【暮らしのみずうみ – 松本便り】第8話:自分流の楽しみ方。
ライター 桒原さやか
フリマアプリをよく利用します。子どもの洋服を買うのがほとんどですが、ときには中古の家具を買ったり、自分や家族の洋服を売ったりすることもあります。
以前、こんなことがありました。
古本を探していてフリマアプリで検索してみると、見つかったのはひとりの出品者。プロフィールをのぞいてみると、2歳くらいの女の子が二カッと笑っている写真が出てきました。
読み進めると、「平日は朝からジムに行きますので、お返事が遅れてしまうかもしれません」などと書かれています。
出品されているアイテムを見る限り、おそらく私の母くらいの年齢の方のよう。きっとプロフィールの女の子はお孫さんなんだろうな。そんなことを考えながらポチッと購入ボタンを押しました。すると、10分も経たないうちに出品者から返信がきたのです。
「ご注文ありがとうございます!
今、お父さんがスーパーに買い物に出かけていて留守なんです。あと30分くらいしたら帰ってくると思うんですけどね。
戻ってきたら、お父さんと車で荷物を出しに行きますからね」
まるでご近所さんや知り合いの方とやりとりしているようで、微笑ましい気持ちになります。
「ありがとうございます!急いでいませんので、いつでも大丈夫です〜!」と返信したのでした。
そして、2日後。
ポストをのぞくと、お願いしていた本が早速届いていました。
ていねいに包まれた封筒を開けると、頼んでいた本といっしょに、クマのシールと桜模様の和紙のシートが2枚。添えられた手紙にはこんなことが書かれていました。
「お花のシートはランチョンマットにすると素敵ですよ!よかったら食事のときに使ってください。
小さなお子さんがいるようでしたので、家にあったクマのシールを一緒に送ります。チビちゃんたちにあげてくださいね」
出品者の方には会ったこともないのに、送っていただいた方の顔や表情、家の様子までなんとなくわかるような気がしました。きっとわたしのことも想像しながら、荷物を用意してくれたんだろうな。いろんなものを受け取ったようで、嬉しくなる買い物になりました。
フリマアプリもそうですが、便利なものほど、便利さと引き換えに何かを失っているようで、さみしい気持ちがいつも心のどこかにありました。でも、それって自分次第なのかもしれません。どんなことにも自分なりの付き合い方があってもいいんだと思ったのです。
ついついあるものを、あるがまま使おうとしてしまいがちですが、自分の好きなように、居心地のいいように、もっと楽しんでいいのかもしれない。そんなことをフリマアプリの一件からぐるぐると考えています。
ランチョンマットとシールを送ってくれた方は、きっと人生も楽しんでいるような気がするのです。
ライター・エッセイスト。岐阜県出身。『北欧、暮らしの道具店』で、お客さま係として6年間働いていたスタッフ。退職後、ノルウェーにある北極圏の街、トロムソに住んでいた。現在は長野県松本市でスウェーデン人の夫と2歳と4歳の子どもの4人暮らし。
著書は2023年4月に発売の「北欧の日常、自分の暮らし- 居心地のいい場所は自分でつくる -」(ワニブックス)。その他、「北欧で見つけた気持ちが軽くなる暮らし」(ワニブックス)、「家族が笑顔になる北欧流の暮らし方」(オレンジページ)がある。
instagram:@kuwabarasayaka
撮影:清水美由紀
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