【4月の波にのる】後編:春眠暁を、覚えましょう。春の揺れる心とのシンプルな付き合い方を聞きました
編集スタッフ 藤波
暖かい気候に上向く気持ちと、新しい環境へのそわそわと。
さまざまな感情が混ぜこぜになる4月は、気がつかないうちに心や体の調子を崩してしまうこともあります。
無理しすぎる前に自分を整えてこの時期を楽しめたなら。そんな思いで、アーユルヴェーダ料理家でありホリスティックケアブランド『eatreat.(イートリート)』を主宰する小林静香(こばやし しずか)さんを訪ねました。
前編では小林さんとアーユルヴェーダの出会いについて聞きました。続く後編では、4月の心に起こる揺れ動きとその対処法についておしゃべりします。
前編をよむ
春は重たさを感じやすい季節です
4月というと、仕事の異動や子どもの進学など自分や家族の環境がガラッと変わる季節。体調の面では、花粉症が辛そうな人もたくさん見かけます。
きっと色んな要因が合わさって心や体のバランスを崩してしまう人が多い時期なのだと想像していますが、アーユルヴェーダにおいて4月はどんな時期なのでしょう?
小林さん:
「アーユルヴェーダでは、人の心と体の性質をあらわす指標として3つの『ドーシャ』があります。誰しもがそれぞれに合ったバランスでドーシャを持っているのですが、ドーシャは環境の中にもあって、季節によって増減するとされています。
人間と自然は同じ要素でできていて環境から大きく影響を受けるので、環境の中のドーシャバランスが変化すると、人間もまた変わります。
春は、維持・固定の力である『Kapha(カパ)』というドーシャが増える季節。春になると雪解けの水が土に浸透して、土が潤い、中で待機していた種が芽を出しますよね。
カパは根を生やして新しい命を育む力強いエネルギーでもあるけれど、根を生やす過程で地面に引っ張られるので、ずっしりとした重たさを伴います。その重たいエネルギーに引っ張られて、心のやりどころのなさや閉塞感を感じる人が多いのかもしれません」
なるほど。ちなみに私はどちらかというと春はうきうき楽しくて、しばらく経った5月ごろにどっと疲れを覚えるタイプなのですが、そういうパターンもありますか?
小林さん:
「気がついたときに疲れている方は、伝達・移動の力である『Vata(ヴァータ)』というドーシャが優勢になっているかも。きっと、冬は寒くてしばらく冬眠気分で動かずいたけれど、桜も咲いたし散歩したい! 動きたい!と自身の『移動したい』という気持ちが刺激されてそわそわするんですよね。
アーユルヴェーダの考え方は実はそんなに堅苦しいことはなく、誰でも今すぐできる生活の改善ポイントがたくさんあるのでいくつかご紹介してみますね。4月の不調の原因はこういうところにあったのかも?というヒントを見つけてもらえたら嬉しいです」
どしんと重たい心を感じたら、春眠暁を覚えましょう
こんな生活していませんか?
・年末年始にご馳走を食べ過ぎて、いまだに体が重い
・ ついついダラダラ。休みの日は二度寝してしまう
小林さん:
「『Kapha(カパ)』は、重たくて冷たくて脂っぽい性質。冷たいバターを陽の光の下に置くと溶け出すように、鼻水や我慢していた感情が流れ出すのが春のカパの不調です。
重みがある分ちょっとやそっとのことでは動かない、大きな風が吹いても飛ばされないような強さを持っています。だけど気がついたときに心に鉛のようなものが降りていて、それが簡単に剥がせない。心にどしんとした重たさを感じてしまいがちです。
そんなカパを増やしてしまうのが、なんといっても怠惰な生活。まずは早寝早起きをすること、ヘルシーな食事を心がけること、そして体をあたためることで、みるみる心まで軽くなっていくと思います。
春眠暁を覚えずとはよく言ったものですが、二度寝せずに暁(=夜が明けたこと)は覚えましょう(笑)」
小林さん:
「今年はもう過ぎてしまったけれど、春に重たさを感じる人は『ごちそうは七草粥でおしまい』と思っておくと食事を切り替えやすいです。
無理なダイエットをしようということではなく、冷たく固まった脂を燃やすイメージでスパイスをたくさん使ったり、タケノコや菜の花など苦味のある食材を食べて目を醒ますのがカパの食事のポイント。
あとはできるだけ毎日湯船に入って体を温めたり、特に鎖骨から上の頭部を冷やさないようにするのも大切です。心が重いというのは、実際には脳が言っていること。頭が冷えているままだとさらにカパが増えてしまうので、濡れた髪を放置せず必ずドライヤーで乾かしましょう」
to do list
・早寝早起き。春眠暁を覚える(=二度寝は避ける)
・湯船で体をあたためる。必ずドライヤーを使う
・油物は控えて、スパイスや苦味のある食材で目を醒ます
そわそわさんは、疲れたときのお助け料理を探してみて
こんな生活していませんか?
