【黒子のふたり】後編:みんなのために「良い道具」を作りたい。システムもお客さまにつながるものだから(井出 × 木村)

ライター 長谷川賢人

ふだんはせわしなく、仕事と向き合うクラシコムのスタッフたち。ゆっくり、じっくりと、お互いのこれまでを振り返って話す時間は……実はそれほど多くありません。

でも、あらためて話してみると、人となりがもっとわかったり、新鮮な発見が得られたりするもの。そこで、スタッフ同士でインタビュー(というより、おしゃべり?)してみる機会を持ってみることにしました。

今回は、クラシコムのお金まわりを管理する「財務経理グループ」の井出と、「テクノロジーグループ」で社員みんなが使う基幹システムの運用を担当している木村が登場。

クラシコムにとって、まさに「縁の下の力持ち」を務めるふたり。そして、もともと「北欧、暮らしの道具店」のお客さまでもあったという共通点も。お店の外側からも、内側からもこの場所を見てみると、いったいどんな気づきがあったのでしょうか。

後編は主に井出が聞き役となって、木村に色々と質問してみました。
前編を読む

 

使っていることを意識しないくらい、良い道具でありたい

井出:
木村さんがいるテクノロジーグループは、クラシコムのさまざまなところと関わり合いが深いですよね。

木村:
グループの仕事を大きく分けると、「北欧、暮らしの道具店」のシステムを担っているチームと、クラシコムという会社の基幹システムを運用しているチームがあります。私は後者のほうです。

前職もシステム開発会社で、顧客の企業内で使うシステムを専門的に開発している部署に所属していました。私が関わるプロジェクトもそういったものが多かったですね。

井出:
それこそ、お客さまからは本当に見えないところというか。

木村:
お客さまからは見えないところですし、それこそスタッフからも見えなくて構わない、と私は思っていて。

井出:
どうしてですか?

木村:
基幹システムは、それを使うことそのものが仕事ではなくて、あくまで業務を円滑に進めていくための「道具」です。たとえば、切れない包丁や柄の短い菜箸だと料理がしにくいように、道具としての使い勝手の良さは大切。

理想は「システムを使っていることさえ意識せずに使えること」だと思うんですね。そして、理想へ近づけば近づくほど、みんなが使うことを「当たり前」になって、そのうちにフィードバックもなくなっていき……と言うと、すこし寂しいですが(笑)、それがあるべき姿なんだと思います。

木村:
クラシコムの基幹システムは随分と昔に作られたもので、いろんな人が関わりながらメンテナンスをしてきました。技術を見れば歴史的な経緯も感じますし、今の業務と合っていない部分もありますから、優先順位をつけて改善していくような日々ですね。

井出:
ということは、木村さんの担当したところではない部分を直すこともあるんですね。

木村:
もちろんです。自分が作ったわけではないけれど、私も一人のエンジニアなので、関わるシステムで苦労をかけていることを知れば、心が痛みますし、申し訳なくも感じます。だからこそ、良いものは引き継ぎながら、理想の姿へもっと近づけるように頑張りたいな、と思うんです。

 

「あ、なんか楽しいかも!」が今にも続く道に

井出:
昔からパソコンは得意でした? 部活動で触っていたりとか。

木村:
いえ、高校時代から華道部でしたし、大学は日本文学の専攻です(笑)。学業はまるきり文系で、理系が得意ですらなかったですね。卒業論文のテーマも「文豪と写真の関係」で、もともと写真が趣味だったこともあって、本来的には関係がないはずの作家の見た目と作品性が結び付けられるようになったのはいつ頃から……みたいなことをまとめました。

エンジニアになったのは、大学生の頃に自分自身のウェブサイトを作ってみたりして、すこしだけコーディングに馴染みはあったんです。でも、就職活動の時期になって、「自分が何になりたいか」は全然はっきりせず、あらゆる会社の説明会に参加してみまして。

井出:
私も就職活動が始まっても「何になりたいか」はわからなかったので、共感します…。

木村:
そこで出会ったのが前職の会社だったんです。当時の採用担当者がものすごく熱意のある方で、「未経験なんて全然大丈夫!うちの会社は、他の企業へ教育プログラムを販売しているくらいに研修が充実しているから!」と。実際に現場へ出るのも、しっかり学んだ後だと説明されて、「それならやれるかも…」と進んでみて、結果として今に至るという感じです。

井出:
その採用担当者さんの一言がなかったら、ぜんぜん違う道だったかもしれないですね。

木村:
最初は呪文みたいだったソースコードを学んで書くと、思った通りに動いてくれたり。動いてくれなくても、直すためにはどうしたらいいか考えられたり。「あ、こんなことができるんだ」というインプットとアウトプットの繰り返しが、私には面白かったですね。「エンジニア、なんか、楽しいかも!」みたいな感じで続けられたんです。

結局、そこから14年勤めることになりました。

 

14年勤めてから、一歩立ち止まって考えてみた

井出:
14年! それだけ一筋だと、転職には結構な思い切りがありませんか?

