歳を重ねることへの不安と興味。店長佐藤の「今」をもとに、あの人と喋って考える、新企画をつくりました
ライター 長谷川賢人
目の前に立ちはだかる不安を、壁と呼ぶことがあります。
でも、壁を横から見てみたり、裏側へ回ってみたりすると、実は山のようになっていて登れるのかもしれません。そうかと思えば、なーんだ梯子が掛かっていて、ゆっくりでも上がっていけるじゃないか、と気付けることも。
壁の様子はさまざまですが、その「越え方」があると知れるだけで、わずかでも向き合いやすくなるものです。それでも、不安はいつもやってくる。壁を前に呆然としないためにも、できることってあるのでしょうか?
9/15(金)20時、そんな問いを探るべく、「北欧、暮らしの道具店」で新しいトークドキュメンタリー番組が公開となります。
この新番組『あさってのモノサシ』は、店長の佐藤が40代後半を迎えて、年齢を重ねていくことや、これからの人生の道のりを思うにつれ、漠然とした不安がふくらんでいったことをきっかけに生まれました。
「心の平和は、歳を重ねることで訪れるのか?」という疑問を、語り合いながら解きほぐしてくれるのは、編集者・ライターの一田憲子さん。佐藤は長年のファンとして、知り合ってからは人生の先をゆく尊敬できる先輩としても、一田さんの活動や著書に触れてきました。
一田さんの近著『人生後半、上手にくだる』(小学館クリエイティブ)を読んだことが、奇しくもこの番組を作るきっかけになったといいます。公開に寄せて、佐藤の胸のうちを聞いてみました。
40代後半にやってきた、ちょっとした不調たち
佐藤の心に、年齢が増えていくことへの不安や、仕事に関連する焦りが生まれ始めたのは、46歳を迎えてから。スタッフが増えたり、株式上場の節目があったりと、自分自身もクラシコムも「てんやわんや」な日々を経ていった時期のことです。
佐藤:
「40代前半までには無かった気分の上がり下がりや、体調の変化などもすごく感じたんです。『私はこのまま頑張っていけるのかなぁ』という不安はそれまでも常にあったけれど、たった数年前までは、まだ自分の中にエネルギーが多くて乗り切れたんだと思います。
それが、子育ての手が離れてきて、自分の時間も戻ってきはじめる中で、年齢の変化からくる、ほんとうにちょっとしたカラダの不調と出会うシーンも出てきました。あとは、料理をする気が急に出なくなったり、本をあまり読めない時期が続いたり」
佐藤:
「そんな自分と向き合っていかないといけないのに、クラシコムはますます成長しようと頑張っている。『あぁ、数年前のほうが、考える企画もキレがよかったんじゃない?』なんて、会社の帰り道に、今まで以上に不安を覚えたりして。
この先の50代、それに60代のことを、どこか考える時間が増えていったんです」
ずっと機能していたい自分と、できなくなる自分
そんな日々で出合ったのが、一田憲子さんの書いた『人生後半、上手にくだる』でした。58歳になった一田さんが、人生はずっと上昇曲線ではなく、人生後半戦にある「シアワセ」を探すことへ、暮らしや仕事を捉え直していくことを模索する一冊です。
この本で、一田憲子さんは作家の田口ランディさんのある言葉を引用しています。その一節に、佐藤も心を打たれたと言います。
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歳をとって、私たちが働けなくなったり、何かの価値を生み出すことができなくなった時、それでも幸せでいるためには、どうすればいいのだろう?という問いかけでした。
その上で、ランディさんが教えてくれたのが、こんな言葉でした。
「私たちが、自分のなかにある、ふたつの対立するものを統合することが、世界に対する貢献である」。
この「統合」という言葉に、アンテナがピピピッと反応しました。そうか、私はこれから先、今まで手に入れたものを「あれ」と「これ」を結びつけながら、「統合」していけばいいんだ。それなら、これ以上「もっともっと」と何かを獲得しなくてもいい。すでに持っているものを合わせるなら、すでに私の手の中にあるものに無限の可能性があるってこと。
一田憲子『人生後半、上手にくだる』(小学館クリエイティブ刊)p,28より
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佐藤:
「私は本を読むとき、一度目に読んで心打たれた箇所はページの上の角を折って、二度目には下の角を折るんです。このページは両方の角が折られて、しかもぐるぐるとペンで文章が囲ってあるくらいに響いたんですね。私が求めるシアワセの境地も、とても似ている気がしたからです。
