【あのひとの子育て】家族と一年誌『家族』中村暁野さん〈後編〉家族を作りながら、家族になっていく
ライター 片田理恵
夫婦として、仕事のパートナーとして、6歳の長女と今冬生まれてくる長男の父母として、ともに歩む。
夫であるクリエイティブディレクター・中村俵太(ひょうた)さんの妻で、家族と一年誌『家族』の編集長を務める中村暁野(あきの)さんに、おふたりの子育てについてお話しを伺っています。
「家族とは何か」を自らの視点と体験で見つめる暁野さんにとって、中村家の今とこれからはどんなふうに映っているのでしょうか。
家族っていいことも悪いことも両方ある
写真/奥山由之(『家族』取材撮影時)
『家族』を作る少し前、俵太さんはディレクターとして勤めていたギャラリーから独立。自ら会社を立ち上げました。それによって家族と過ごす時間、夫婦で話し合う時間、これからのことを一緒に考える時間が生まれたといいます。
暁野さん:
「取材ではあったけど、初めて家族旅行ができたことはすごく嬉しかったし、大きかったです。ただただ3人で同じ時間を過ごして、出来事の全部の瞬間に立ち会って。やっぱり家族っていいことも悪いことも両方あるんだなとわかったし、それが家族なんだよなと感じました」
初めての家族旅行がくれた「このメンバーが私の家族なんだ」という実感。それは、理想のお母さんにならなければという思い込みに苦しんでいた暁野さんがずっと欲しかったものでした。
父と娘、それぞれの遊びがつながる家
自宅リビングの庭に面した窓の外には、俵太さんお手製の「たねちゃんハウス」があります。たねちゃんというのは娘の花種(かたね)さんの愛称のこと。
床と高さを合わせてウッドデッキを敷き、ベニヤ板を塗装した壁をつけて、トタンの屋根を乗せた、1.5畳ほどの空間。木枠で窓をつけ、机や棚を作り付けて、ランプヘッドには植木鉢を使うなどユニークなDIYアイデアが満載です。時計の文字盤は花種さんが4歳の時に描いたもの。
暁野さん:
「夫はなんでも作っちゃう人なんです。たねちゃんハウスも2〜3日でダーッと。娘のためにっていう気持ちももちろんあると思うんですけど、何より作るのが楽しいんじゃないですかね。自分の作りたいように作って、娘の希望や要望は特に聞かないという(笑)」
サンルームのようにぽかぽかと温かいこの場所は、もちろん花種さんの大のお気に入り。いちごやお姫様など、好きなものをたくさん並べたお絵描き作品のなかには、パパへの手紙も混じっていました。
「ぱぱ おしごと がんばってね」
一般的にはダメでも、娘を信じて「甘やかす」ことも
中村家の食卓は、これまた俵太さんが作ったという大きなグレーのテーブル。天板にモルタルを塗って、無骨なのにどこかクラシカルなニュアンスを作り出しています。暁野さんが食事中のエピソードを話してくれました。
暁野さん:
「娘が、最後のひと口を『食べさせて』って言うんですよ。食べたくないものや苦手なものがあると、そうやって甘えてくる。
最初は『自分でできるでしょ』って言って諭してたんですけど、その後ものすごく不毛なやりとりが延々と続いて、しかも結局食べないというのがわかっているので、今は『はいはい』と食べさせてます。
6歳だし、もちろん自分で食べられるんですけどね(苦笑)。
『そんなに甘やかして』という人もいるとは思うんですけど、じゃあ彼女が自立すべき大人になっても同じことを私に言うかといえば、きっと言わない。だから甘やかしだとはわかってるけど、今この子には、何らかの理由で甘やかしが必要なんだろうなと思えばOKなんだろうって考えてます。
理想とか、一般的には、とかは置いといて『私がどこまで娘を信じられるか』で決めたいなと思って」
朝の身支度で大騒ぎ。当たり前を続けるって簡単じゃない
壁の下の方、ちょうど子どもの視線の高さの位置に張り紙を見つけました。母と娘がふたりで話し合い、暁野さんが書いた「あさのよていリスト」。
しっかり朝ごはんを食べさせ、身支度をさせ、持ち物を用意して、時間に遅れずに登園する。当たり前だけれど、その当たり前って、簡単ではありません。それはお母さんにとっても、子どもにとっても。
暁野さん:
「このリスト通りには全然できてませんね(笑)。そもそも保育園が好きじゃない。『行きたくない』って大騒ぎする日もあります。
『大人っていいな』って言ったことがあるんですよ。『自由でいいな』って。父親も母親も、仕事と言えど好きなことをやっているようにしか見えないんだと思うんですよね。『たねちゃんなんか保育園だよ!』ってニュアンスで話してたから」
あのね、自由に生きるって大変なんだよ
写真/奥山由之(『家族』取材撮影時)
暁野さん:
「自由に生きてほしいなぁと思います。自由っていいことだと思うから。でも、自由に生きるって大変なんだよ、ということも伝えたい。
自分の好きでやっていることでも、もちろんさまざまな制約がありますよね。矛盾もするし、責任も伴う。だけどその大変をちゃんと背負ってこそ、自由になれるんじゃないかなと思うんです。
そのために親ができることは、親も自由でいること。親の私がどれだけ自由にいられるのか。社会の中でも、家族の中でも。家族は最小単位の“社会”ですから」
俵太さんの考えも、言葉こそ違えど根っこは同じようです。暁野さんいわく「足下に転がっている石ころをわざわざ親がとってやる必要はない」というのが子育ての信条。
暁野さん:
「保育園がつらくて、もしかしたら小学校もつらいかもしれない。でも、学校ってつらいもんでしょって。私が心配して不安になっても『それは信じきれてないから。大丈夫だよ』って言うんです。信じて、傷ついてこーい!っていうくらいの気持ちで送り出してやればいいんじゃないかって」
「家族」は夫からの最高のプレゼント
写真/奥山由之(『家族』取材撮影時)
悩んで苦しくて、分かりあえて嬉しくて、ホッとしたのもつかの間、また新たな心配が訪れる。家族だからこその濃密な日々が、素敵だったり素敵じゃなかったりしながら、続く。
それは言葉にするなら「生きる喜び」のようなものではないでしょうか。暁野さんの葛藤とそれに向き合う姿に、私は強く心を揺り動かされました。
暁野さん:
「家族と一年誌『家族』は、夫からもらったプレゼントだと思ってるんです。家族について感じたり考えたりしたことを書いてみたい、という私の気持ちに形を作ってくれた。『できるよ』『作ろうよ』と前に進めてくれた。
やりたかったけど、本当にやれるかなんてわからなくて、でも、やれたんです。これからももがき続けるとは思うけど、そんな私と向き合ってくれるこの人たちと家族でいられてよかったなって、今は心から思います」
現在は『家族』2号目の刊行を目指して取材を重ねている中村家。次はどんな家族の姿を見せてくれるのか、楽しみです。
(おわり)
写真1、3、4、5、6、7枚目/神ノ川智早
中村俵太さん・暁野さん
俵太さんはアートディレクター、暁野さんは編集長として、家族と一年誌『家族』の企画・デザイン・編集・執筆を手がける。長女・花種さんと3人暮らしで、今冬に第2子を出産予定。現在は『家族』2号の取材を進めている。http://kazoku-magazine.com
ライター 片田理恵
編集者、ライター。大学卒業後、出版社勤務と出産と移住を経てフリー。執筆媒体は「nice things」「ナチュママ」「リンネル」「はるまち」「DOTPLACE」「あてら」など。クラシコムではリトルプレス「オトナのおしゃべりノオト」も担当。
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