【訪ねたい部屋】第2話:1LDKの家具選びのポイント。60平米のゆとりあるひとり暮らしになってわかったこと
ライター 長谷川未緒
本特集では、60代で都心から郊外の団地に越してきた、D&DEPARTMENTの商品開発コーディネーターで、中小企業診断士の資格も持つ重松久惠(しげまつ・ひさえ)さんのお宅にお邪魔しています。
前編では、60平米1LDKの団地を買うことになった経緯を伺いました。
つづく後編では家具の選び方や越してきてますます充実している趣味のこと、この家で実現したいこれからの夢について伺います。
壁一面の棚は最初から決めていました
この家をはじめて見たときはまだリノベーションの工事中でしたが、なんとなくイメージが湧いたという重松さん。壁一面は棚にしようと最初から計画していました。
重松さん:
「すぐに思い浮かんだのが、D&DEPARTMENTの工業用スチールシェルフです。
白を基調にした部屋なので、グレーだと重くなりそうだからアイボリーを選びました。タイミングよくUSEDの在庫が揃っているときだったので、半分は中古で。なるべくお金をかけないようにしました」
IKEAで見つけた白いカーテンレールを天井にDIYで取り付け、もともと使っていたカーテンをかけて棚を隠すつもりでした。ところがいざかけてみると、あんまりしっくりこなかったそう。
重松さん:
「何もない真っ白な空間より、棚に並んだ食器などが見えて生活感があるほうが心地よくて。
見せる収納にするつもりはなかったんですけれど、結果としてカーテンは開けっぱなしの時間のほうが長くなっていますね」
なるべくお金をかけないようにしたのは、ほかの家具も。
重松さん:
「ダイニングテーブルは、友人が不要になった大きなテーブルの脚だけもらい、材木屋さんで買った一枚板を仕事仲間の職人に頼んで組み合わせてもらいました。椅子はD&DEPARTMENTのUSED品。
ソファーは中古品販売サイトで競り落とした〈ジャーナル・スタンダード〉のもの。背もたれを倒すとベッドのようになるので、たまに友人が泊まっていくこともあります。
新しい家具を買えればいいけれど、家はローンを組んで購入したこともあり予算がありますから、メリハリをつけましたね」
60平米だから、趣味を楽しむゆとりがある
以前、暮らしていた池袋のマンションは50平米でしたが、この部屋は60平米という広さも購入の決め手になりました。
年齢を重ねてコンパクトな住まいに越す話はよく聞きますが、広い部屋へという選択は意外です。
重松さん:
「フィンランドの高齢者介護を描いた『ひとりで暮らす、ひとりを支える』(青土社)という本の中に、老後をひとりで暮らすのに必要なスペースは60平米がベストと書いてあったんですよ。
このくらいあれば、友だちを呼んだり、趣味をしたり、自分の空間としてゆとりのある豊かな暮らしができる、と。
私は機織りや金継ぎなど趣味も多いので、60平米いいなと思っていたんです」
実際、この部屋に越してきてから、趣味がますます充実しています。
重松さん:
「たった10平米広くなっただけですが、布を床にばーっと広げることができるのでストレスがない。
ダイニングテーブルと仕事机のほかにミシン専用テーブルも置けるようになったので、刺し子ができる専用ミシンも買っちゃいました。
居心地の良い空間はもっと狭くても作れると思うのですが、何かやりたいと思ったときにぱっとできるのは、スペースにゆとりがあるからこそだと痛感しています」
郊外の家でも、友人を招くのが生活の楽しみ
6畳二間で暮らしていたときも、池袋に住んでいたときも、もちろん今も、月に2回、友人たちを招いて食事会をしています。
重松さん:
「郊外に越しても、おいしいものを用意すればみんなが来てくれるのはうれしいですね(笑)。
私は旅行が好きなので、そこから持ち帰った食材を使っての料理会をよくしています。
今度はロシア料理にしようとかメキシコ料理にしようとか、自分が旅行に行ったときの思い出もあるし、みんなが喜んで食べてくれるのはうれしいんですよ」