・休みの日にいくつも予定を詰め込んでしまう
・会社では元気、帰り道にどっと疲れを感じる
小林さん:
「『Vata(ヴァータ)』は風をあらわすドーシャでもあって、気温や環境の変化が多いとバランスを崩しやすく、一つの場所にとどまるのが苦手な人が多いかもしれません。好奇心が旺盛で、あっちへ行ったりこっちへ行ったり。
そんなヴァータの人にしか感じられない毎日の鮮やかさがあるから、個人的にはそのままでいいんじゃないかと思ったりもしますが、疲れている自分に気がつくためには休む練習が大切です。土日のうち一日は家で過ごすようにするとか、今まで5つ予定を入れていたなら2つに減らすようにする。
食事は、思い浮かべただけで安心できるような、優しいものがいいと思います。たとえば昔ながらのうどん屋さんや、個人でやっている定食屋さん。ヘトヘトになったときに頼れる料理をぜひ帰り道で探してみてくださいね」
小林さん:
「ハーブやスパイスを使っていなくたって、その料理を食べたら元気が出て明日からも頑張ろうと思えるなら、それはもう立派なアーユルヴェーダ料理なんです。
それから、疲れをとるためにはやっぱり睡眠も大事。仕事終わりにジムで運動をしたり夜中にコンビニに行く習慣がある人は、寝る前に浴びた蛍光灯の光で眠りが浅くなっているかも知れません。夜はなるべく優しい灯りの下で過ごして、朝に運動するようにするだけでもよく眠れると思いますよ。
カパの方たちと同じように、なるべく湯船に浸かって体を冷やさないようにすることもぜひ心がけてみてくださいね」
to do list
・土日のどちらかは家で休む
・夜は暗がりで過ごす。運動するなら朝に
・体がホッとするやさしい料理をたべる
どんな波も、おおらかに受け止めて
こうやって色々お話を伺ってみると、気をつけることは本当にシンプルですね。私はアーユルヴェーダに詳しくないけれど、直感的に体に良さそうと思える習慣ばかりでした。
小林さん:
「まさしくそうなんです。知れば知るほど、なんだか懐かしい気持ちになるのもアーユルヴェーダの特徴。
たとえば、アーユルヴェーダでは日の出の96分前に起きるのが望ましいとされていて。それだけ聞くと『え?』となりますが、誰しもまだ日が昇る前の静かな時間に起きたことが一度くらいはきっとあると思うんです」
たしかに。以前キャンプに行ったとき、普段よりずっと早く寝て鳥の声で目覚めたらまだ夜明け前で。静かな風やしんとした空気が気持ち良かったのを覚えています。
小林さん:
「静かな時間に起きてヨガやストレッチをしたら、心を落ち着けて気持ちよく1日を始められそうな気がしますね。早朝起床はアーユルヴェーダで重要な考えですが、その大切さは誰しもがもともと知っているものです。
大袈裟かもしれませんが、アーユルヴェーダを勉強しているとDNAレベルで知っていたことを思い出すような感覚になることがあって、それがすごく面白いです」
小林さん:
「そうだ、もう一つどんな体質の方にもおすすめしたい習慣がありました。毎朝起きてすぐ、5分くらい床に転がってみてください。白湯を飲んだりストレッチしなくてもいい、ただ布団から出てゴロンと床に転がるか、座ります。
携帯も見ずにただ転がって、ぼーっと少しだけ今日の予定に思いを馳せていると、たった5分でも不思議と頭の中がすっきりしてきます。新しい環境を迎えたときにドキドキしたり落ち込んだりするのは当然のこと。そんな時、5分静かな時間を持つだけでも、きっと余裕が持てますよ。
苦しくなったときほど、少し遠くから俯瞰して見てみたらなんてことない一瞬の出来事だったりするじゃないですか。毎日の小さな波も、人生のダイナミックな波も、おおらかに受け止めていきたいですね」
***
取材のあと、小林さんがその日に焼いたというレモンのパウンドケーキと、コーヒーとスパイスのホットミルクをいただきました。
派手な甘みや旨みは感じなくても、じんわりと体の中に染みていくようなとびきりのおいしさ。自分の心と体が喜んでいることに気がついて、一つ腑に落ちました。
きっと日々の過ごし方も同じです。慣れないことに急に挑戦しなくても大丈夫、大切なのは、ただ自分が喜ぶものを選ぶこと。それを続けていけば、今より健やかに毎日を過ごせそうです。
この春は少しだけ自分の内側に耳を傾けて、4月の波にゆらりと身を任せてみようと思います。
【写真】メグミ
もくじ
小林静香
1982年東京生まれ。新卒で民放キー局に入社し、興行事業や番組企画に携わり、食養生への関心から料理の道へ転向。レストランでの勤務や出張料理の経験を積む中で生じた自分自身の身体の不調を食事や生活で整えるよろこびを知り、食養生の源流であるアーユルヴェーダを本格的に学ぶ。料理と対話の両方を行うホリスティックケアブランドeatreat.を主宰。Instagramは@eatreat._から。
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