【あのひとの子育て】齋藤紘良さん・美和さん〈前編〉忙しくて「子どもとの時間」がつくれないと悩んだら
ライター 片田理恵
写真 神ノ川智早
子育てに正解はないといいます。でも新米のお父さんお母さんにとって、不安はまさにそこ。自分を形作ってきたものを子どもにどう伝えるのか。「好き」や「得意」をどうやって日々に生かせばいいのか。正直、わかりませんよね。だって正解がないんですから。
だから私たちはさまざまなお仕事をされているお父さんお母さんに聞いてみることにしました。誰かのようにではなく、自分らしい子育てを楽しんでいる “あのひと” に。
連載第4回は、東京・町田市でしぜんの国保育園を営む齋藤紘良(さいとうこうりょう)さん、美和(みわ)さん夫妻をお迎えして前後編でお届けします。
「私の子育ての模索と葛藤は、いつだって次へのステップと自分を信じることにつながっている」。そんなふうに感じていただけたらうれしいです。
大人と子どもをつなぐ喜びが「子育て」
しぜんの国保育園は東京・町田市にある認可保育園。芸術活動、食育活動、自然体験を大切にしながら、子どもたちを主体に置いた保育に取り組んでいます。
園長である齋藤紘良さんはさまざまな作曲活動をはじめチルドレンミュージックバンド「COINN」のリーダーも務める音楽家として、職員としてともに働く妻の美和さんは絵本の翻訳などを手がける編集者・作家として、それぞれが保育とは別のフィールドでも活躍中。
夫妻の活動の根っこにある思いは「大人と子どもを文化でつなぐ」ことだと言います。そして、その最大の喜びが「子育て」。
休日の昼下がり、家族がそろって過ごす大切な時間にお邪魔しました。
「保育」と「子育て」は、似ているようで全く違う
家族構成は夫妻とひとり息子の晴都(はると)くん。小学校2年生です。
お寺の次男として生まれた紘良さんは実家を継ぎ、平成23年に「しぜんの国保育園」の園長先生になりました。
「保育のプロは子育てのプロでもある」とつい思ってしまいがちなんですが、そういう認識はありますか?
紘良さん:
「全然ないですね。確かに子育てと保育が影響しあうことは多いですが、全く違うものです。
保育士の仕事というのは “保育園という場所で子どもを育てること” なので、社会形態が家庭とは違います。社会が異なれば、実践の方法もマインドも異なってきます。
たとえば、子どもの学びや成長を記録するノート。僕が親として息子の成長を記録する時は、誰かに見せるプレッシャーもないので、思いのままをひといきに書きます。
でも保育園でみている子どもの学びについて書く時には、保護者に伝わるよう、子どもが大きくなったら読み返してもらえるよう、しっかり推敲します。そういう違いがありますね」
父から息子へ、1本のナイフに思いを込めて
晴都くん6歳の誕生日に紘良さんが贈ったというナイフを見せてもらいました。
フィンランドの伝統的な日用品で、現地の人々は常に腰に下げて携帯し、料理や木工などあらゆる作業に使うのだそう。
北極圏をトナカイとともに遊牧して生活するサーメ人が使う「サーメプッコ」と呼ばれるタイプです。
紘良さん:
「刃物って子どもはみんな好きでしょ(笑)。大きい方は僕ので、森に行くときに持っていって枝を切ったりして一緒に使っています。
ナイフはすごく便利だけど同時に危険なものでもあるということをちゃんと教えたいし、扱うときは気持ちを穏やかにしてからにしようねとか、そういう話をする機会にもなる。
ちなみに息子は、2歳くらいの時からおばあちゃんに包丁を持たされて使っていました。近くにいる大人がよく見守っていれば、子どもは大人の想像を超えた能力を発揮できるんだと思います」
観るだけじゃない、映画の楽しみ方はたくさんある
サーメプッコで拾った木を削って作ったんですと出して見せてくれたのは、水晶が埋め込まれた“魔法の杖”。晴都くんはさらに「ロード・オブ・ザ・リング」のエルフがまとっていたマントを着て登場してくれました。
この完成度と雰囲気! すごくカッコイイですよね。
まさにこれが紘良さんの「つくる」得意技。映画を観て楽しむだけでなく、自分の手を動かしてつくってみる体験を大事にしているそう。