ずっと機能したい自分と、次第に機能できなくなるかもしれない自分という正反対のイメージを、統合させて『世界に貢献』する。自分自身という世界の平和も、これなら保たれやすくなるはずだと思ったんです。
きっと私と同じように、さまざまな不安や、相反する自分の気持ちと、どうやって折り合いをつけるのかに悩むお客さまもいらっしゃるはず。まだまだ怖いけれど、一緒になって、そろりそろりと歩んで行くような企画ができないかな、と考えていきました」
心のモノサシに、新しい単位を
トークドキュメンタリー番組『あさってのモノサシ』は、人生を捉えるための「心のモノサシ」を見つめ、その尺度や単位を新しくしていくことで、自分にとっての世界を測り直そうとする試みです。
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枯れて朽ちることでしか味わえない何かとは、いったい何なのだろう? それを知るためには、考え方や感じ方を、新たな世界に合わせて、ひとつ「ずらす」必要があります。今までと同じメモリでは測ることができない世界では、新たな「単位」を知らなくてはいけません。
一田憲子『人生後半、上手にくだる』(小学館クリエイティブ刊)p,16より
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佐藤:
「この新たな単位を知っていくことを、一田さんは『まっすぐの形じゃないジグザグした定規』という表現で話してくれました。
私自身も以前から、人生や仕事を捉えるためのモノサシや単位を作り変えていく必要がありそうだと思っていました。それを私より10年くらい先を生きている一田さんからも伺ったとき、やっぱりその転換点が来るんだな、と感じて」
佐藤:
「『北欧、暮らしの道具店』も、さらに幅広い年代のお客さまがいらっしゃってくれるようになってきました。私よりずっと年上の方もいれば、ずっと若い方もいらっしゃいます。
人生の先を行く先輩たちに学びながら、暮らしだけでなく、『歳を重ねること』に対して、私も新しい概念を得ていきたいです。そして、そのささやかな希望の光を、若い世代のお客さまも含めて一緒に見つけていけたら、なんだか私も心強く感じちゃいます」
たくさん怖がって、バタバタしたほうがいい?
番組の初回は、一田さんにあった暮らしの変化をドキュメンタリーで交えながら、佐藤と共に語るトークシーンで構成されています。制作中、一田さんからかけられた言葉に、佐藤は自分の現在地を見つめ直すこともできたそう。
佐藤:
「番組中では一田さんが、現在の心境に至れた瞬間のことを話してくれています。『佐藤さんも、その瞬間が来るまでは、たくさん怖がってバタバタしたほうがいいですよ!』って言われたんです。焦ったり、不安に駆られたりして頑張っただけ、その瞬間に得られる理解の深さや幅が出るからって。
それにバタバタできるのは『焦るだけの元気があるんですよ』。私自身が40代後半で感じてきた不調も一田さんから見れば、まだまだ元気なんだなぁ、と。そういう元気のある状態さえ越えて、安堵できる心境に、一田さんは50代の後半で至っていくんですよね。
一田さんと私は、10歳あまり違います。私もあと10年は、不安に駆られながらもコツコツ自分なりに奮闘していけば、同じような境地が待ってるのかも……?」
▲今回の取材中、なんとオフィスに打合せへ来た一田さんにバッタリ! 思わずツーショットを。動画内ではたっぷりとおしゃべりさせてもらいました。
佐藤:
「そう思えたことで、真っ黒にしか見えなかった得体のしれない不安が、うす茶色くらいまでには感じられてきたように思います(笑)。いきなりピンク色にはならなくたって、そうやってだんだんと不安の色が変わっていくきっかけに、この番組がなれたらいいですね」
9/15(金)20時公開!予告編もぜひご覧ください
「歳を重ねるってどういうことなんだろう?」とふたりでお喋りして、一田さんの今の暮らし方に密着して、ご両親の老いにはどんなふうに向き合っておられるのかもお聞きして……
そんな新しい試みが詰まった、40分の新番組の公開をどうぞお楽しみに。
一本のテレビ番組を見るような気持ちで、楽しく、そして一緒に感じたり考えたりしながらご覧いただければ嬉しいです。
【写真】土田凌、高木考一(2、3、13枚目)
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