【週末エッセイ】深呼吸をしたくなるとき。

第四話:心の伝え方
情報と気持ちの伝え方あれこれ
 仕事で出会ったある女性の牧師が、「本当に困っている人には、メールでなく会いに行く」と言っていた。それが車で片道2時間でも、いとわないと。
 顔を見て初めてわかることがたくさんある。彼女がどれだけ力をなくしているか。どんな状態で暮らしているのか。ちゃんと每日食事をしているか……etc。
 
 またつい最近、別の知人が「こみいった話は会って話すのがいちばん」と言っていて、深く共感した。感情の伝達手段として使うには、メールはむずかし過ぎる。文章の長短や善し悪し、読み手の読解力によって誤解が生まれやすいし、誰もが細やかなニュアンスを行間から読み取れるわけではない。やみくもにデジタルを敵視するつもりはないが、情報を伝えるのに便利なものが、気持ちを伝えるのにも便利とは限らないのだと肝に銘じたい。
携帯番号しか知らない友だちのこと
 15年来の知り合いだが、携帯番号しか知らない人がいる。画家の牧野伊三夫(まきのいさお※)さんだ。先日も久しぶりに電話がかかってきて「大平さんの本を持っている人と飲んでいるから、今その人に代わるね」と突然スイッチした。「はじめまして」と取り繕うも、あちらは酒席で陽気だし、こちらも拙著を読んでくれているというだけで勝手に親しみを感じ、気づいたらため口というありさまである。電話を切ったあとも、しばらく愉快な余韻が残った。同じ出来事でも、メールやSNSではどれほどリアルタイムで知らされようと、この何とも言えぬ朗らかな気分は味わえなかったろう。
 受話器の向こうのさんざめく笑い声は、デジタル画面にはのらない。
 牧野さんの便りはいつも素敵だ。文面はもちろん、郵便番号や宛名の書き方も自分流のレイアウトがあり、しゃれている。個性的な手紙と電話。それだけで15年、不自由なくゆるやかに交流できている。
 この間も、散歩先から仕事に関係した用件をかけてきてくれた。のんびりした声を聞きながら、牧野さんの前に今見えているであろう武蔵野の冬の木立ちを想像した。家であくせくと原稿を書いていた私は、深呼吸をしたくなった。ゆっくりした時間の中にいる人がまとう独特の気配は、じんわりと他人にも伝染する。
年度末。出会いと別れが重なる慌ただしい季節だ。ゆとりがないこんなときこそ、自分を急かさず、できれば会ったり、電話で声を聞いたりして、少々時間がかかってもていねいに心を通わせたいものだと思う。時折、ひとつふたつの深呼吸などをはさみながら。
※牧野伊三夫(まきのいさお)さん…雑誌『暮しの手帖』の表紙絵や、機関紙『WHISKY VOICE』(サントリー発行)表紙・挿絵、北九州市の小冊誌『雲のうえ』編集委員などでも知られる。
牧野邸にて。仕事後、不意にもてなしをうけた。長火鉢、七輪でゆっくり煮炊きしながら宴が進む。(撮影:大平一枝)

▼大平さんの週末エッセイvol.1
「第一話:新米母は各駅停車で、だんだん本物の母になっていく。」

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