【あのひとの子育て】齋藤紘良さん・美和さん〈後編〉わからなくても、悩んでも、家族みんなで成長できることが幸せ
ライター 片田理恵
写真 神ノ川智早
夫婦として、さまざまな活動のパートナーとして、7歳の息子の父と母として、ともに歩む齋藤紘良(さいとうこうりょう)さんと美和(みわ)さんに、おふたりの子育てについてお話しを伺っています。
お父さんの得意技「つくって遊ぶ」に続く後半、なんと今度はお母さんならではの「つくって遊ぶ」を大公開。齋藤家のクリエティビティあふれる暮らしが育む、豊かな時間を見つめました。
本は人生を助けてくれる存在だと伝えたい
編集者としてキャリアをスタートさせた美和さん。雑誌や書籍を手がけ、saitocno名義で発行しているミニマガジン「BALLAD」では編集長も務めています。
現在はしぜんの国保育園で子育て支援を担当。子どもたちと過ごす日々を送りつつ、昨年は初めて絵本の翻訳にもチャレンジしました。
そんな美和さんの好きなことは「やっぱり、文章を書くこと」。
美和さん:
「本と文章に助けられてきた人生だなって思っています。子どもの頃から書いたりまとめたりすることが好きだし、息子にもそれは伝えています。仕事をしているところも日常的に見ているし、迷ったときは相談もするし」
「言葉との遊び」が世界の広さを教えてくれる
晴都くんに今好きな本を聞いてみました。選んでくれたのはこれ、『りんごかもしれない』。
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」という世界の不可思議なおもしろさが詰まった1冊。夜寝る前に読む絵本のリクエストでも頻度が高いそうです。
美和さん:
「本との関わりを一緒につくっていくのが楽しいです。本屋さんに行って、これはどうだろうって話しながら選ぶ。私も母親に図書館や書店によく連れて行ってもらいました。選んだ本を読んで、どんなふうに思った?ってまた話す。言葉で遊んでいる感覚ですね」
自分の言葉を獲得していく過程には、自由に言葉と遊ぶという体験があります。写真集も、絵本も、保育者のために書かれた専門書も、すべてが一緒に並んでいる齋藤家の本棚には、確かに“遊び場”の楽しい雰囲気が漂っていました。
子育ては「ひとり」じゃ、できないから
美和さんが翻訳をした『自然のとびら』は、現在第2弾を製作中。平日は保育園の業務があるため、翻訳の仕事にあてられる時間は自ずと早朝か休日に限られます。
美和さん:
「夫の実家は隣ですし、晴都の従兄弟たちもすぐ近くに住んでいるんです。
毎朝集まって朝ごはんを食べるなど、普段からとても身近に暮らしていますし、みんな私の創作活動に協力してくれます。日中は従兄弟の家にお邪魔して、子ども同士で遊んでいるのを近くで感じながらパソコンに向かっていました。
時々息子が私のところに来ると『この言葉とこの言葉だったらどっちがいいかな?』って相談したりして。
私はいろんな人と話すのが好きなので、夫はもちろん、夫の両親や保育園の先生、近所のおばあちゃん、まわりにいてくれるたくさんの人たちと話をする時間がすごく大切だと思っています。
いろんな人に相談するから、たとえ悩みが生まれても残らないんですよ。話しているうちに気持ちが楽になるし、スッと解決してしまうこともある。子育てはひとりではできないですね。
だからこそ保育園でも、地域のお母さんたちの“場”づくりをしたいという思いが強いんです」
初めての“編集”は手作りのポケモンカード
7歳の男の子らしく、晴都くんは「ポケモン」も好き。とはいえ市販のおもちゃやカードはほとんど持っていません。
だったら「つくる」! これがお父さんとお母さんから教わった遊び方。
白い紙にポケットモンスターのイラスト、名前、特徴、強さの度合いなどを自ら書き、それを厚紙に貼って、同じ大きさに切った自作のカードを見せてくれました。