紘良さん:
「つくるのが好きなんです。売っているものでも『こうやればつくれるんじゃないか』と考えるのが楽しい。
マントはファンタジーの絵本や映画が大好きな息子が喜ぶと思ったし、僕も『つくれるんじゃないか』とワクワクしながらつくりました。採寸して、布を裁断して、ミシンで縫って……でも、けっこう適当ですけどね(笑)。
魔法の杖は彼が山で見つけてきた木の枝があまりに素晴らしい形状だったので、ふたりで一緒につくりました。
ナイフやヤスリで形を整えて、オイルで表面をなめらかにして、水晶を買ってきて装着して。たまに石が取れてしまうことがあるので、そのたび直しながら遊んでいます。
でも音楽に関しては、実はあまり一緒にやらないんですよ。僕の想いが強すぎて、つい口を出してしまいそうなので。息子には彼の好きな音楽観があるので、それを大事にしたいですね。
日常生活のなかでCDやレコードを一緒に聴いて、その反応を曲作りに反映させたりすることはあります」
悩んで人と比べるより、一緒にいる時間を自分も楽しむ
紘良さんならではの子育て観は、自身の幼少時の記憶とも結びついているようです。
紘良さん:
「小学生の頃、朝の3時か4時頃に突然起こされて家族で旅に出るっていうのがありました(笑)。
実家のある東京町田市から千葉まで早朝のドライブをして、みんなで朝陽を見て、学校の始業時間に間に合うように帰ってくる、みたいな。
いま親になってみて思うことですが、両親とも働いていたので、家族で一緒にいる時間を少しでも増やしたかったんじゃないでしょうか」
平日は保育園の仕事、土日は音楽活動や講演会など、紘良さん自身も多忙な日々を送る現在。晴都くんと過ごす時間がなかなかつくれないのが悩みだといいます。
でもかつての自分の体験のように「子どもに大人が合わせるのではなくて、一緒に時間をつくり上げればいいんだ」と思えた時、「人と比べると子どもと過ごす時間が少ない」ということは気にならなくなったそう。
たとえば休日の朝、親子で朝食用のパンを買いに自転車で出かけること。ほんの30分の出来事でも「こんなに長い時間、自転車に乗ることができるようになったんだ」と日々の成長に気づくことができ、何よりもうれしいのだとか。
「子どもと一緒に楽しいことをしようと思うと、予想もしていなかった変化を大人である自分自身も受け取ることができる。それは保育園でも家庭でも同じかもしれません」
息子の成長は自分の成長にもつながっているから
息子の成長に目を細めつつ「同じ目線になりたい」という気持ちも出てきました。
紘良さん:
「小学生になって、僕の知らなかった晴都がどんどん見えてくるようになったんです。
赤ちゃんの頃だって目と目を合わせるという点では『同じ目線』だったけれど、たとえば今はメンコで遊ぶことも『同じ目線』でできるようになった。これからさらにいろんな面で対等な視点に立てるんだと思うと待ち遠しいです。
親って子どもの成長過程でそのつど『同じ目線』になれるし、それが増えていく喜びに立ち会える。近しい人と『同じ目線』でいられるのは自分自身の成長にもなりますよね」
紘良さんが話す言葉にじっと耳を傾け、笑顔でうなずいていた美和さん。後編ではお母さんの立場から、齋藤家の子育てについて伺います。
(つづく)
齋藤紘良/齋藤美和
「大人と子どもを文化でつなぐ」ふたりぐみ。緑豊かな町田にスタジオ兼アトリエをかまえ、こどもたちと暮らしながら、音楽、執筆活動を行っている。saitocnoの名義で、伝承文化を大切にしたミニマガジン「BALLAD」を発行。http://www.saitocno.com
ライター 片田理恵
編集者、ライター。大学卒業後、出版社勤務と出産と移住を経てフリー。執筆媒体は「nice things」「ナチュママ」「リンネル」「はるまち」「DOTPLACE」「あてら」など。クラシコムではリトルプレス「オトナのおしゃべりノオト」も担当。
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