木村:
はい、そうなんです。確かにタフな職場でしたが、仕事も楽しかったですし、辞める気もありませんでした。転機になったのは産育休を取ったこと。フルタイムで復帰してみると、家族との時間を削って仕事をしなくてはいけない場面があり、育児との両立がだんだん難しくなってきました。

何より、メンバーと同じ土俵で戦えないと感じて、ここで少し立ち止まってみて、バランスを考えてみるのもいいかもしれない、と思ったんです。

井出:
大事ですよね。私も監査法人で働いていたときに、「このままでいいのかな」と立ち止まってみたことがあったので。

木村:
そうなんですよね。クラシコムは男女比率でいえば女性8割くらいですが、当時の職場は真逆で男性8割の環境でしたから、まだ育児と仕事の両立に関しても、制度はあっても実際は追いついていない…といった感じでした。

それで、いざ転職をしようと決意して、いろいろな会社と面談したり、決め手がわからなくなって「私はいったいどういう働き方がしたいんだろう?」ともやもやしたり。転職活動をしていたら、「北欧、暮らしの道具店」に求人募集が出ていて、これはチャレンジしてみるしかない!と。

井出:
もともとよく見ていたんですか?

木村:
映画の『かもめ食堂』も好きで、北欧雑貨にも憧れがあったんです。それで、今の夫と暮らし始めるときに「すてきな雑貨がほしいなぁ」と検索したら、「北欧、暮らしの道具店」がヒットしました。そこから、仕事でもやもやした時とかに癒しを求めて、読みものや動画といったコンテンツに触れる習慣ができていったんですね。

 

スタッフの裏側を見て、自分にできることを、もっと考えました

井出:
お客さまとして「北欧、暮らしの道具店」を見てきて、いざ入社してみたらギャップなどは感じました?

木村:
「抱いていた幻想が崩れたらどうしよう…」と頭を一瞬よぎったんですが、全然そんなことはなかったです(笑)。入社してすぐ、チームのマネージャーに「クラシコムという会社を知ろう」と、いろんなグループのミーティングに参加させてもらったんです。PBの商品開発のディスカッションも、本当に細部に至るまで悩んでいるのを目の当たりにして。

みんなが様々な場所で「どうしたらお客さまへより良く届けられるだろう?」「どうしたらこの商品の良さを伝えられるだろう?」と、同じように悩んでいる人たちへ向けて、頭をひねっている。むしろ、そういった制作や運営の裏側を知ったからこそ、スタッフの奮闘ぶりや「生みの苦しみ」にも触れて、好きな気持ちがより一層増したくらいですね。

木村:
それを見て、ますますエンジニアとしてできることを考えますし、基幹システムという会社の道具をよりよくして支えたい、みたいな想いが湧きました。

社内のコミュニケーションツールも、各グループがオープンに会話をしていて、最初にミーティングに参加したときみたいに、私も今でもそっとのぞいてみることがあるんです。

井出:
私もたまに見ています(笑)。

木村:
今は楽しみで見ているだけ、というよりは、テクノロジーグループとして何か先回りしてできることはないかな、と探すような気持ちもありますね。あと、みんなのやり取りに「感謝」というピンク色のスタンプの登場率がとても高くて、なんだかそれもクラシコムらしいコミュニケーションだなぁって。

 

お客さまと、どういう関係性でいたい?

井出:
木村さんがもっとやってみたいことって、ありますか?

木村:
クラシコムの業務を理解していくにつれて、あくまで社内の人が使う基幹システムのその先にも、いつもお客さまがいるという意識を強く持てるようになりました。スタッフと同じく「お客さまとの関係性をどういう形で保ちたいか」という目線でいたいです。

テクノロジーグループは、そういうみんなの「どうありたいのか」という姿に寄り添って、一緒に考えながら手を動かしたい、と願っているメンバーたちだと思うんです。これからも同じ方向を見て、取り組んでいくことを大事にしたいです。

それに、クラシコムはシステムを作る私たちも、それを使うスタッフたちも、立場がフラットに感じます。自分たちが使う道具を自ら磨いて、それを使う人もすぐそばにいる環境なので、一緒にもっといろんな課題に取り組めるはず。

基幹システムというお客さまからは見えない部分であったとしても、私たちにとっては、いつでもお客さまへとつながっていく「全体像」を意識しながら、より良い環境にしていきたいですね。

(おわり)

【写真】川村恵理
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