【5秒のみつけかた】後編:世界に敏感になって、目を行き届かせて、その手触りを感じてみる
編集スタッフ 松田
連載「5秒日記」でもおなじみのエッセイスト・古賀及子(こが ちかこ)さんのご自宅を訪ね、生活をみつめる眼差しについておしゃべりをしてきました。
日記をつけたいけれど……という方に向けての、ちょっとしたヒントも教えていただきました。
脈絡のなさ、つじつまの合わなさ、をちゃんとみつめる
古賀さん:
「これはライターをしていた頃に教わったことなんですが、日記を書くようになって、より意識するようになったのは、どこかで見聞きした既存の物語に、飲み込まれないようにしなくてはいけない、ということなんです。たとえば、“この場面では、娘はきっとこんなことを言うだろう”というような、自分の頭にあらかじめストーリーがあったら絶対にダメで。
現実で起きた、脈絡のなさ、つじつまの合わなさ、取り留めのなさ、それこそがユニークなのだから。そこをしっかり見つめて、観察して、そのまま書かなくちゃいけない。そう強く思いながら、文章を綴っています。
言葉での演出みたいなことは一旦置いておいて、ありのままに書く、ということがそれぞれの面白さに繋がっていくのかなと思うんです」
── いまお話を聞きながら、自分を振り返ってみると、どこかで見聞きした物語をなぞってしまうことって結構あるかもしれないと思いました。文章を書くときだけでなく、誰かの話を聞くときも。正直にいうと、今回のインタビューでも、おおよそのシナリオを仮定して臨んでいた自分もいて、反省しました……
古賀さん:
「なんて素直! いやいや、実際はすごく難しいですよね。今はSNSがあり情報にすぐアクセスできる時代で、世の中全体によくある物語が溢れすぎてる気がするんです。意識しないと、すぐに引っ張られてしまう。
でも、この世の中に生きてる人って、全員が全員、自分本人の人生を主役として生きていて。脇役はひとりもいない。全員が主役であることを踏まえて世の中を見ると、ふと見逃してしまうようなことも、じつはもっと、ギラギラしているように見えるんじゃないかって。
私、こわいんです。自分がみたこと、聞いたこと、感じたことや考えを、よくある物語らしきものに、巻き取られてしまうことが。そういうものに抗いたい気持ちでいっぱい。そう思いながら、日記を綴っている気がします」
忘れてしまうようなことにほど、“書きたさ” がある
── 日記をつけているスタッフから、「記録に残しておきたくても、すぐに忘れてしまう。どうしたら?」という質問がありました。
古賀さん:
「人間はすぐに忘れてしまう生きものだから、メモをとるしかないかなと思っています。
私の場合は、その場にあったレシートの裏面やスマホのアプリに、異常な勢いでメモを残しています。もう、趣味みたいなものですね。忘れちゃうようなことにほど、“書きたさ” があると思っているんですよ」
── 少しだけ、メモをみせてもらってもいいですか? あ、ほんの一言ずつなんですね!
古賀さん:
「そうそう、ほんの一言でいいんです。街でみたものとか、聞いたこととか。
なにか一言残しておくだけで、記憶のトリガーになって、そこから結構その場面を思い出せることは多くて。完璧にメモしなくても大丈夫」
古賀さん:
「せっかく楽しい時間なのにメモを取るなんて、なんだか思い出をネタにしているみたい、という声もよく聞きます。もちろん、無理はしなくていいと思います。作家さんの中には、メモは絶対とらない、記憶をもとにすべてを書くという人もいますし。
でも私は割り切って、ひらめいたり、わっと感じたり、興味深いなと思ったことは、すかさずメモします」
ハンコを押すように続ける、不器用でも走り続ける
── 日記を書く時間帯はルーティンで決まっていますか?
古賀さん:
「まず起きて身支度をして、子どもたちがそれぞれ出掛けたら、朝の早いうちに昨日の日記を書きます。あまり長く時間をかけずに、長くても30分ぐらいで書いてしまおうって決めています。
少しでも休むと、きっと止まってしまうから、走り続けることを大事に。ミッションをクリアさせるような感覚というか、毎日ハンコを押すように続けています」
── じつはわたしも日記をつけはじめたのですが、書ける日もあればつい忘れてしまう日もあって。たしかに一度休むと、白紙が続いてしまいます……。毎日続けるためのコツはありますか?
古賀さん:
「どうしたら続くのかよく聞かれますが、最近は “無理してください” とお伝えしています(笑)。今の時代こそ、まさかの根性論!
でも、やはり続けないと見えてこないことってあるんですよね。何が書きたいのか、どう書きたいのか、続けないとなかなか掴めないものだと思うんです。書く前に苦しむ気持ち、私もすごくわかるんですが、ちょっとでもいいから書く。とにかく不器用にでも走る。走りながら考える。そうしたら、いつのまにかできるようになっているから。
もし、書くことないなぁと思う日は、まずは『朝、目を開けた』って書くんです。『朝、目を開けた。夜、目を閉じた』って、とりあえずそれだけ書いてみる。でも、絶対その間に何かしらあるから、書いて間を埋めたくなる。そういうときに、メモがすごく役立ちます。
書き続けていると、きっと自分の日記をそれなりに自分で好きになっていくはず。そうすると、次の日もまた書きたくなる。そんな循環が生まれて、楽しくなっていきます」
日記を通して、世界の手触りを感じられたら
古賀さん:
「文筆も含めた創作活動って、世界に生きているひとりひとりの背景にあるものに思いを馳せたり、想像力を膨らませたり、いろんな物ごとに敏感になって、目を行き届かせて、その手触りを感じようとすることなんじゃないかなと思っていて。だからもし世の中のみんなが創作活動をしたら、 すごく豊かで平和な世界になる気がするんです。
それって、とてもロマンチックで素敵なこと。夢がある。いや、夢があるというより、もっと現実的に望んでもいいことかもしれないですよね」
***
「自分の日記はやっぱりつまらない」。
日記をつけ始めた2ヶ月前は、そんなふうに思っていたのですが、ふと数週間前のものを読み返してみたら、「あれ? 意外と面白い日だったじゃん」と思えるページがあることに気がつきました。そして、「あ、もっとこのことを詳しく書き残しておけばよかったな」というページも。古賀さんのおっしゃる通り、続けないとみえてこないことって、まだまだありそうです。
ほかの誰でもない、わたしだけが体験した、あの日のあの瞬間の出来事をしっかり観察してみること。ほかのだれかの言葉や簡単な感想に逃げないこと。
古賀さんにお話を伺って、自分の日々を捉える小さな訓練を、これから先も日記を書きながら続けてみたいと思うのでした。
【写真】土田凌
もくじ
古賀 及子(こが ちかこ)
エッセイスト。 著書に日記エッセイ『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』、『おくれ毛で風を切れ』(ともに素粒社)、『気づいたこと気づかないままのこと』(シカク出版)。2024年12月に『好きな食べ物がみつからない』(ポプラ社)を刊行予定。
note:https://note.com/eatmorecakes X(twitter) :@eatmorecakes
『うんともすんとも日和』に、古賀及子さんが登場!
私たちが大好きな「あの人」のいまの生き方に迫る、ドキュメンタリー番組『うんともすんとも日和』、第51弾では連載『5秒日記』でお馴染みの古賀及子さんにご登場いただいています。
古賀さんのとある1日に密着し取材。最初に日記を書き始めたのは偶然で、子育てがひと段落した頃のことだったと振り返りながらお話ししてくれました。
ぜひご覧ください。
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