【57577の宝箱】あの人の光を胸のポケットに忍ばせ 心を温める日々

文筆家 土門蘭


最近の毎日の楽しみは、漫画を読むことだ。
スマートフォンに漫画のアプリを入れ、いろんな作品を毎日1話ずつ無料で読んでいるのだけど、それを楽しみに生きていると言っても過言ではない。

昔から漫画は大好きだった。でもこの方法で漫画を読み始めてから、一気に好きなジャンルが広がった。恋愛もの、スポーツもの、戦闘ものやミステリー、ホラーまで、世の中にはこんなにもおもしろい作品が溢れているのか!とびっくりする。

無料のゾーンが終わったら、課金をして続きを読んだり、本として買って読んだりしているのだけど、「毎日1話ずつしか読めない」時期にしかなかった高揚感とドキドキ感ってあるよなぁと思った。
この感覚は、月刊誌や週刊誌で漫画を読んでいた頃に味わったことがある。1週間に1度の「少年ジャンプ」、月に2度の「マーガレット」、1か月に1度の「りぼん」……あの作品の続きはどうなっているんだろう、そう言えばこの作品の続きも気になっていたんだよなー!と、はやる気持ちを抑えながら分厚い雑誌を開くあのドキドキ感は、単行本ではなかなか味わえない。

その喜びを、漫画アプリは毎日私に与えてくれる。
仕事に行き詰まっても、やる気が出なくても、「これが終わったら続きを読もう」と思うだけでちょっと頑張れる。そういう時間があることは、生活においてとても大事だと思う。

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ここ最近で一番ハマったのは、美内すずえさんの『ガラスの仮面』だ。

私が愛用しているアプリでは、なんと300話以上無料で公開されているのだけど、つまり、私は300日以上コツコツ毎日読み続けたわけなのだけど、毎日欠かさず「なんておもしろいんだろう……」と呟かずにはいられなかった。300話以上、読者の気持ちをこんなに引き寄せ続けるだなんて、美内さんは本当にすごい方だなと、読み終わるたびに驚嘆した。
そんなふうに1年の大半を『ガラスの仮面』に支えられ続け、先ほど無料ゾーン最後の333話を読み終わったところだ。続きは本で買うか、デジタルで読むか、とても迷っている。

『ガラスの仮面』は、演劇を志す少女のお話だ。
主人公は、13歳の少女・北島マヤ。母親と二人、中華料理店に住み込みで働くマヤは、勉強もスポーツも得意ではない、平凡な女の子だった。だけどテレビでお芝居を見るのが大好きで、一度見たドラマはすぐにセリフを覚えて再現してしまう。そんな彼女を見つけた元大女優の月影千草が、マヤを女優へと育てていく……

簡単に言えばそんなあらすじなのだけど、とにかく波乱万丈でおもしろい。
目立つような容姿も特技もコネクションもなく、「平凡な少女」と周りから言われていたマヤが、どんどんその才能を表していくのが痛快で仕方なく、私自身もマヤの演技の虜になっていった。マヤが演じるヘレンケラー、若草物語のベス、たけくらべの美登利……どれも本当におもしろい回だった。

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ただ、私がもっともこの作品で好きなのは、マヤのライバルの姫川亜弓さんという人だ。
亜弓さんが出てくると「待ってました!」と思うくらい、彼女の大ファンになってしまった。

亜弓さんは、大女優と有名な映画監督の間に生まれた一人娘。容姿端麗、頭脳明晰、踊りもスポーツも得意で、もちろん演技の実力もある。「演劇のサラブレッド」と呼ばれるほど、周りから評価も期待もされている少女だ。

マヤは彼女を「なんでも持っている」と思い、羨ましがる。
だけど亜弓さんは、実は自分よりもマヤの方が才能があることをわかっている。そして、尋常ではない努力でマヤを越えようとする。
そこで読者は、亜弓さんがマヤと出会うまでも、ずっとものすごい努力を重ねてきたことを知るのだ。

中でも大好きなシーンがある。
マヤと亜弓さんが二人で同じ部屋に泊まったとき、亜弓さんが自分の荷物をきちんと整理してから床につくシーンだ。マヤはぐちゃぐちゃの自分の荷物を横目に、「亜弓さんはすごいなぁ」と感心する。

私はこのシーンから、亜弓さんは今までもずっと、こんなふうに自分が持っているものを大切にしてきた人なのだろうな、と思った。
演劇界の重鎮である両親や、経済的な豊かさ、美貌や身体能力など、生まれ持ったものは確かに大きいかもしれない、でも、彼女はそこにあぐらをかくことなく、ずっと自分に「あるもの」を大切にして磨き続けてきた。そんなことがわかるシーンだからこそ、私はこの数コマに心を打たれたのだ。

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亜弓さんを見ていると、こっちまで背筋が伸びる気がする。

自分の持っているものをきちんと整理して、何を伸ばせばいいのか、何が足りないのかを把握し、コツコツと誰よりも努力を続ける。そんな彼女を見ていると、「ああ、私も頑張ろう」と素直に思えるのだ。亜弓さんのようになりたいな、と。そして、亜弓さんの努力が報われると、私もまた自分のことのように嬉しい。

現実だろうがフィクションだろうが、そんな人に出会えるのはとても嬉しいことだと思う。その人の姿を想像すると、自分も前向きになれる存在。誰かが誰かを応援するのは、こういう気持ちになるからじゃないだろうか。

これからも亜弓さんの努力を、陰ながら見守っていたい。『ガラスの仮面』、続きを読むのが楽しみだ。

 

“ あの人の光を胸のポケットに忍ばせ心を温める日々 ”

 

1985年広島生まれ。文筆家。京都在住。小説、短歌、エッセイなどの文芸作品や、インタビュー記事を執筆する。著書に歌画集『100年後あなたもわたしもいない日に』、インタビュー集『経営者の孤独。』、小説『戦争と五人の女』がある。

 

1981年神奈川県生まれ。東京造形大学卒。千葉県在住。35歳の時、グラフィックデザイナーから写真家へ転身。日常や旅先で写真撮影をする傍ら、雑誌や広告などの撮影を行う。

 

私たちの日々には、どんな言葉が溢れているでしょう。美しい景色をそっとカメラにおさめるように。ハッとする言葉を手帳に書き留めるように。この連載で「大切な言葉」に出会えたら、それをスマホのスクリーンショットに残してみませんか。

 


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