ていねいに描かれたキャラクターには着彩が施され、レイアウトもしっかり統一されています。これぞ“編集魂”。美和さんも知らないうちに、自分で工夫してつくり始めていたのだというから驚きです。
お母さんは、ちゃんとあなたのほうを向いているよ
一緒に車に乗る機会が多いという美和さんと晴都くん。ふたりでゆっくり話す時間は楽しくて、嬉しくて、愛しいひとときです。
美和さん:
「学童に迎えにいく車の中で、仕事の顔から母親の顔に戻る感じがします。私は息子の先生になる必要はない。保育園の仕事と子育てはやっぱり違うんです。子育ては日々の暮らし。『今日何が食べたい?』と尋ねたり、息子が話したいことをゆっくり聞いたり」
多忙さに追われて、目の前で一生懸命話す我が子につい「あとでね」と言ってしまうこと。そうしてあとからちゃんと聞いてあげたかったのに、と自分を責めること。お母さんなら一度は覚えがあるかもしれません。
美和さん:
「保育園の頃と違って、今は日々の様子が全部はわからない。人間関係も複雑になってきます。でもそれが新鮮なんですよね。まっさらな状況で息子からいろんな話しを聞くのがすごく楽しい。
私は働いているので一緒にいる時間は短いかもしれないけれど、たとえ何かをしながらでも『ちゃんと聞いてるよ』という姿勢だけは伝わるようにと意識しています。手を動かしていたとしても大人のふるまい次第で子どもの捉え方は違うと思うから。
子どもが話しづらくならないように、話せなくならないようにってことを一番気をつけたいですね」
この美和さんの言葉は、すべてのお母さんに手渡したい“お守り”のようだと感じました。心も体も常に100%で向き合うことはできないけれど、料理や掃除をしながら、その時にできる範囲で我が子の方を向く。話しを聞く。
「子どもと向き合えていないんじゃないか」と悩むよりも「それくらいでいいんだ」と思えれば、気持ちはずっと楽になれるのかもしれません。
これまでも、今も、これからも、子どもはずっと「かわいいこ」
紘良さんが参加するバンド・COINNには「かわいいこ(作詞・作曲/齋藤紘良)」という歌があります。
かわいいこ/おとなになってもかわいいこ/いたずらずきでも/いつのまにかしなくなる
子どもが成長し、少しずつ大人になってゆく。親にとってはきっと、その過程のすべてが愛おしいものなのでしょう。赤ん坊の頃はもちろん、いたずら盛りの幼少期を過ぎて、まだ見ぬ未来もきっと同じ気持ちで「かわいいこ」。
そんな子育てへの思いがぎゅっと詰まったとてもシンプルな言葉に、大きくてあたたかい愛情を感じました。
子どもの成長は「人間関係が深まっていく」こと。親子として、家族として、人と人として、関わりあえる部分が増えていくこと。それこそが子育ての最大の喜びなのかもしれません。
美和さん:
「子どもはただただ、本当にかわいいですね。息子には『かわいい』と口に出して伝えているし、毎日抱きしめています。
実は、私も初めての子育てでわからないことだらけなんですよ。つい自分のことばかり考えてしまって反省したり悩んだりすることはしょっちゅう。でも、そんなのは当たり前、むしろそれでいいんじゃないかなと思っていて。
わからない同士、家族みんなで成長していけることが幸せだなと思います」
(おわり)
齋藤紘良/齋藤美和
「大人と子どもを文化でつなぐ」ふたりぐみ。緑豊かな町田にスタジオ兼アトリエをかまえ、こどもたちと暮らしながら、音楽、執筆活動を行っている。saitocnoの名義で、伝承文化を大切にしたミニマガジン「BALLAD」を発行。http://www.saitocno.com
ライター 片田理恵
編集者、ライター。大学卒業後、出版社勤務と出産と移住を経てフリー。執筆媒体は「nice things」「ナチュママ」「リンネル」「はるまち」「DOTPLACE」「あてら」など。クラシコムではリトルプレス「オトナのおしゃべりノオト」も担当。
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