【わたしの器ライフ】第1話:器は料理の着物。さもない料理も器の力で、ぐんと美味しそうに見えるんです。(こてらみやさん)

編集スタッフ 岡本

我が家の食器棚を開けると、雑多な中にもこれは大切だと思える器がいくつか並んでいます。

一人暮らしを始めた時に揃えたものや、旅先で偶然出会ったものなど、これまでの人生の思い出深い瞬間に紐づいている器たちを見ていると自然と気持ちが上がるものです。

でも思いが強いあまりに、割れてしまったらどうしようと気軽に使えなかったり、「今日はどの器にしよう」と考える間もなくいつも同じものを選んだり。いまいち私と器とのいい関係を見つけられずにいます。

食事を用意するたびに思いを馳せるのは難しいかもしれないけれど、ふとした時に器に宿る物語を思い出せたら。献立を考える時や食事を囲む時の心持ちまで変わるかもしれません。

そんな思いを抱きながら、器好きの3名の方に会いに行ってきました。

第1話にご登場いただくのは、料理家のこてらみやさんです。「大切な器での食事は、自分を労わることに繋がる」と話すこてらさんが、日常でどのように器を楽しんでいるのか、お話を伺いました。

 

器は料理の着物。本来の良さがぐんと引き立って

こてらさん:
「何枚あるのか、もう分からないほどだけど、今手元にあるのは思い出深い器ばかりですね。

日々料理と向き合う中で感じるのは、器の持つ力って偉大だなということ。ただ切っただけの食材もいい器があればたちまち美味しそうな料理に変身するんですよ。例えば、チーズ。袋から出してそのままつまんで食べてもいいけれど、素敵な器に盛って、オイルとナッツを添えるだけで立派な一品に。味も気持ちも一段と豊かなものになる気がします」

お話をしながら、ささっと用意してくれました。袋に包まれていた時から美味しそうな雰囲気が漂っていたけれど、器に盛られたそれはぐんと艶っぽく、出された瞬間に思わず「わぁ!」と声を上げるほど。

器は料理の着物、と話すこてらさんの言葉に納得です。食材も人と同じで、素敵なものをまとうことで本来の良さが引き立ち、気持ちを上げてくれることをまざまざと感じました。

 

中学生の頃に買ったマグカップは、今でも愛用中

幼い頃から料理をするのが好きだったこてらさん。父親が日本と中国のものを扱う骨董店を営んでいたため、日常的に使う器もさまざまな種類が揃っていたのだそう。

こてらさん:
「父親の仕事柄、家にも古いものがたくさんあって、志野焼や古伊万里の器が食卓に並んでいました。特に気に入っているのが、古伊万里(こいまり)のお皿。

高価なものだし、両親から譲り受けた大切な器ではあるけれど、愛着があって料理を美味しそうに見せてくれるから毎日のように使っています」

▲欠けたところは金継ぎで修復。かぶれにくい新うるしを使って、自分で直しているのだそう。

こてらさん:
「私が中学生くらいの頃に、西洋雑貨を扱う『Afternoon Tea(アフタヌーンティー)』ができたんです。

その時自分だけのマグカップがほしくて、お小遣いを握りしめて買いに行きました。たぶん、それが一番最初に自分で買った器かな。

このカップを持つたび、友達とお揃いで買ったことやお店の雰囲気を思い出します。そうやって一つ一つに思い出があるから、器を手放すのはなかなか難しいですね」

▲中学生の頃にAfternoon Teaで購入したマグカップ。たっぷり入るからスープを飲むこともあるのだとか。

長年愛用しているこのマグカップは、こてらさんの夫もお気に入りでたびたび「あのカップで飲みたい」と言うのだそう。このひとつのカップに中学生の頃の思い出と、夫とこてらさんの今が詰まっている。人生の何気ない瞬間を共に重ねていけることも、暮らしの道具である器ならではの魅力なのかもしれません。

 