この日も取材陣にモロッコの伝統料理・クスクスをご馳走してくれました。料理の腕前もさることながら、器もミントティーのグラスもモロッコのもので、気分が盛り上がります。
旅はもっぱらひとり旅が多いそう。しかも、いちばん多く行ったことがあるのはインドなのだとか。インドへのひとり旅、してみたいけれど、ちょっと怖い気がします。
重松さん:
「ひとり旅はたしかに大変だし、困ることもあるけれど、今の自分に必要なメッセージを受け取れるんです。
たとえば、離婚してすぐに旅したインドで、物乞いの子どもたちがひっきりなしに寄ってくるんですね。その子たちを追い払おうと『離婚して貧乏なんだから』とか、『かわいそうなのよ、私は』なんて言っていたら、その子たちが私を屋台に連れて行き、この人におやつをあげてと頼むんです。
そのとき、子どもたちに本当に悪いことをしたな、と。物事がうまく行っていないのを、人のせいにして生きてきたんだなと思い知らされました。
自分を憐れんだり、卑下したりしていてはいけないと痛切に感じ、それからは前を向いて明るく生きていこうと決めました」
手を動かして、生きていきたい
この家に越してきてから、ますます楽しめるようになった趣味は、これからの夢ともつながっています。
重松さん:
「もともと服飾関係の専門学校を卒業したものの、自分で手を動かして作るようになったのは、ここ5年くらい。
D&DEPARTMENTの商品サンプルを縫うことからはじめて、今は機織りに夢中です。
淡々と手を動かすことが、瞑想に近いというか、すごく気持ちがいい。やってみて、私にはこういう時間が必要だったんだと気がつきました」
重松さん:
「創作というほどではないけれど、ちょっとした工夫でより良くなったりすることも楽しい。
私は生活の中に入る布を機織りを通じてやりたいと思っているんです。
たとえばランチョンマットとかキッチンリネンとか、1日に何度も手に触れる日常のものこそちょっと贅沢すると、なんか楽しいじゃないですか。
最初に織り上げたのも、和紙の糸を使った布巾です。和紙だから、水を気持ちよく吸うと思ったのに、糸が細すぎたからぜんぜん吸わない(笑)。
すごく苦労して織ったので使わないのはもったいないから、かごの目隠しなんかに使ったら素敵だな、と思っています」
大学での仕事が70歳で定年を迎えるので、そのあと1年間、〈倉敷本染手織研究所〉で住み込みで技術や知識を学びたいという夢も。
重松さん:
「以前、取材で訪れたときから、いつかやってみたいと思っていたんです。
そこではクリエイターでもなく職人でもなく、ただ作る人・工人を育てていきます、と。
自分が暮らしの中で使うものを自分の好きなように作って、それがささやかでも売れて、生活の足しになる。そういうふうに生きていきたいと思ったし、そういう生活が私には一番心地いい。
年齢を重ねてからも、ここで暮らして、旅行に行って、持ち帰ったものをみんなで食べて、うれしいな、と思いながら暮らしていけたらいいと思っています」
なんでもやってみなければわからない、と朗らかに笑う重松さん。
自分の時間もお金もエネルギーも無尽蔵にあるわけではないから、どう分配するかで人生が変わってくるのだとも。
大切なことは、みんなのあれがいい、これがいいという物差しではなく、自分で選ぶこと。
やってみて自分が楽しいと思うことに、ぎゅっと集中して生きていけばいいという重松さんにとても励まされました。
(おわり)
【写真】メグミ
もくじ
重松久惠(しげまつ・ひさえ)
文化服装学院卒業後、編集者、アパレル勤務を経て独立。〈D&DEPARTMENT〉では商品開発コーディネートを務める。また、中小企業診断士の資格を58歳で取得し、さまざまな会社のアドバイザー、大学院講師としても活動中。
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