【ドジの哲学】家族もあきれるほど、涙がでる。
文筆家 大平一枝
ドジのレポート その3
泣ける病
ずいぶん前に「知らない子の卒業アルバムを見ると、必ず泣いてしまうおばさん」を、テレビでレポートしていた。卒業アルバムならどんな子のものでも、反射的に泣けてしまうらしい。
「これ、おかんじゃん」と子どもたちに言われ、「んなこたあ、あたしは1度もない」と言い返したものだ。
ただ、その「見ると泣ける」という条件反射のテレビ番組ならいくつかある。箱根駅伝のCM、熱闘甲子園のエンディング、子だくさんドキュメンタリー、小さな店でコロッケを40年揚げ続けるおじさんにインタビューする散歩番組。これらを見ると100%すぐに泣ける。歯を食いしばっていても、気がついたら涙があふれ出ている。
最近、それにくわえて、電車の中でむずかる子をあやしているお母さん、作務衣姿でてんてこ舞いで客の注文に応じている居酒屋のバイトの女の子を見るだけでもこみ上げてくることがある。
どれもとるにたらぬ日常のささやかな光景だが、自分が通ってきた道や、一生懸命頑張ることの尊さなどを、気づかせてくれるからだろう。
ほんの数秒で、ぼたぼた涙をこぼすので、家族はもはや呆れて誰も反応しない。
年を取るというのは、いろんな種類の淋しさと共生することであり、同時にいろんな種類のきらきらしたものに共感したり、心を寄せることなのだなあと思う。もう自分はそんなにきらきらできないけれど、他者のそれをまのあたりにするだけで十分自分も幸せになれる、おすそわけみたいな気持ち。
いちばん最近泣いたのは、息子のユニフォームが飾られたサッカーの試合のベンチ写真だ。留学していて不在だが、心は一緒に闘っているという学友のメッセージがじんじん伝わってきた。
青春はいつも、通り過ぎた後に眩しかったことに気づく。息子も遠い国の空の下で画像を見て泣いたという。
文筆家 大平一枝
長野県生まれ。編集プロダクションを経て、1995年ライターとして独立。大量生産・大量消費の社会からこぼれ落ちるもの・こと・価値観をテーマに、女性誌、書籍を中心に各紙に執筆。『天然生活』『暮しの手帖別冊 暮らしのヒント集』等。近著に『東京の台所』(平凡社)、『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)『信州おばあちゃんのおいしいお茶うけ』(誠文堂新光社)などがある。
プライベートでは長男(21歳)と長女(17歳)の、ふたりの子を持つ母。
▼大平さんの週末エッセイvol.1
「新米母は各駅停車で、だんだん本物の母になっていく。」
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