんだんと母にきいておかないといけないこともある。ことに、お盆やお彼岸、冠婚葬祭のことは、よくよくきいて、書きとめないといけない。
 父は転勤族だったので、東北で生まれたものの、幼稚園からはずっと東京にいる。はたちのとき、両親は地元にもどり、家を建てた。大学が休みになるたび、帰省していたけれど、ともだちもいない、なじみのお店もない地元は、帰省というよりも、東北に旅行して、両親と祖母と待ちあわせているようだった。  
 いつまでたっても、そんな転校生のような遠慮があった。
 それが変わったのは、2020年の春。
 まさか、3年も母に会えない。そんなことが起こるとは、思ってもみなかった。その年のお正月の帰省は、たのしくおしゃべりをしたのは、初日だけ。あとは、くちをとがらせ、けんかばかりだった。むっつりと最低限の家の手伝いをして、それじゃあ、元気でね。そそくさと、東京のちいさなアパートにもどってきたのだった。
 たのしく過ごしていたアパートは、あっというまに、都心の無人島になってしまった。買いものは、近所だけ。友だちにあわない、電車も乗らず、髪がのびると風呂場で切った。
 おもてにでれば、みんな以前の暮らしをとりもどし、町に笑顔がふえていく。うらやましくて、かなしい。見たくないこころの黒いよごれを、いやというほど見て、目をそらしたくて、除菌と掃除に明け暮れた。
 病気の治療がすすみ、ワクチンの接種も可能になって、昨年の春、ようやく帰省がかなった。

 
 飛行機の窓から雪ののこる山が見えた瞬間、涙がふきだした。きびしい山肌の漆黒、荒れる海の波しぶきに、しろい潮の花が飛ぶ。ああ、ふるさとがあるんだ。母が、待っていてくれるんだ。
 会えなかった3年のあいだ、母は、毎日電話で、叱咤激励してくれた。
 毎週土曜日の夜、長電話につきあってくれたひと。画家の牧野伊三夫さんは、往復書簡の連載を、いまもつづけてくださっている。忙しい世にもどっても、さりげなく、メールでようすをきいてくれたひと。みんな辰どし生まれのかたがただった。
 昨年は、おそるおそる、世のなかにもどる練習をつづけた。ことしは、どんな一年になるのかなあ。
 チーム辰どしのみなさんは、悠々と天を泳ぎ、いまが窮地というときに、すっとやさしい手をさしのべてくださった。ことし出会えるかたがたに、すこしでもお返しできたら、それより幸せなことはない。
 本年も、どうぞよろしくお願い申し上げます。

 


作家・石田千。1968年福島県生まれ、東京育ち。2001年「大踏切書店のこと」により第一回古本小説大賞受賞。16年、『家へ』(講談社)にて第三回鉄犬ヘテロトピア文学賞受賞。『窓辺のこと』(港の人)、『バスを待って』(小学館)、『箸もてば』(筑摩書房)など著書多数。

 

写真家・齋藤圭吾。1971年東京都生まれ。雑誌や書籍、広告、CDジャケットなど様々なメディアで活動。主な仕事に『針と溝 stylus & groove』(本の雑誌社)、『melt saito keigo』(TACHIBANA FUMIO PRO.)、『記憶のスパイス』(アノニマスタジオ)、『高山なおみの料理』(角川書店)、『自炊。何にしようか』(朝日新聞出版)、『ボタニカ問答帖』(京阪神エルマガジン)などがある。

Instagram:@keigo.saito

 

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