量産品も作家ものも、それぞれの良さがあって

こてらさん:
「20歳で東京に出てきて、21歳でフードスタイリストのアシスタントとして働き始めました。撮影の下準備として、食材の買い出しや器のリースをしていて。

それまであまり手に取ることがなかった、作家さんが作る器と出会ったんです。

初めは仕事で触れ合うだけだったけど、返却に行ったついでに自分も買ってみようと少しずつ揃えました。当時の私にとって一枚のお皿に数千円を出すのは勇気がいったけれど、そうやって手に入れたお皿はやっぱり特別なものだったし、どんな料理を盛ろうかなと想像力が刺激されたのを覚えています」

▲パリ在住の友人から購入したモノトーンのプレート。パンとフルーツを盛るのにちょうどよく、朝食時に重宝している。

こてらさん:
「形が同じで綺麗に重ねられる、そしてどこでも買えるのは量産品だからこその良さ。一方で、一枚一枚に表情があり、人の手からうまれた柔らかさを感じるのは作家ものの良さですよね。どちらの方が優れているということではなく、自分が気に入るかどうかという点が重要な気がします」

 

料理を楽しむためにこだわった、縦置き収納

器の収納方法について聞いてみると、大まかにサイズや種類ごとに分け、取り出しやすさにこだわっていることを教えてくれました。

こてらさん:
「器はできるだけ立てて収納するようにしています。

食器棚の中にクッション材を敷き、ブックエンドで仕切りをつけただけですが、このひと手間でかなり使いやすくなりました。

クッションがあるので丸いお皿も転がらず、使いたいお皿をさっと取り出せるように。一枚で重さのある大皿など、重ねて仕舞っていた時は下の方のお皿を使うのが億劫に感じていたように思います」

▲吊り戸棚の右側が水切りスペース、左側が大皿の縦置きスペース

こてらさん:
「去年、部屋の一部をリノベーションしたのですが、中でもキッチン周りは今の私にとっての使いやすさを考え尽くした場所。本当に夜も眠れないほど考えました(笑)

特にやってよかったと感じているのは、シンク上の吊り戸棚の中に洗った食器の水切りスペースを作ったこと。その隣にもお皿を縦置きできるスペースを作って、洗った後の動線もスムーズに。水切りカゴがなくなり見た目もスッキリした上に、作業スペースを広く取れたので、使うほどにこだわってよかったと思っています」

キッチンや食器棚が使いやすい状態だと、料理や器を楽しむハードルを下げてくれるのかも。こてらさんのお話を聞いて、我が家の器収納を見直してみたい気持ちになりました。

 

自分を労う気持ちで、大切な器を使いたい

こてらさん:
「年齢とともに大切な器が増えてきて、これが割れたらショックだなと思うものもいくつかあるけれど、そういうものこそ日常的に使っています。

私はハイボールが好きでよく飲むのですが、分厚いぼてっとしたグラスで飲むのとカットワークが美しいオールドバカラで飲むのとでは、気分だけでなく味わいまで変わってくるんです。

自分で自分に『今日も一日お疲れさま』と声をかける気持ちで、いい器を使ってみる。そうやって励まされていることを考えると、器って偉大だなと感じています」

自分らしい器との付き合い方は、日々使うことで育っていくもの。器を愛おしそうに手に取りながら話すこてらさんを見て、そんなふうに感じました。

続く第2話では、器店店主の刀根さんにお話を伺います。

(つづく)

【写真】松村隆史

 

もくじ

 

こてら みや

料理家・フードコーディネーター。シンプルな調理法で素材のおいしさを引き出す料理を得意とする。ライフワークは、旬の食材でびん詰めを作ること。著書に、『料理がたのしくなる料理』(アノニマスタジオ)、『生姜屋さんとつくった まいにち生姜レシピ』(池田書店)、365日、おいしい手作り!「魔法のびん詰め」(王様文庫)、おかずのもと アレンジ自在で毎日おいしい! QURASHI BOOKS)などがある。2023年3月に山と渓谷社より新刊『レモンの料理とお菓子』が上梓される。Instagram:@osarumonkey


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