【暮らしのみずうみ – 松本便り】第13話:変わること、変わらないこと。
ライター 桒原さやか
松本から車で走らせること3時間。目的地は、山の中にぽつんと建つ群馬の温泉宿。この日が来るのを、今か今かと待ちわびていました。
というのも、実はここの宿、10年前に結婚式を挙げた場所なんです。
そのときはスウェーデンから夫の両親も来てくれて、私の両親と、そして姉夫婦の8人で、小さな式を挙げました。せっかくだから全員着物を着よう! ということになり、家族みんなで着物姿になったのもいい思い出です。
慣れない服装に緊張しながら、並んで撮影していると、私たちを見た小学生くらいの男の子が「ひな祭りみたい!」とぽろっと一言。今でもそのときの写真を見ると、その言葉を思い出し、ふふっと思わず笑顔になります。
結婚式当日のことはけっこう忘れていると思っていたのですが、宿を歩いていると、そのときの景色がヒュンと昨日のことみたいに蘇ってくるんです。
ここの竹の前で、ふたりでポーズ撮ったよね?
この場所もあのときのまんまだ!
みんなでメイクと着替えしてもらった部屋だよねぇ、と。懐かしいなぁ。
指輪を交換した部屋に入ると、じわじわと静かに想いがこみ上げてくる私と夫。横をちらっと見ると、子どもたちが、わーーーっと廊下を派手に駆けまわっています。どうやら今はまだ、ゆっくり思い出に浸る時間はなさそうですね。トホホ。
あの時はふたりだったけれど、今は4人でこの場所に来ているのも、改めて不思議だなぁと思います。10年前は東京に住んでいて、今は長野に住んでいるんだな、とか。オフィスで働いていたのに、今は家で夫と並んでパソコンに向かっているんだな、とか。仕事帰りにふらっと居酒屋で飲んで帰るのがなによりの楽しみだったのに、今は居酒屋に最後いつ行ったのか思い出せないくらい前のことだったりして。
こんな未来が待っているなんて、あのときは想像もできなかったんじゃないかな。改めて、いろんなことが変わった10年だったと感じます。それと同時に、自分の奥にいる「わたし」はあの頃とちっとも変わっていない気もして、それもまた不思議で面白い。
そんなことを考えていたら夫が、「10年後、48歳だ!」と一言。
ということは、私は49歳。子どもたちは14歳と12歳。想像もつきません!
どこで何をしているんでしょうか。子どもたちも私と夫も、ワハハと笑って過ごしているといいな。
ひさびさに温泉宿に訪れたおかげで、10年前のことも、今の暮らしも、10年後の自分たちにも想いを巡らす時間になりました。
変わらない場所があるって、ありがたい。
またここを訪れるのを楽しみに、毎日粛々と過ごそう。そんなことを素直に思う旅になりました。
ライター・エッセイスト。岐阜県出身。『北欧、暮らしの道具店』で、お客さま係として6年間働いていたスタッフ。退職後、ノルウェーにある北極圏の街、トロムソに住んでいた。現在は長野県松本市でスウェーデン人の夫と2歳と4歳の子どもの4人暮らし。
著書は2023年4月に発売の「北欧の日常、自分の暮らし- 居心地のいい場所は自分でつくる -」(ワニブックス)。その他、「北欧で見つけた気持ちが軽くなる暮らし」(ワニブックス)、「家族が笑顔になる北欧流の暮らし方」(オレンジページ)がある。
instagram:@kuwabarasayaka
撮影:清水美由紀
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