【暮らしのみずうみ – 松本便り】第15話:変化する「わたし」のバランス。
ライター 桒原さやか
最近、夫と旅先のことでちょっと揉めています。
夫は沖縄に行きたくて、私は台湾に行きたい。
夫の言い分としては、沖縄は海が近いので、自然の中で子どもたちはのびのび走り回れる。台湾の場合、食べることが楽しみの大きな部分を占めるから、子どもはそんなに楽しめないんじゃないか、と。
実は、娘が6ヶ月くらいの頃、夫と3人で台湾へ2週間ほど行ったことがあります。その時は慣れない生活に娘もしょっちゅうグズリ、何をするにも一苦労。食事のときも大泣きするので、夫と代わるがわる、抱っこ紐に入れて揺さぶりながら食べてたっけ。台湾に行くの、早かったかな……と、娘に申し訳ない気持ちになったことを思い出します。
あれから月日は経ち、子どもも一人増えて、今は4歳と2歳。随分大きくなったものの、静かに座っていられないのは今も変わらず、近所のカフェに行くのをためらうことも。
この状況を考えると夫が言うように、たとえ台湾に行っても、結局親も子どもも楽しめないかもしれない。そう思うと、旅のワクワクした気持ちもしぼんでくるのでした。
以前は「今、どこにいるの?」と友人から聞かれるほど、あちこち飛び回っていた私たち。
ヨーロッパの街を散策し、アジアではあちこち食べ歩き、映画を見てピンと来てアラスカのロケ地を訪ねたことも。身軽だったあの頃と比べると、今ではゆっくり本を読む時間さえなくて、なんとか毎日過ごすだけで精一杯というのが正直なところかもしれません。
変わっちゃったなぁ。子どもが生まれても、自分は変わらないと思ってたんだけどな。
毎日の生活も、考えることもまったく違う世界が待っていました。それと同時に、自分もすっかり違う人になってしまったような……。
でも、よく考えると、「わたし」はちっとも変わってなくて、ただ前よりも「わたし」が小さくなっているという感じが近いのかもしれない。そして、何もしないでほうっておくと見えないくらい小さくなってしまう気がする。
子どもが優先の毎日で、自分のことはすっかり後回し。それはそれで今はいいと思っていたけれど、最近はちょっとしたことにイライラしてしまい、そんな自分にもズーンと落ち込むんです。そろそろ本格的に、今の生活を見直す時が来たのかもしれません。
「バランスを取る」という言葉がある通り、バランスは自分で取るもので、自然とできるものじゃないんだな、とも。
そうそう、しばらく悩んでいた今年の休暇は、あれから夫と何度も話した結果、思い切って台湾へ行くことに。
台湾の街中にも、緑がいっぱいの気持ちいい公園がたくさんあるんです。食事を楽しんだ後、近くの公園に行って、子どもたちは思いっきり走り回ったらいい。それなら、親も子どももご機嫌に過ごせそうです。
ドタバタで大変な旅になりそうですが、それも含めて今なら楽しめそうな気がしています。
ライター・エッセイスト。岐阜県出身。『北欧、暮らしの道具店』で、お客さま係として6年間働いていたスタッフ。退職後、ノルウェーにある北極圏の街、トロムソに住んでいた。現在は長野県松本市でスウェーデン人の夫と2歳と4歳の子どもの4人暮らし。
著書は2023年4月に発売の「北欧の日常、自分の暮らし- 居心地のいい場所は自分でつくる -」(ワニブックス)。その他、「北欧で見つけた気持ちが軽くなる暮らし」(ワニブックス)、「家族が笑顔になる北欧流の暮らし方」(オレンジページ)がある。
instagram:@kuwabarasayaka
撮影:清水美由紀
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