【週末エッセイ】すてきに歳を重ねるとは、どういうことだろう。
文筆家 大平一枝
第三話:歳を重ねるということ
「受け入れる」、「あらがう」
歳を重ねることが怖くないと言ったらうそになる。それがとてもゆたかで素敵なことだと理屈ではわかっていても、加齢を感じるような事象を目にすると気持ちはあからさまに焦り出す。自然の摂理にあらがうのは格好悪いと思うが、なかなか身をまかせる境地に至れない。
先日女友達らと、素敵に年をとるとはどういうことかと話した。私は80代になっても服装もメークも身ぎれいにしていて、ひとり暮らしでもしゃんとして、年齢を問わず誰とでもフラットにいろんなジャンルの話ができるような人に憧れる。そう言うと、いつも歯に衣着せぬ発言をするひとりが言った。
「容姿や自分にこだわりすぎるのは、ちょっと見苦しく感じられるよね」
辛辣な言葉にぎくりとした。彼女は続けた。
「年を取るって、受け入れるってことじゃない?」
ああその通りだと、みなが深く頷いた。
若い頃はいろんなことに反抗する。既成のことに精一杯あらがう。そこからあらたな価値観や、オリジナルの創造が構築されていくことも少なくない。
逆に大人になるとは、いろんなままならぬことを少しずつ受け入れていくことでもある。それは少し寂しかったり、せつないことでもある。
だが、彼女の言う「受け入れる」という言葉からは、希望のような明るさが感じられた。人間は誰しも老いる。そこに不自然にあらがうのではなく、受け入れたうえでどう満ち足りた日々を送るか。見せ方より過ごし方のほうが重要ではないかと、気づかされたのだ。
自分に「かまう」
ただ、いくつになっても自分に“かまう”ことは女性として忘れたくないと私は思う。ないものを足したり、加えたりするのは不自然だが、年齢を受け入れたうえで、いまあるものをブラッシュアップし続ける努力は幾つになっても必要ではあるまいか。
子育てに忙しい10年間ほど、私はほとんどパンツスタイルと、かかとの低い靴でやりすごした。あるとき、ファッション好きの女性編集者から「たまにはヒールのある靴を履いたらどうですか。それだけでファッションもヘアスタイルもきっと変わりますよ」と言われた。
だって育児に自転車が必須だから、と言いかけてはっとした。もう自転車に乗せて送迎する年齢はとうに過ぎているし、気づいたらそれほど自転車に乗っていなかった。パンツやサンダルでなければいけない理由がないということにさえ、自分にかまってなかったから気づかなかったのだ。
翌日、さっそく好きな洋服屋にディスプレイされていたヒールを買った。すると、スカートを穿きたくなり、それに合うヘアスタイル、アクセサリー、バッグを替えたくなった。自分でもびっくりするくらい魔法のアドバイス通りに、おしゃれへの意識が変わっていったのを鮮明に覚えている。
子どもはいつか大きくなる。それに合わせて女性の人生はいくつものステージがあるのだが、幕の引き時、上げ時に気づかないと、いつまでも同じ衣装で過ごすことになってしまう。もう似合わなかったり、時代とずれていたり、古かったりするのに、自分だけ気づかない。それはとてももったいない。
自分にかまう意識があるかないかだけで、未来の自分が大きく変わる。
最近、取材でたて続けに素敵な人生の先輩女性に会った。彼女たちに共通しているのは、ユーモアがあって好奇心が旺盛なこと。うす化粧をして清潔で、こざっぱりとした上質な服を身につけている。気のきいた愛らしいブローチなどをさりげなくあしらってる。そして、どのかたもとても丁寧にお茶やコーヒーを煎れてくださる点も重なっている。
素敵な歳の重ね方の答はまだまだ模索中だが、自分にも人にも丁寧に“かまう”。そのへんにひとつの大事なヒントがありそうだと推量しているところである。
創業107年の老舗、奈良ホテルに行きました。歳月を重ねた建築物には独特の味わいが。(撮影:大平一枝)
▼大平さんの週末エッセイvol.1
「第一話:新米母は各駅停車で、だんだん本物の母になっていく。」
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