【チャーミングな家】第2話:最低限の設備から、工夫の足し算を続けたキッチン
ライター 小野民
現在進行形で変化する、遊び心たっぷりのお宅訪問第2話です。
建築家の戸田晃さんの自宅は、真ん中に中庭を配置した、光と緑を家のどこにいても感じる素敵なつくり。今回は、玄関を入ってすぐ左手にあるキッチンとリビングを案内してもらいました。
▲キッチンとリビングへの入り口は、かつて同じ場所に建っていた妻・優子さんの祖父母の家の建具を再利用
キッチンのレイアウトは優子さんが主導。しかし、家を建てる当時、さまざまな試したいことがあった建築家の晃さんとは対照的に、優子さんは「『家』というものにあまり興味はなかったし、こういう住まいがいいという希望もなかった」と話します。
晃さんへのオーダーは「シンクと棚と作業台があれば」くらいだったそう。中古でステンレス素材の業務用のものを探し、もともと使っていたコンロを連ねて基本は完成しました。
▲キッチンには、気づいたらすぐにつくったり直したりするためのペンチが並んでいます
優子さん:
「暮らしていると、不便だと感じるところはどうしたって出てきます。だから、最初にカチッと決めてしまわない方がいいこともあって。違和感をすぐ直したり、欲しいものがなければつくったりしたい性分なんです」
「あるものを別の形で生かす発想がすごい」と晃さん。その言葉を受けてキッチンを見てみると、確かに、なるほど、便利そうな工夫があちこちに見つかりました。
吊り下げる、くっつける。フックとマグネットは常備品
優子さん:
「すぐに使うものは基本的に、見える収納ですね。壁には棚をつくったりフックをつけたりして、使うときに便利な場所に置いておきます。だから針金を曲げるためにペンチが手放せないのよね(笑)。
細々したものも、ガラス瓶に入れて中身がすぐにわかるようにしています」
優子さん:
「料理道具もすぐ手が届くところに引っ掛けるのが基本で、マグネットは便利でよく使います。包丁、メモ、タオルにラップもくっつけていますね」
▲強力なマグネットをラップの箱の中に仕込んでおけば、吊り戸棚の下にぺたり
▲空き缶の蓋をそのまま巻きつけて固定したものは、長年醤油入れとして活躍
毎日の経験から、収まるべきところに収まった道具たち。すぐに手を伸ばせるところにある道具は、使われるのを待っているようで、キッチン全体もいきいき見えてくるから不思議です。
もとはなーんだ? 意外な収納アイテム
かつて別の用途で使われていたものに、新しい使い道を見出すのが上手な戸田さんたち。「これ、もともとは何だったと思う?」といたずらっ子のように聞いてくれます。
例えば、調理台の下のスペースの収納は、昔コーラが入っていた木箱にキャスターを付けたらぴったり収まりました。3つの箱に缶詰などの保存食を収納しています。
▲ぴったり具合を嬉しそうに話してくれる優子さん
もうひとつ、意外で便利な使い方を発見したのは、バイクの両側に取り付ける荷物入れ。5kgの米袋用にあつらえたかのような優れものです。パスタなどの乾麺を入れておくにも長さがぴったりで、1つは米用、1つは麺用になっているそうです。
家のどこからでも見える、開かれたリビング
晃さんが「コックピットのよう」と表現するのも納得で、工夫たっぷりのキッチン。
コックピットから後ろを振り向けば、そこはリビング越しに中庭が見え、玄関から入ってきた人は家族であろうと、晃さんの事務所に訪れたお客さんであろうと、必ず横を通りすぎていく。いわば戸田家の公共空間でもあります。
晃さん:
「必ずリビングの横を通らないと他の部屋に行けない設計は、家族の様子がいつも分かる、会話がある、そういったことにとってよかったかもしれません。
もう巣立った娘が小さい頃は、勉強机も置いていましたし、ここに座り混んで、庭をスケッチしてた光景も思い出します」
▲リビングに置いた食器棚に、すべての食器を収納。年に1度点検して、余裕をもって収まるように調整しているそう
戸田家の入り口でもあり、中心をなすキッチンとリビング。お子さんの巣立った今は、日当たりのいい窓辺は2匹の猫たちのくつろぎスペースにもなっていました。
次回は、晃さん、優子さんそれぞれの仕事場へ。働く場所でありながら、2人のらしさが詰まった部屋を案内してもらいます。
(つづく)
【写真】鈴木静華
もくじ
戸田晃
1959年東京都生まれ。東京都立武蔵野技術専門校(現キャリアカレッジ)建築設計科卒業。1993年にあるて工房建築設計室を設立し、2002年に戸田晃建築設計事務所に改称。2004年Design it yourself展(OZONE)に参加。http://www14.plala.or.jp/akiratoda/index.html
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